第34話 凶鳥フレスベルグ
救いし者達はすでに木星超重力圏を離脱、太陽系内縁への航路を取っていた。
対して敵対者である【ザガー・カルツ】は強襲を試みるも、予想以上の抵抗を見せた赤き【
しかし、隊長であるヒュビネットからすればこの現状――ようやく必要な駒が揃ったと言う所であった。
巡宙艦バーゾベルは、【
すでに【
「こいつぁ……、【
新たなる旗艦へ着艦後、まだ不完全な
艦内部はかの【
明るいが落ち着いた白色に近いブルーが、艦通路を初め全体に広がる。
その【
【
何より、その形状の特徴である大翼は広げれば全長を上回るサイズであり、あの威嚇攻撃である超高エネルギー照射を
「作戦前に事前の情報は貰ってたけど、確かに半端じゃないわね。……けど――」
「っておい、ユーテリス!何処行くんだ!?隊長から艦の把握のため規定時刻まで【
この艦は一般の軍に登録された正規艦ではない――
各隊員の常識を超える艦――後の任務への支障を最小限にするため、隊長ヒュビネットより艦の情報把握に努めよとの指示がおりていた。
だが、その指示をおいても彼女はある不満が喉元もまで出掛かり――同僚の戦狼を置き去り隊長の下へと向かう。
当の隊長は現在、艦メイン機関部へ調整に
砲撃手の女は階層のちょうど中核――機関部へ、メインエレベーターを降りた後やや怒り気味の足を向ける。
艦の構造上中央後部へ伸びる推進ユニット。
その最も前方に位置する機関部――重厚な隔壁を兼ねた二重扉を開き、視界に
彼女の開けた視界の先――不満の元になるであろう、機関コントロール部へふわふわと鎮座する人影。
通路から比べれば一際大きな空間――曲線を交えたオリハルコン製パネルが、濃い目のブルーで30m四方を包む機械的な視界。
その中央――
機関の中核を成す機械設備へ、コードと思しき無数の管に絡まれた――まるで艦の一部とも取れる状態で一人の少女が居た。
「隊長!これはどういう事!?……なんでブリュンヒルデまでここにいるの!?それにこれ……冗談じゃない!」
不満の中に怒気も混じる砲撃手は、ブリュンヒルデと呼んだ少女を知りえているのだろう――しかし少女が今ある現状に対しての抗議こそが、彼女の不満の原因でもあった。
「あら、ユーテリス……ご機嫌
砲撃手の言葉に反応した少女が隊長の代わり返答する。
明らかにこの部隊には似つかわしく無いその姿――
色白と言う限度を越える肌色は、血液循環からくる血相が感じられない程の白――
白と黒が程よく配された上下分割のゴシックドレスは、白のメイン生地へ散りばめられる黒のレースと黒のリボン。
その衣服の上から肩、腰、そして脚部を覆うブルーの機械的なパーツで、少女が
「この作戦はそもそも【
「ちょ……あたしはそういう事言ってんじゃ――」
「それはちょうど良いです~。お願いします~。」
さらに抗議をぶつけようとしたユーテリスも、ロストドールと言われた少女の笑顔に毒気を抜かれ――しぶしぶその命を了承する。
本来アリスと呼ばれる【観測者】からの啓示を
【
本来であれば、【アリス・ネットワーク】と呼ばれる
それを踏まえたこの状況――その【
砲撃手と交差する様に機関室を退出するヒュビネット。
だがその思考――当然の様に大方が想定済みと言わんばかりに、二重扉が閉まる隔壁の向こう――口角を上げた漆黒の
「あんたも少しは嫌がりな……。女の子なんだから。」
「私はこの艦の一部ですよ~?何を言ってるんですか~ユーテリスは~。」
【
その無垢なる笑顔を見る砲撃手――彼女の方が複雑な面持ちで、兵器である少女の頭を優しく撫でる。
まるで自分の姉妹でも慈しむ様な瞳で――
独立部隊として単独の任務をこなす【ザガー・カルツ】は、この禍々しき怪鳥に搭乗する隊員が言わば本体である。
しかしその全体数は、剣を模した艦のクルーとは比べるまでも無く少数精鋭――戦闘に直接参加する隊員を含めて尚、
その少数精鋭で稼働させられる艦がまさにこの怪鳥の
【ムーラ・カナ皇王国】において軍用艦はオウル級が中心となり、レッサー、エルダー、それぞれ複数クラス分けされた物が正式登録されている。
レムリア・アトランティス連合国内ではそれに対応する艦として、ビースト級とバード級が配される。
しかしフレーム技術同様、軍用としての歴史が浅く有力な力を持つ機関以外は本格的な軍事武装が揃っていないのが現状とも言える。
【
「隊長もよくこんなにも、ヤバイ武装を揃えたもんだな……。【
「そう……隊長が揃えた。私がそれを運んだの……だから褒められた。」
部隊技術把握のため情報室に
戦狼ともう一人――【不可視のハーミット】、
隊長を褒められたのが嬉しいのか、自分の事の様に嬉々として語る少女――相変わらずの狂気に引きつった笑いを口角に浮かべ、
「っ!……てめぇ、相変わらずキモイな。」
思わず戦狼もドン引きしてしまう。
データ解析と収拾のために設けられた情報室――小ホールサイズの部屋へ無数のモニターから必要な情報を会得中の隊員達へ、さらにもう一人が合流する――のだが、いささか険悪ムードへ移行する事となる。
「どう?この艦が厄介とは聞いてたけど……はぁ、あんたも居たわねそういや……。」
機関室同様の重厚な二重扉を越え――同僚へ話しかけたつもりの砲撃手。
そこにいたもう一人が視界に映るや否や悪態が口を付いた。
「悪い?……むしろあなた、居なくてもいい……。隊長を守るのは私一人で充分……。」
「あんだって!?」
悪態で点火されたのか、黒髪の少女が狂気の笑みのまま向き直り――砲撃手へ悪態で応じる。
「……お前ら仲いいな……。」
「「どこが……!?」」
戦狼もいつもの事かと呆れ顔であえて皮肉の言葉を挟むと、仲良く反応した女性と少女が見事に声を被らせ戦狼へ怒りを飛ばす。
被った事で互いに顔を赤くしながら、再び火花を散らす二人を見てクックックッと笑いを
その風景はおおよそテロリストを名乗る様な部隊には程遠い――家族の様な繋がりが見え隠れしていた。
そして全ての準備を滞りなく進める【
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