第50話 ファクトリー防衛戦2〈正義〉
「各艦、戦闘態勢へ移行せよ!霊装機隊、キルス隊はファクトリー自警団との共同戦線へ向かえ!負傷者発生に備え——〈
量子・光学視界ですでに3000の距離へファクトリーを捉える
先の
実質3000を上回る距離からの高収束対艦砲――その
結果……対艦砲撃が来る・来ないに関わらず、旗艦が距離を置いて警戒に当たる陣形――防衛行動時の、強力な対空砲台による近接支援をも封じられた形となる。
加えて旗艦の直衞に当たる機体も作戦宙域へ出向く必要があり、本丸を丸裸にされた感が拭えない。
生じたリスクは、あくまで漆黒の擁する部隊に対しての物――それでも、今接敵する傭兵部隊が、無関係とは断定出来ぬため用心に越した事は無い。
それらを踏まえ……感じた直感から今後訪れる、同様か——それ以上の事態への経験となる様、すかさずオレは赤き霊機を駆る格闘少年へ指示を飛ばす。
「
すでにファクトリーへ取り付く脅威への、威嚇射撃開始と同時——周囲のスキャンを敢行しつつ少年の復唱を待ち——
「了解っす!
頼れる復唱が響くと共に、指定宙域へ静止する赤の霊機。
先の気後れが取り除かれたのだろう——行動に淀みがなく、応答した声からも戸惑いが霧散していた。
彼は未だ高等学生の只中——故に事を、良い方にも悪い方にも恐ろしい勢いで吸収する。
ここで迂闊な指示を与えると、
ファクトリーを強襲する影を見据えつつ、後方の後進への指導内容を模索する自分——ふと大きくなった物だなと自尊してしまった。
かつては目指す者——そして物しか見えていなかった自分が、その背を見て追い
背を追う者がいる事が、これ程に頼もしいとは——その事で己も前に進まなければと、意気込みそうになる。
「こちら
厄介と称される部隊——先の漆黒の擁する部隊では否応なしに感じた情報不足を、早急に改善するべくデータ収集を要求する。
厄介・傭兵部隊・火星圏製の機体——この三つのキーワードには、正直懸念材料しか浮かばなかったオレは……眼前を舞い踊る敵機体を見て直感も侮れないと悟るに至る。
それと同様の思考に至った幼きブロンドのサポートパートナー——困惑を浮かべながら、
『サイガ大尉……これ、何ですか!?この敵滅茶苦茶です……!?』
「ああ、世界は広いな……こんな想定外が存在するとは!これが部隊だというなら、力を振り回す個人は皆部隊だろう!」
眼前——光学モニターへ映る機体の動きを見て嘆息する。
すでに視界で精密機械の様に、敵機体への強襲をかけたエリート部隊——あの隊長殿の眉間に寄る
エリート部隊の精密連携を圧倒して余りある、その傭兵機体の攻撃は—— 一言で表すなら〈デタラメ〉だ。
傭兵隊の隊長機と思しき機体は確認している——しているのだが、そこに随伴する僚機……いや、僚機などとは到底思えぬ常軌を逸した行動を取る慮外者。
狂気をばら撒くその機体には、脳裏に危険の文字しか浮かばない。
オレも流石に隊を纏めているであろう機体の行動——それを妨害してまで戦闘宙域を掻き乱す
「
すでに映像が送られる旗艦ブリッジで、オレの言葉を聞く剣の旗艦指令——恐らくエリート隊長と同じレベルの、浮き出た眉根の
そうだろう——指令も流石に、飛ばすべき指示を選びあぐねている。
しかしならばとオレは自分の持てる思考を総動員し——恐らくは、この状況で最も有効な手段を引っ張り出した。
それは正しく自分が先に思考した直感そのもの——
「聞こえるか、
エリート部隊を含めたその通信を傍受する者誰もが、一瞬——思考が停止したのが、見ずとも想像出来た。
けれど——自分の直感がそう答えた。
つまりは——力を振り回すだけの暴漢へは正義の鉄拳こそが有効という事だ。
『……了解っす。すぐにファクトリー宙域へ——俺の拳を引っさげて向かいますっ!!』
皆の思考が停止したであろう中—— 一人、闘志と覚悟を燃え上がらせる少年。
オレの意思はすでに伝わっている——さあ見せてくれ、君に流れる
》》》》
あれはいつの頃だっただろう。
学園初等部も中学年に差し掛かったある日——いつものジュニア格闘大会選抜練習。
家の道場へ合同練習に赴いた、別道場の児童にこれ見よがしの無敗。
その時まだ、自分が誰よりも強い事が嬉しくって——勝利の姿を褒めて貰いたくて……親父に駆け寄っていた。
「おとーさん!どう?俺強いだろ!?大会も絶対優勝出来るよな!」
今にしてみれば何て自意識過剰な初等部児童かと、恥ずかしさが込み上げてくる。
嬉々として走り寄った俺は、親父の言葉がここぞとばかりに褒めちぎってくれるとワクワクし——発せられた言葉で、みるみるテンションが下降したのを今でも覚えてる。
「
崩さぬ笑顔——けど、親父が発した言葉の中には……俺の強さを褒める内容なんて一語も含まれていなかった。
褒めて貰えないと悟った俺は、悔しくて涙目のまま「じゃあ、もっと強くなってやる!」の逃げ口上で走って家まで戻ったっけ。
今思えば本当に、会話すら成り立っていなかったなと苦笑が浮かぶ。
けど——悔しさからか、言葉だけは覚えてる。
〈お前の拳に正義は宿っているか?〉——今俺は親父の言葉の意味を、この身を
それは他でもない——赤き霊機で格闘技と言う拳を振るう俺へ、非道を尽くす
俺の拳がただ敵を打ち倒すだけじゃない——そのための……正義を纏うための舞台を準備してくれた英雄の配慮。
その舞台を掻き乱すは、軍と言う
俺にだって分かる――軍人と呼ばれる人達は、厳格なる規律にて己が武力を暴力に変えぬよう弛まぬ努力を積み重ねている。
英雄の言葉は、あくまで部隊指揮官としての規律を伴う指示である事を脳裏に刻み——
「
『——ええ、了解したわ。……クオンの期待——答えて見せなさい!』
「言われるまでもないっす!——
きっと本来ならもう少し鍛錬が必要だろう——けど相手は無法の
この赤き霊機と、美人だけどおっかないサポートパイロットの上官——それがあって初めて可能な俺の必殺の技——
少しだけ気になってた先の面会——エリート部隊の隊長は俺なんか、新参者過ぎてアウトオブ眼中だった事実。
良いんだそれで——俺は新参、これからあの蒼き英雄を目指して前に進む。
だからその新参が、驚く速度で隣を駆け抜ける様を見せてやる。
その力と拳に——正しき義を纏って。
さあ行くぞ、赤き霊機――
イグンニッションっっ!
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