結成、クロノセイバー部隊
第53話 逃げる者と追う者と
その強襲に思考が警鐘を鳴らす。
襲い来る部位が腕か脚の違いはあろうとも――直感でその一撃は危険と判断した。
今までの
すぐに俺はただの暴漢を相手取る構えから、殺意ある強敵を迎える構えへ移行する。
自分の感覚は正しく――構える赤き霊機の鼻先を
俺が扱う、スポーツ競技の延長上にある格闘技ではない――暗殺拳の
さっきまで打ち合っていた狂戦士――そこで余裕を見せ手抜きをかましていれば、間違いなく直後に訪れた殺意の一撃は
「新手!?――けどこいつも……やる!
「――
直感はさらにそのスペシャリストとも理解している、
……けど――
モニターの先に映るその上官の表情が、驚愕に満ちていたのを目の当たりにしてしまう俺。
そこへ再び強襲する新手の敵フレーム――先の感覚通りの足技が、機体各所……人体で言う弱点と、機体的な弱点を精密破壊に来る。
一撃一撃があの戦狼の様な強さを誇示し、圧倒する型ではない――殺意を篭めて目標を壊しに来ている。
振り抜かれる破壊の一撃を交わしつつ、
それが、格闘技術の差を機体性能が埋めている形であると察するには十分すぎる状況――けどだからと言って引き下がれない。
俺はエリート隊長殿へ自分をしっかり見てくれと豪語した――それはただの格闘技云々の事ではない……この機体を駆って、戦場を駆ける価値があるかを否かを差した物。
格闘技術に差があろうが――機体で圧倒できるならば、それを戦術へ組み込む。
格闘家としては及ばずとも――防衛部隊としては負ける訳には行かない。
――
「殺意の一撃だろうとも……俺の拳は
闘志が赤き機体へと行き渡り、電子の双眸が灼熱の奔流で燃え上がる。
「紅円寺流閃武闘術、真・弐拾壱式――
敵対者が振るう殺意の暴脚――
それが機体の防御線――身体にあたる部位を中心にし、円を描いたライン。
円運動により、機体四肢が
そのラインは、〈深淵を渡る者〉の能力を最大限に発揮出来る最強の結界だ。
意識を動から静へ――瞳を閉じ、宇宙と意識を共鳴させる。
構えを取る俺の思考へ浮かび上がる、
その
「つあっっ!」
吐き出した息と共に、赤き巨人が宇宙の膜を滑る――否、滑る様に足捌きで敵の懐へ侵入する。
宇宙空間と言う、何もないはずの
刹那の一撃は、左上段から右中段の連撃を敵へと打ち入れる。
その様は紅円寺流の基礎となっている反撃の技の一つ――少林寺拳法の動き。
先の先を取る力でなく、後の先を取る技で瞬時に反撃を打ち返す。
元来紅円寺流は、本質を地球は日本の少林寺拳法を中心とし――宇宙社会においての武道として、剣道や柔道と共に学業や兵士修練の一環として取り入れられたらしい。
そこから少林寺以外の各技術を武道の普及と称し、社会へより浸透させるために昇華され――総合格闘術へと変化したそうだ。
そしてそれを、一代で成し遂げたのが俺の親父であり――紅円寺流皆伝・元総師範の
実質格闘技を振るう際、機体のシステムに目を通し気になったのが機動用スラスターの機体分布――特に旋回を元にした高機動を再現するため、下半身に補助スラスターが集中していた。
これは本来宇宙戦闘を念頭においた高機動化なんだろうけど、その分布位置が格闘における足技に弊害の出るレベル。
要は足技を中心に戦えば、多くのスラスターがダメになり――機動力を失う設計って感じだった。
そこで頭を過ぎった両親の顔――ニヤニヤしながら、人が拳打や体捌きだけの戦いで苦戦する様を想像してただろうと嫌になる。
うちの両親はそういういやらしい所で、人に試練を与えるのが好きな人種なんだ。
それに比べれば、クオンさんの的確且つ直接的な指導の方が分かり易いとも言えるな。
事前に嫌と言うほど叩き込んだ、機体のメリットとデメリット――純粋に攻撃として使用出来るのは、拳撃と体捌きからの当たり。
格闘技としてはなかなかの縛りのキツさがある。
だからその分主体となる少林寺技から、流れる様に攻撃の構えまでも変化させ――空手や八極拳の技へ繋げる様に戦っている。
機体の重要部損傷を避けながらの格闘戦は、なかなか骨が折れるけど――最初の戦狼との戦いでは、そんな余裕……欠片も持ち合わせてはいなかった。
つまりは現状の戦闘は以前に比べ、格段に精度の高い攻撃が繰り出せているはずだ。
けど――
刹那に滑り込ませた機体からの、打撃による連撃――普通フレームと言う機体で、完全なゼロ距離からの肉薄は確実な致命打を与えてもおかしくはない。
しかし眼前――肉薄した殺意を振り撒く機体は、その連撃の合間を縫う様に
それも恐ろしい精度と速度で、だ。
赤き霊機と敵機体との性能差がなければ、確実に
すぐに俺は、敵機体を強引に突き飛ばし後方へ――体勢の立て直しを計るため距離を取る。
「あっ……ぶねぇ~~!?完全に殺人拳の部類――迂闊に攻め込めやしない!」
弾かれた敵の殺意振り撒く機体は当然……こちらの態勢など立て直させるまいと、すぐに肉薄して来る――そう思考した俺は一瞬肩透かしを食らう事となった。
『――こちら、傭兵部隊所属……ユウハ・サキミヤ。
「――は?……え?と……お姉……様?」
正直肩透かし所か混迷の渦中へ叩き込まれた感じである。
通信の主は女性――しかし今まで出会った女性とは、何れも異なる感じ……所か殺意ダダ漏れの視線。
常識の範囲外の言葉と共に、強制通信がその女性より送られ――戦闘中であることすら頭からすっ飛ばされる。
流石に何を言ってるのか理解に苦しみ、質問を返そうと試みたんだけど――
「えっと~~……その、お姉様って――」
『
とんでもなくキツイセリフで蚊帳の外へ追い出された――いやむしろ、この機体は俺がメインで操縦してるんですけど?と返しそうになる。
と、思考した事で一つの引っ掛かりを覚えた。
この殺意に塗れた敵対者が求めるのは――まさか
思考が
『……何で……あなたがここに?こんな所で何をして――』
要求に応じたおっかない上官である
戸惑い、疑惑――愕然とした感情が入り混じるそんな表情。
眉根に浮かぶ
その回線を耳にした殺意の敵対者――正直俺でも、気を張らねば打ち負かされるほどに殺意が弾け――
『――やっと見つけた……!お姉様……いえ、【三神守護宗家】を逃げ出した卑怯者っ……!やっと――』
卑怯者?
敵対者の女性はそう言った――そこに含まれた殺意は、間違いなく
しっかりと開く大きな瞳が、鋭く
並大抵の人間ならば視線で殺されてもおかしくはないぐらい――今までに出会ったどの敵対者よりも、純粋に憎悪を感じた。
それは
****
彼女からすれば、本来こんな宇宙で出会うはずの無い見知った人物――それがモニターを席巻し、あまつさえ殺意すら叩きつけて来る。
殺意を湛えし傭兵部隊所属を名乗る女性は、その口で【三神守護宗家】の名を言い放ち――卑怯者と
傍目から聞き及ぶだけでも、それが地球に居を構える宗家の本丸に関する内容と理解出来た。
『――私は……逃げるつもりでここに居る訳では――』
『黙れ、卑怯者!あなたが我が【ヤタ家】を捨てさえしなければ、私達の――末端の分家ですらも【ヤタ宗家】を名乗る事が出来たんだっ!』
『――それなのに、こんな
殺気を湛えた傭兵の言い分は、明らかに【三神守護宗家】と言う地球は日本が有する巨大なる防衛組織に関する物である。
そこにはC・T・Oと言う部隊内で、凜とした振る舞いを然としていた彼女が見る影もない程。
言い返せない――大尉
事実であるが故に言い返せる訳がない。
彼女が地球よりこの宇宙へ移住したきっかけは、まさにヤタ宗家次期当主と言う重圧からの逃亡に他ならなかったのだから。
だが――
言い返せず、ただ苦渋を舐める本人に代わり――その言い分へ、憤慨を覚えた者がいた。
それは赤き灼熱の猛りとなり、殺意を圧倒する正義の信念を
「――黙って聞いていれば好き勝手……!あんたが誰か俺は知らないけど、彼女は――
「ふざけるのもいい加減にしろ、この襲撃者がっ!弱き者へ力を振い――復讐のために武道を
武の真髄を叩き込まれた少年は、戦場と言う武力と暴力の狭間で目覚め始めていた。
武道の真髄である、己が心の研鑽と弱者を労わる強者の器。
それに答えるかの如く、赤き霊装の巨人が赤炎の
灼熱を
「――斎……君。」
言葉を出せず苦渋の表情であった卑怯者と
それは彼女の中で未だ格闘少年は、霊機のパイロットとしては至らぬ高等学生の身分――そう認識していたから。
しかし彼女の予想を上回る勢いで、少年は大きく成長を遂げようとしていた。
少年は英雄と呼ばれる者達よりの期待と、己が守るべき者の人生を背負ってそこに立っている。
何かを背負い前に進む事が、
少年の言葉は彼自身が放つ偽り無き想い――そしてそれに赤き巨人すら呼応した。
大尉の中でも、少年への認識が変化しつつあったのだ。
『あんたに用は無いと言っている!――黙らないとこの私がじかに止めを――』
『そこまでだ、ユウハ・サキミヤ……。こちらの許される作戦範囲の時間を越えた――撤退を進言する。』
熱くなり――互いに引かぬ口撃を始めんとした二人へ、水を差す冷徹を絵に描いた様な声。
強制介入した声が
『――くっ!これからと言う物を……!了解、撤退するわ!』
殺意は未だ赤き霊機を操る者達へ向けられる。
最初と唯一異なる点――殺意湛える傭兵が向ける憎悪の行方が、二人分へと変化していた。
当初の目的である卑怯者と呼んだ大尉――そして自分の殺意を受けて尚、正義を叩きつけて来た少年。
正義を
時を同じくし、割り込まれた狂戦士も興ざめしたのか……殺意の敵対者と共に撤退を始め――ファクトリー防衛戦完遂は赤き霊機とエリート部隊の戦果となって、作戦行動の終了を見る。
敵対者との深い因縁が、また一つ刻まれた形ではあったが――
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