第51話 ファクトリー防衛戦3〈炎陽の巨人〉
精密連携——かのエリート部隊が披露するその動きは、先の合同演習が霞んで見える程に精度をあげる。
それは相手が部隊と名乗るも烏滸がましい、デタラメを絵に描く戦闘狂。
傭兵部隊の情報を議長閣下より聞き及ぶ、エリート部隊隊長クリュッフエル——クリフ隊長は、その様な不逞に対しては確固たる軍人の意思で挑む次第であった。
——だが——
繰り出される連携——隊員の絶妙なる支援砲撃。
敵の動きを先読みしつつ、牽制を踏まえて確実に頭を抑える——そう動いているはずだ。
なのに現実はどうだ——こちらの牽制などお構いなしに突っ込んで来る狂気、先読みしたはずの動きの先は……全くセオリーなど無視した狂気の特攻。
しかも部隊の司令塔であると想定した機体の砲撃——その射線にまで割り込む……動き、攻撃、思考が今まで経験した何れにも当てはまらぬ無法の傭兵。
エリートまで上り詰めた男にさえ動揺を呼び込んだ。
「——こいつ、何なんだ!?部隊としても動けんのか——その上でこの戦闘力……差し詰め狂戦士だな!」
『隊長!これは厄介所じゃないですぜ!?こんなセオリー無視の戦闘狂——むしろこちらが迂闊に——』
屈強な体躯の部隊員——攻撃を受けてなお突撃して来る異様な敵機体へ、奇異の眼差しを向けながら……それでも陣形を崩さぬ洗練ぶり。
異様な敵機体へ確実に攻撃を当てて行く隊員の練度もさる事ながら、この状況——拮抗し、戦闘が長期化の様相を呈し始めていた。
動揺がエリートを揺らす中——まさかの味方である、剣を模した旗艦の本隊……そこへ属する蒼き機体が、耳を疑う指示を出す。
味方機の回線をオープンチャンネルにしていた事で、指示を耳にしたエリート隊長がその険しき目を見開いた。
「——正気か!?あの若造は新参だろう……それをあの狂戦士へぶつけるなど!蒼き霊機の男は何を考えて——」
エリート部隊は一同その指示に戸惑いを隠せない。
当然である——エリートの自分達が攻めあぐねる想定外。
そんな部隊とも呼ぶに値しない、狂気を振りまく傭兵へ——自分達の足元にも及ばぬ新参を矢面に立たせるなど正気の沙汰では無い。
しかし険しき隊長の言葉を予想した蒼き霊機のパイロット——エリート部隊へお株を奪う注釈を、通信にて付け加えた。
『なおこの赤き霊機が接敵した時点で——キルス隊は支援に回って貰う。……バンハーロー大尉、よろしく頼む。』
「な……んっ!?」
流石に強引な指示へ反論を返そうとするエリート隊長——そのすぐ脇を駆け抜けた赤き
変更されたファクトリー指定宙域までは、外部オプションである大型スラスターユニットで駆けつけるも——赤き巨人は何とエリート部隊眼前で、機動力の要であるスラスターユニットをパージした。
武器と形容される何れも携帯せぬ姿——その上機動力の要までも捨てた赤き霊機。
エリート部隊にとっての想定外が、味方からも現れる事となる。
当然その様な馬鹿げた行動を、狂気を振り撒く傭兵が見逃すはずも無く——狂える突撃が赤き巨人を狙い撃つ。
「下がれ若造っ!それは、貴君の様な新参が相手取れる者では——」
いくら蒼き霊機と並ぶ禁忌と言えど、戦う術なくして戦場に立つはただの的。
最悪の状況が頭を過るエリート隊長。
刹那——その隊長に過ぎった結末を見事に裏切る事態が訪れる。
狂気は確実に赤き巨人を捉えた——ばら撒かれる超射程のレールファランクスが爆熱する巨人を文字通り爆熱に包もうとした。
しかしその弾幕が、突如として現れた半球形状の障壁と思しき物であらぬ方向へと逸らされる。
エリート部隊の機体モニターに映り込む、赤き霊機を包む障壁——構成されるエネルギーのデータが彼らの思考に驚愕を生む。
「こ……これは重力子!?まさか、グリーリス——あの重力子相転移機関だと!?」
鋭くも爽やかなるエリートの一角が、展開された状況に思考より引っ張り出した情報を照らし合わせて絶句した……その視界へさらなる想定外が踊る。
言わずもがな弾幕を逸らされようと、肉薄する狂気を纏う敵機体——片刃に切っ先までが半物質で構成される、超振動が宙空を揺らす
その切っ先が赤き霊機を捉える――否、捉えたはずが距離にして僅か数メートル……人間で現すならば数センチ横を掠める。
直撃は確実であったはず――しかし攻撃が逸らされた事実を確認してか、狂気が僅かに動揺した様に後退する。
そして――エリート部隊からすれば、眼中にすら止められていなかった新参の少年より通信が叩き付けられた。
『こちら
格闘家――エリート隊長はそう耳にした。
ご丁寧に面会時に発した言葉への謝罪も追加し――自分を見ろとのたまう新参の赤き霊機の少年。
同時にエリート隊長は己の眼が曇っていた事に気付く――新参の少年を未熟と侮り、目に移る少年の側面で事を測っていた事実を。
その最中―― 一度は後退した狂気の傭兵が、再びその凶刃を
再度の強襲に込められた狂気は先の攻撃を上回る。
殺意――人が生まれながらに持つ感情の一つ。
感情とは、宇宙の高次元を霊力的な振動を伴い伝播する魂の波動――同時に格闘技において天才と呼ばれた少年にとって、相手の力量を見定めるバロメーターと成りうる。
感情の強さ、方向性――そしてそれを制御出来るか否かが、格闘技においての重要なファクターの一つでもある故だ。
赤き霊装の巨人と言う極上の得物を駆る少年は、相手取る者が軍人の規範を大きく逸れるならず者と判断した――規範に則り連携にて戦場を舞うなら、自分では完全に役不足。
――だが、眼前の狂気を糧に……
「きっとそれなりに腕のあるパイロットなんだろう……。だけどそれは――その仲間との協調も取れない動きは、クオンさんやバンハーロー大尉と交えるに値しない!」
格闘少年の
「あんたの様なならず者は――俺の拳で充分だ!」
肉薄せんと迫る狂気の機体――火星圏製
襲う狂気はその一撃に、先の攻撃より数段警戒と殺意を込め――迷い無く放ったはずである。
それでも――
赤き巨人には掠りもせず――攻撃は虚しく空を切る。
刹那――空を掠めた攻撃態勢のまま、狂気を纏う
否――攻撃を逸らした赤き巨人、その機体が狂気の機体の懐へ滑り込む様に体当たっていたのだ。
格闘少年は攻撃をいなすと同時に、敵への強烈な一撃を打ち返していた。
それも彼が初めて赤き巨人と出会った時の様な、まぐれの産物の攻撃などではない――少年が、少年の意志で巨人を駆り繰り出した……正義を纏う一撃である。
》》》》
剣を模した旗艦は全てをモニタリング中――そして映る赤き炎陽の巨人が、爆炎を
敵対脅威に対する戦闘時――戦闘データ収集をシステム管制と平行して担う、小麦色の肌と薄いブロンドが
目覚しき成長――と言うにはまだ早すぎる戦闘データ上昇に、戸惑いが隠せない。
かの蒼き英雄であれば、英雄であるからとの判断で説明も付くと言う物――しかし、今データが示すは赤き炎陽……格闘少年の駆る機体である。
「し……指令……!?こんな……こんな事があるのでしょうか!?」
「
ブロンド小麦色肌のグレーノン曹長――疑わずにはいられない。
今彼女の手元のモニターに提示される現実が、現実とは思えぬ数値を示すから。
戦闘データ――いわゆる機体を制御しているパイロットの、機体側・操縦者側のデータを逐一モニタリングする事で能力の成長度合いを測っている。
パイロット経験の浅いものほど、機体制御は無駄やムラが顕著であり基準とされるデータと比較しても良し悪しの増減が激しいとされる。
対し――優れた熟練パイロットは、セオリー通りの動きはデータに忠実……想定外に遭遇しようと、その機体制御データの乱れは最小限。
それでいて映像記録においては、状況に一切の不安を感じさせぬ動きで観測側すら感嘆する。
そう――英雄と呼ばれた者だからこそ再現出来た、機体制御の一矢乱れぬ動き。
そのデータ上の奇跡が今、赤き炎陽の巨人によって再現されているのだ。
「よく確認したまえ……グレーノン曹長。むしろそれは当然の結果だ――彼の機体データで急激な上昇が見られるのはどの
剣の旗艦指令は驚嘆を覚えつつも、すでに状況を把握している。
指令の問いにハッ!となり、すかさず複数の中空立体モニターを立ち上げ「あっ!?」とその解へ辿りつくブロンド小麦色肌の曹長。
そう――蒼き英雄は主として中・遠距離を中心に、一対多数における対砲撃戦に特化したデータを示す。
対して――
「確認しました!……これは、近接戦――それも格闘戦による一対一の戦闘時です。その際の戦闘データ上昇が、サイガ大尉をも上回っています!」
確認――再提示されたデータへ首肯を返す旗艦指令
まさに示されたデータは偽り無き事実――天才格闘家と言われた少年が、格闘戦において英雄を置き去りにするのは至極当然。
さらに言うならば赤き炎陽の巨人――それは格闘少年が自在にその拳を振るえる様……予めそう設計されている。
言い換えれば――赤き巨人建造に携わる、輝けし
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます