第29話 衛星カリストの攻防
宇宙に出てこちら、
けれど磨けば磨くほど、この宇宙の底知れぬ巨大さを痛感する。
まだ航海は始まったばかりだと言うのに、こんな状態じゃ
そんな弱気な雑念を宇宙の奥に追いやり、訪れた【マス・ドライブ・サーキット】での防衛任務。
今出来る最高の仕事をこなそうと、共に任に付く蒼き英雄の傍で僚機を気取り警戒に当たる。
その最中に訪れた【
先の同災害時には感じなかった異様な感覚――姿が見えない、けどそこに居る気配は獲物を狩る狩人。
それを感じた時
きっとあの【アル・カンデ】襲撃を体験していなければ浮かばぬ感覚――災害とは別の危機を感じた俺は、敵と認識した見えざる者へ飛ぶ英雄に追従しようとした。
――だがそれは訪れた。
自分がきっと、【
しかしその者は一度交えたはずの間に合わせ量産機などでは無い、与えられた特別な拳。
『さあっっ、赤いの!これが第二ラウンドってやつだっっ!!』
聞き覚えのある――強制外部通信で俺の聴覚をハックする声。
特徴のある語尾に本能丸出しで襲い来る、飢えた狼の様な男。
あの時――不甲斐無い勝利でなんとか撤退に追い込んだ者は、あらたなる脅威となって眼前に姿を現した。
「あの戦狼の男……!まさか
その出で立ちはこの
先の量産レベルで強引に格闘を行う機体とはうって変わり、最初から格闘を前提とした外部の装甲――そしてあの戦狼のファイティング・スタイルに合わせた様な、強力な一撃を連想させる強固かつ洗練された上半身のシルエット。
目にするや否や、自分の脳裏に浮かぶ鮮烈な危機感――こいつは強い。
『データを照合したわ……!
『あなたも感じるはず……!こいつは厄介な相手――まさか火星圏からこれ程の機体を調達するなんて……!』
基本戦闘時でも比較的冷静な
その反応だけでも、この
しかし、その動揺を理性を
俺が今、所属するは
迫る宿縁の始まりを鋭き眼光で見据えながら、指示を仰ぐべき相手へ通信を飛ばす。
「
コックピット内の宙へ投射されるモニターの端――
俺は大丈夫です――冷静に事に当たりますの意を、赤き機体のパートナーへ目配せで送りながら指令官の命を待つ。
『――【ザガー・カルツ】格闘主体の敵……、君がそう感じたのだな。いいだろう、彼の相手――
待ち望んだ命――下された俺は赤き機体の
飛行用外部スラスターの扱いには未だ慣れないが、四の五の言ってる場合じゃない。
あいつの標的は自分――そしてこの背にある旗艦【
ならば俺の取る行動はただ一つ――蒼き英雄が、謎の狩人へ肉薄するその背を守るのが使命。
赤き機体が俺の闘志に呼応して燃え上がる。
「
》》》》
暗き
飛来する微小惑星の背後――赤き機体の格闘少年がいち早く気付いた謎の隠者は、事態が想定を上回る状況に
その機体から射出される大型の艦艇を大破させる弾頭は、電磁加速により打ち出され――攻撃対象にその存在を察知される事なく近接、破壊する兵装。
大型の対艦ミサイルに合わせた大振りな武装〈バリスタ〉。
地上にて――人が操る火薬を持たぬ時代の、固定式・遠距離攻撃兵器の名。
それを元にした、熱源反応を伴わない対艦ミサイルを電磁加速によって射出する、隠密奇襲に特化した兵装。
(電磁加速時は射出物体が高熱を放つが、宇宙空間の極マイナス環境で瞬時に冷却される。)
さらには光学的な視界から消える機体――加えて光学ステルス弾頭を併用する事で、隠密奇襲性がさらに向上するまさに艦艇の狩人を名乗るに相応しい武装。
しかし、フレームサイズの武装としては電磁加速時のエネルギー消耗が激しく、連続しての攻撃は行えない。
そこで最低限の活動エネルギーを確保するための、大型機関が搭載されるため総じて機体も大型と化した。
従ってこの兵装は、一撃離脱を前提としたスナイパー的な任務を
「こんな速いフレーム……聞いてない。」
大型化した機体では対して機動力が犠牲となるが――【ザガー・カルツ】が目標としたC・T・Oに、その機体が離脱する際に追従出来る機体が居ない事前提の奇襲―― そして一撃離脱任務を任されていた。
そのため巡航速度のみだが、機体出力が全開で即時離脱可能なレベルまで引き上げられているのが狩人の機体である。
――だが、
「全然攻撃……回避出来ない。蓄積ダメージ上昇――こちらの重火線砲まで避けられる……。隊長……これは無理。」
狩人の機体を強襲したのは
敵対組織、その四人目の隊員である少女はコックピットの中――感情が希薄であるが
「ヒュビネット大尉――応援を請う。この機体でこれの相手は無理……。」
沈黙に沈むモニター。
予定していた本隊との合流時間はとっくに過去の物。
そんな中初期目標である巨大艦には、あの戦狼が取り付いた。
しかしそちらでも、敵機らしき影――赤き輝きを放つ想定外が行く手を阻む壁となっている。
「あの暑苦しい男でも、突破出来ない――全然聞いてない、くっ――」
望み薄である暑苦しい仲間の援護がそもそも無理な事態に、尚も続く蒼き機体の雷光が舞う攻撃に耐えながら、機体出力に任せた回避を行う。
だが、所詮はただの動く的にしかなっていない状況に、流石に希薄な感情を映す幼き表情が冷たい汗と共に崩れ始めた。
――その汗に濡れた表情、一つの音声で希薄な喜びへ変わる。
『それを相手によく持たせた。――バーゾベルが向かう、帰還しろラヴェニカ。』
希薄な感情と抑揚の薄い声調が特徴である、【ザガー・カルツ】の四人目の主力――名をラヴェニカ・セイラーンと言う。
このクセのある部隊では違う方向にクセを持つ切りそろえた前後の髪が、前は眉を隠す様に――後は背の上半分を覆う艶やかな黒。
それを強調する病弱とも思える白い肌に、鮮血を思わせる
時々浮かべる狂気じみた笑顔が、ただの少女ではない事を如実に語る。
「ヒュビネット大尉!――了解……私は戻ります。武運を……。」
ようやく訪れた待ち人の通信に、やはり希薄で分かり
――ただ、喜びを表現するにはあまりにも狂気に
機動性に乏しいが機体任せの出力で撤退目的であれば、何とか振り切る事が可能な狩人。
スーパー・ディザード・ハーミット=
隊長及び砲撃手が扱う正規量産から外れた、強引なカスタムを施されたフレームであり――正規のパイロットには向かない特殊性を秘めている。
現段階ではその特殊性が影を
狩人であるハーミットが完全な撤退を開始した事に加え――それと入れ替わる様に現れた二機の
猛烈な追撃が止み、無事に旗艦への帰路を取る狂気が宿る黒髪の少女。
「隊長に褒められた……。頑張った甲斐が……あった……よね?」
表情に喜び――しかしやはり狂気が
その声に少しの間を置き、いささか面倒くさい感が拭えない返答が黒髪少女のコックピットに響く。
『あー……ハイハイ。褒められたわね――よかったよかった、だからアタシへイチイチ賛同を求めないでよ……!』
面倒くさい――と言うよりウザイとの感情が
何かと一筋縄ではいかない部隊構成の敵対者達であった。
》》》》
「敵機、大型の軍用艦クラス捕捉――距離2500!敵旗艦と思われます!」
「やはりいたか……!敵旗艦のクラスを算出――各【
すでに【
探知捕捉されたサイズは大型ではあるが、【
「敵旗艦、皇王国ライブラリに該当する件あり――レッサー・ビースト級、重宙艦バーゾベル!クロント・ボンホース私設部隊の標準艦です。――レア度低っ!?メジャー過ぎて笑うわ~……っと失礼!」
機動兵装のデータ収拾及び観測を主に担当する少女――目元のそばかすに小ぶりの
思わず零れた本音は彼女が機械オタクたる証でもあるが、やはりその程度の事は意に介さず歴戦の対応を返す指令官。
「なるほど、メジャーだが性能は
機械オタクである少女の意見さえ真摯に受け入れ、必要な命令内容を構築するこの大佐――器の大きさは、この艦で任に付くクルー達も心強い限りである。
構築された命はすぐさま、聖剣を守護する騎士達へ運ばれる。
「聞いたな!?敵旗艦はバーゾベル――艦の巡宙速度は標準だが、【
「すでに交戦している敵機体を含め、防衛ラインを張り時間までこれを死守!こちらの準備が整い次第、かく乱用ミストルダストを撒いて即時帰還せよ!」
【
「
【カリスト】重力圏からの脱出。
相方が想定した通りの奇襲戦――誰もが互いに素晴らしき観察眼で、状況を読み合っている。
――そう、誰もがそれを疑う余地も無い。
しかしその戦闘状態そのものが、計算されたレールの上をひた進んでいる――
その事実を知るのは、それを仕掛けた者――そして全てを余す事無く洩らす者だけであった。
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