第54話 権威からの逃亡者
「敵対者との因縁は、今後の作戦にも影響が出るかも知れない――。オレが言えた義理ではないが……話してくれるか?」
「――はぁ……。話さない訳には……行かなくなったわね。何から話した物やら――」
議長閣下より要望のあったファクトリー防衛の依頼は、傭兵部隊の引き際の良い撤退で成功を見た。
無論、今まで執拗に襲撃を繰り返していた所――あまりに良すぎる引き際には、違和感しか浮かばないが。
確実に裏があると見て間違いない――その点を後で指令へ意見具申の必要があると感じながら、もう一つの引っ掛かる点の解明を同僚へ持ちかける。
現在の【
整備クルーも協力し、今後の戦力増強のための備え——予想される敵勢力への対抗策、正規の軍事防衛兵装を速やかに剣を模した旗艦へ移す。
すでに警戒態勢がクリアとなる中——休息をとる様指示を受けたオレ達霊機のパイロットは、格納庫を一望するいつもの展望室で小会議を開いていた。
各々が軽く
会議と言っても、それは個人のプライベートを追及する
居合わせるのはオレを始め、直接内容の片鱗を聞き及んでしまった
「通信ログにも残っているから、概要は察していると思うけど——あの傭兵の子が発言した通り……私が以前いたのは地球は日本【三神守護宗家】が一家——」
「……【ヤタ家】の第一分家である
言い
それを無理に聴きだす事も出来ないゆえ——彼女の心が、決意によって踏み出すまで真摯に待つとする。
察するこの場の一同も決して急かしたりはしない——その配慮を読み取り、同僚の女性は重い口を開く。
「——そして彼女は
「……そう……私が【ヤタ家】の当主継承を蹴ったばかりに、彼女はお家共々露頭に迷う事となったの……。それが宗家の伝統あるしきたりとは言え……恨まれて当然よね。」
重苦しい雰囲気が
オレ達宇宙で生きる宇宙人は、
強大な権力と、伝説的なカリスマ力で
しかしそれは——裏を返せば、熾烈なる権力闘争の闇が宗家台頭を支えていたと言う事実。
目の当たりにした二人の新参——特に……何も知らずに
その沈む状況へ光明を差し込んだのは、同じく宗家と言う権威世界で見事その座を会得した人——
「
「——何より
それは慈愛に満ちた擁護の言霊——
C・T・Oの隊員誰もが幾度の挫折に見舞われようとも、この慈愛を受け前に進めたと口にする——
「——そのすんませんっす!俺、出しゃばってしまったみたいで……。けど——状況は知らないけど、
若さ故か——
熱き
「——あなた……生意気。」
「えっ!?あ
恥ずかしさが強烈なデコピンとなって、陰に悩む大尉から格闘少年へと叩き付けられる。
あの凛々しさを絵に描いたと評される同僚
途端に途切れる重苦しさ——その場に集まる全員が失笑を生み、沈んだ場の空気が払われると話は終わりと神々しき女神が会議終了を告げる。
「まだまだこれから、難儀な案件もあろう思います。せやけど今は目の前――先ずはあの敵対者に対する備えが最優先。皆もよろしゅおすな?」
「――と言う訳で、さあさあパイロット様方はしっかり休息取りなはれ。解散解散。」
****
しかし――
ファクトリー内部工場区画、搬出用ゲート付近――難しい顔が尚しかめっ面に変化した整備チーフ殿が頭を抱えていた。
「まいったなこりゃ……。こいつぁ指令にどう説明すんだよ。」
「大変申し訳ない――こちらも、敵傭兵部隊襲撃対応で人手を取られてな――」
「――ああ、そいつぁ済んだ事だ……どうしようもねぇ。しかしなぁ~~――」
ファクトリー側――兵装群搬送に尽力する企業の社員も、自分達の至らなさを悔いていた。
その原因とは――
『こちら
「ああ……指令殿。こいつはなんと言っていいやら……搬入予定だった機体が見事に被弾してやがってですね――その……このまま運用は正直キツイと言わざるをえんでさぁ。」
作業現場指揮にあたる軍曹は有酸素・無重力空間対応の簡易船外活動服を着込み――そのヘルメット投影型ディスプレイを介し、映しだされる艦隊指令。
参った表情の軍曹が、ディスプレイ視界を反転し全域を見渡せる様視点変更――映し出された工場区画内の惨状に、艦隊指令が大きく嘆息する。
すでに緊急用防御隔壁によって気密は保たれてはいるが、区画別の重力制御装置までもが被害を受け――破壊された機体の残骸が無残に無重力の宙を舞う状況。
『――先ほど傭兵部隊撤退の引き際、後方に控え攻撃に参加していない機体より――複数の高エネルギー照射が確認されている。まさかとは思ったが……やってくれたな。』
想定外―― 一見部隊としての規律すら放棄したかの様な、奔放極まりない無法者。
だがしかし、それをあえての陽導とし――恐らくは紛う事なき傭兵であり、プロフェッショナルとして金の分はきっちり働く集団。
敵に対し、想定外とも取れる姿をあえて戦略として組み込む部隊。
それはどこか、あの
度重なる想定を越え始めた事態――しかしこのファクトリー防衛に関して言えば、
部隊の要であるフレーム隊――霊装機を駆る者はよくやっている。
言うなれば剣を模した旗艦を総括する指令が、後手に回り続ける現状そのものこそが不手際と言えた。
だが指令とて好んで後手に甘んじている訳ではない。
ここに来て
それは一時的な戦闘における策とは一線を画す、大規模なスパンで事象を捉え――先の先まで見通せねば策の渦中へ引きずり込まれる、大局を見据えた策略。
それは正に漆黒の
「機体運用に支障――今後への影響は極めて大きい……。さて、どうしたものか――」
剣を模した旗艦ブリッジにて、状況を聞きえた苦難の指令――それでいてなお、状況打開となる策を模索する。
その決して折れぬ指揮官然とした態度が、ささやかな光明を呼び込む事となる。
ブリッジへ鳴り響いた呼び出し音――通信オペレート席で、思案する指令の指示を心待ちにするヴェシンカス軍曹……咄嗟に訪れた光明の相手先を確認し指示を仰ぐ。
「指令、今カベラール議長閣下より通信許可の是非が――お繋ぎしますか?」
無論と首肯し繋がれる通信――ブリッジ中央メインモニターへ議長閣下が映される。
大体は聞き及んでいる旨の表情が浮かぶも、そこに悲観する様な感じは見て取れない。
しかしその口より――
『ファクトリー防衛は傭兵部隊の撤退により
何かしらの光明と感じ、閣下殿の言葉を待った指令に疑問符が浮かぶ――が、そこに重要な意味が隠されていると察し即座に対応する指令
「承知しました――すぐに場所を準備させます。では後ほど――」
「各員このまま、ファクトリーからの軍事物資搬入を継続――あらかたの準備が整った後、しばしの休息を挟め。これは厳命だ。」
難局にあたるためには、いかなる時も隊に所属する者達のコンディションを最高に保つ――その心意気が伝わってくる様な厳命と言う指示。
緊張の糸を解す時間を与えられると知り、それまで気を抜かぬ様務めねばとブリッジクルーを初めとする全区画の隊員が奮起し――
「「了解!」」
艦内外全周波からの勇ましい復唱が木霊する。
その中でただ一人――秘匿回線による対応との言葉に、何かしらの特別な対応を取ると言う趣旨が含まれた事に感付いた者がいた。
「(ちっ!)」
視線を僅かに落とし――秘匿回線と言う言葉に
誰にも気付かれぬ様小さく舌打ちした女性が、不機嫌なまま己が任務に戻っていた。
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