第33話 くつろぎは騒がしく
「さあ皆はん、飲み物は行き渡りおしたか?では、これより第2回――宇宙の懇親会パーティーを始めますえ。」
……何がどうしてこうなった?
まだ【カリスト】を離れて、一時間と経っていない【
しかもまたしても主催は
木星の超重力圏を抜ける第三宇宙速度へ達した【
これ以降は基本ソシャールとは火星圏近郊まで
高重力地帯を脱した今であれば、ピンポイントで衝突の危険が及ぶ可能性は極めて低くなる。
懸念材料としては【ザガー・カルツ】の動きだが、先の様子であれば追撃も無いとの判断で警戒解除となったのだ。
『皆はん、お疲れさまおした。機体チェックが済み次第小用を済ませ、大ホールへ集合おす。よろしゅおすか?』
わざわざ格納庫まで出向いた
一瞬状況を図りかね、
それは自分で確かめろと言うサインか、仕方なくチェックを早々切り上げ機体を後にした。
今に思えば8年と言う歳月は、人の心情や行動を変貌させるには充分すぎる長さだ。
オレの様に進む事を避け、停止した時間の流れでその人生を棒に振った者でなければ、大きな成長と共に社会への多大な貢献を実現していておかしくは無い。
少なくとも
「クオンさん、私先に行ってきますね?ちょっとお化粧直しを……。」
「ああ、構わない。しっかりおめかししてくればいい。ずいぶんとその――いや、しっかりチェックした方がいいな。」
「??」
メインコックピットとサブコックピットは前後で連結した形だが、一人一人の生存性を高めるため隔離され個々が強固なシェルター形状となる。
機体のメイン制御と対宇宙災害用セイブユニットも、通常は双方のコックピットが独立して統制している。
ゆえに機体に同乗した者同士での機内通信が、基本の交信手段――おおよそ
任務終了後にようやく、お互いの状況をはっきり確認出来るのだが――やはり相手は年頃の女子。
ヘルメット越しではっきり掴めなかったが、
そしてオレの意見に疑問符を浮かべ――ハッ!と目を見開き急いで手鏡を取り出すパートナー。
オレはなんとなしに彼女から視線を逸らし、機体の蒼の
「……!?さっ、サイガ大尉……その、ありぎゃとうございましたーーっっ!!」
自分の状況を確認し、素っ頓狂な声で噛みながら礼を述べたジーナがまるで全開出力の
オレとしてはそれほどとも思わぬ乱れ――しかしそこは男性視点の思考を控え、口籠もる様に言葉を濁した。
今のジーナの行動がまさに女子の視点だろう――とりあえず、デリカシーに欠けた行動に走らずに済んで良しとする。
任務中も化粧をする必要があるのかと言う点には、突っ込んではいけない気がするのでスルーの方向だ。
そして――上官がくるりと舞うと、回転で勢いを増した
もしかしてあいつ――オレが回避したデリカシー問題を強襲したか?
無残な格闘少年の骸が転がるのを尻目に、少年を足蹴にした上官殿がズンズンと階段を下りていく。
「
大ホールは【
これは有事の際に全員が即座に持ち場へ戻るための措置――ただいたずらにパーティーホールを増設した訳ではなさそうだ。
逆を言えば、ハナからイベント用パーティーホールを作る気満々だったのかとは、あえて口にしないでおこう……。
ホールに向かって格納庫から上へ上がるエスカレーター ――次第に増える同じ目的のクルー達。
この【
さらにはこの閉鎖した宇宙空間における艦内生活――その重要部門である主計系クルーもいるため実際はかなりの大所帯だ。
ただし、医療クルーはこの艦に内包された
暁型兵装艦隊への思考へ
暁型第六兵装艦隊旗艦〈
「先の
第一回の歓迎パーティーは主賓であるにも関わらず、もみくちゃにされ主要人物への目通しが
「こちらこそ失礼であるが、貴殿は本当にこの艦を防衛出来るだけの実力がおありか?」
いきなりの返礼――しかしそこにはこちらへの
「――私は8年も現場より離れた過去を持ちます。その問いに答えるならば「無い。」と答えるのが妥当。……今この【
自分が思う率直な意見を述べる――艦を防衛する実力、言い換えれば自分単独でこの艦を襲い来る危機から守りきれるか。
そんなものはある訳が無い――自分が
「……ふっ、すまない……とんだ失礼を申した。許されよ。」
数人が横並びでも立つ事が出来るエスカレーター上――隣合う暁型を統率する頭目がこちらへ謝罪と共に
数人が横並べるとは言えそこには一艦隊の艦長と、肩を突き合わせるは【
まあそれでも、自分がそれほど偉いとも思えないのは事実だ。
暁型第六兵装艦隊所属【
その経歴は日本がまだ戦時であった時の、誰も知らぬ英雄的存在――その英雄の血を受け継ぎ、救済艦隊へ志願したと確認していた。
サッパリと刈り上げられた
その堂々たる体躯もオレを頭一つ近く上回る、巨漢ではないが貧弱でもないその身体――白に赤を配する、救急救命隊を現す正装に身を包む。
「【
「こちらはクルー名簿なりで知り得ておろうが、私は
自分より大柄な体躯から、実に真摯な非礼を詫びた挨拶が白の精練された手袋と共に差し出され、こちらも真摯なる礼にて握手を交わす。
自然すぎる執り行いから彼が受け継ぐ血の先にある、歴史的英雄の偉大さが余す事無く伝わった。
その英雄はかつて誰も知らぬ救出劇を、だれに語ると無く生涯を終えた――戦火の中、危険海域で敵襲による窮地の恐れも省みず、400名以上の敵溺者を救助し〈海の武士道〉を貫いた伝説の海軍士官。
まさにこの男には、英雄の血統がその言葉の端々から感じられた。
「ですが今はその気鋭……少し保留としましょう。せっかくの懇親会パーティー 、主催者の前に戦闘中の様な顔で立てば、途端に機嫌を損ねられそうですから。」
「ははっ、違いない。」
彼ももしかしたら、自分より理解しているだろう――自分の知らぬ、今のヤサカニ
登りきるエスカレーターを後に、すでに集まりつつある招かれたクルーらに紛れ、オレ達は騒がしくも華々しい第2回目のパーティー会場へと足を運んだ。
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