第28話 不可視の狩人と灼銅の狼



「ホンジツノ検査は終了ナノデス!オツカレだ、クオンどの~!」


 ささやかな休憩時間――まさかのマスコット少女の体験学習に付き合わされるハメとなった蒼き英雄。

 ピチカ・モアチャイ伍長は、エンセランゼ大尉がC・T・Oへ無理を通してこの【聖剣コル・ブラント】へ搭乗させた臨時の隊員だ。


 現状彼女はメディックサポートと、整備チームサポートを兼任で学習を兼ねて任務をこなす様に指示されていた。


「悪いわね、ピチカの体験学習に付き合わせて……。後で一杯おごるわ?」


 見た目の容姿からは想像出来ぬ程の見習い医師ぶりは、流石の英雄をも関心させた。

 その体験学習にお願いと英雄を付き合わせた女医は、クオンへ謝罪と感謝をって後日返礼すると約束する。


 すでに学習を終えて、早くも足元にり寄る幼き黒人の少女――よくやったぞとの激励の言葉と共に、黒人特有のクセっ毛を黄色のカチューシャで留めた頭を優しく撫でる。

 マスコット少女も弾ける様な笑顔でご満悦の様子――それは英雄を落とした言うより、落とされたと形容する方が適切と感じる位に。


 その光景を、わずかに暗い影を落としながら見やる女医――思わず彼女の素性をこぼす。


「ピチカは元々地球、アフリカ大陸の出なの。そこは飢餓と貧困――そして難病の猛威が襲う地域。私が出会った時の彼女は、病魔によって明日とも知れぬ生涯を終えようとしていたわ……。」


 女医の切実な言葉――言葉を挟まず受け止める英雄。


「本当はね?地球とのL・A・Tロスト・エイジ・テクノロジー関連の条約で、一人に肩入れした独占的な治療は禁じられていたの。――でも私は、彼女を救うために宇宙へ連れて来た。」


 この時代――今も飢餓と貧困、難病に苦しむ民は数え切れず存在する。

 だからと言ってそこへL・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーを持ち込み、一個人を対象で救済する事はご法度とされていた。

 それは本来国際的なルールの下で、支援団体としての活動上で許される行為。


 それが地球と宇宙の民との間では、尚厳しい制限が存在していた。

 人種を差別する様なたぐいでは無い――責任の所在を確かにするためのルール。

 命を尊ぶ者としては、救えるならば救いたい――であるならば、当然の義務として最後まで責任を背負う事を言及した物である。


「私は政府に、条件付きでピチカの難病治療の認可を取り付けたの――彼女が無事生きながらえたあかつきには、今度は彼女が故郷で命を救う現場に立てる様学ばせるという条件を。」


 だが、肝心の大尉がこの艦に搭乗する必要が出て来た。

 ゆえの急遽、伍長臨時搭乗と言う顛末であった。


「そうか……。」


 宇宙人そらびととは言え、幼すぎる隊員配属との疑問を覚えていた英雄は合点がいった。

 そもそも地球からの仮移住であり、斯様かような理由からの緊急配属であればその幼さも理解出来る。

 部隊への配属――それも医療関連への配属となれば、それ相応の医療知識と現場経験――さらには最低年齢制限が付きまとってもおかしくはなかったから。


 女医の切なる願いと、黒人少女の素晴らしき未来の行く末――英雄は一つ守るべきものが増えたなと、はにかむ幼き未来の女医に羨望せんぼうの眼差しを向けながら、ささやかな憩いのひと時を過ごすのだった。



》》》》



 「各【霊装機セロ・フレーム】は配置へ。【聖剣コル・ブラント】管制各位は出向準備へ取り掛かれ。」


 パイロット達に与えられたささやかな小休憩も、厳しさがもる命令の発令と共に過ぎ去った。

 【聖剣コル・ブラント】の出港にあわせ、襲撃の可能性が一段と高まる【ザガー・カルツ】への対処として、蒼と赤の機体がカタパルト射出準備を終える。


 旗艦の準備が整う前に二つの光が、カタパルトにより船外へ飛び立ち周囲警戒の任に付く。


 【聖剣コル・ブラント】ブリッジ――各種管制の最終チェックが進む中、指令 月読つくよみがこの艦のかなめであるもう一つのブリッジ――艦隊を統べる統率者へ現状確認の報告に入る。


「工藤大尉――艦隊の首尾はどうだ?」


 指令 月読つくよみの通信が届く先はあかつき型――第六兵装システムと言われる、【聖剣コル・ブラント】に内包された四隻の小型艦。

 サイズは駆逐艦級~軽巡宙艦程度を有するが、主立った兵装は現状で未搭載である。


 そう――この艦隊に与えられた任務は【救急救命】。

 レスキューとメディカル中心の設備を満載した、【聖剣コル・ブラント】のフレーム部隊の裏――命を預かる、裏方を引き受ける勇者達の船である。


 四隻の船はそれぞれ、【量子振動波を見る目】を持つ壱番艦 〈あかつき〉――【量子振動波を聞く耳】を持つ弐番艦〈ひびき〉。

 そして第六兵装艦隊を指揮する工藤艦長が搭乗する、【救いの御手】救急レスキュー隊の母艦でもある三番艦〈いかづち〉――最後の綱を託される【癒しの御手】メディック隊、あの女医エンセランゼ大尉がほこる医療の砦――四番艦〈いなづま〉。


 救済行動に必要な、あらゆる設備と部隊を艦隊として運用する――これが【聖剣コル・ブラント】の≪聖剣≫たるゆえんでもあった。


『こちら工藤。各艦正状に起動中――現状仕事が無い我らでありますが、有事にはいつでも動ける様各員へ指導は徹底済み。いつでも指示をどうぞ。』


「うむ、貴君らの働きはいずれ必要となる。今回は待機のみとなるが、よろしく頼む。」


 指令の言葉に冷静を装いながらも、たぎる想いの艦長工藤。

 本来【救急救命】に携わる隊の者達は、有事が訪れなければ日の目を見る事は無い。

 頻繁に有事が訪れる方が異常な事態であって、彼らが動かない事が何よりの平穏。


 常に裏方――命を救う使命をくすぶらせる彼らにとって、この【聖剣コル・ブラント】と言う名の船に搭乗し任を与えられるのは、まさに表舞台に立つ事と同義。


 【救急救命】に携わる者にとって、ほまれであると言われる程なのだ。


『諸君!待機とは言えこれは任務――気を引き締めて行くぞ!』


『『イエス、サー!!』』


 レスキュー隊も自分達の立ち位置をよく理解している。

 工藤の号令で整えられた呼吸と共に、力強い無数の復唱が通信を通して木霊した。




 艦の外部で制止し監視を続ける蒼と赤の雄姿。

 【マス・ドライブ・サーキット】もようやく稼働し、木星圏より内縁への航路を取れる時が近付く。


 月読つくよみ指令より【マス・ドライブ・サーキット】管制への【ザガー・カルツ】襲撃の可能性は報告済みであり、【聖剣コル・ブラント】射出中の襲撃があった場合は避難を最優先とする様勧告を行っている。

 敵部隊の目的が未だ明確でない以上、施設も安全では無いと推測し——以後は稼働施設を停止の上、【アル・カンデ】軍本部の指示をあおぐ様にとも追加している。


 満ちたエネルギーのほとばしりは、衛星【カリスト】の制止軌道上を取り巻くガイド・トラクター衛星――それらへ余す事無く電磁の光を満たして行く。

 半物質化した量子レール――鮮明な輝きが宇宙へ巨大な弧を描き出し、着々と【聖剣コル・ブラント】射出へ向けた準備が進められる。


『各機、【ザガー・カルツ】襲撃があったと仮定しても防衛行動は最小限に食い止めよ。【マス・ドライブ・サーキット】射出直前は機体の収容が出来ない――この場に放置する事になると心してかかれ。』


 蒼と赤の機体へ飛ぶ通信―― 一度設備によって加速された船体は、一気に【カリスト】より内縁へ押し出される。

 その状況下では、機体収納のためのハッチ開放など出来るはずは無く――まさに置き去りにされる。

 惑星離脱用のロケット並みに、超加速された旗艦への着艦など正気の沙汰ではないのだ。


 防衛はあくまで【マス・ドライブ・サーキット】射出前のタイミングまで――それ以降は速やかに帰還するのが最低条件の任務。

 そもそも【ザガー・カルツ】襲撃さえ起こらなければ、全てが何事もなく進む――誰しもそんな事態など望んではいないが。


いつき、緊張は程ほどにな?今の君は、着実に機体の扱いが上達している――あせりや慢心がなければ、あの戦狼の機体にも引けは――」


 Ωオメガから英雄が、少年へ激励の言葉を量子通信にて飛ばした矢先――【聖剣コル・ブラント】を含む待機中の両【霊装機セロ・フレーム】内、鳴り響いたアラート音。

 咄嗟とっさに気を張り詰める救いし者セイバース達。

 ――だが、そのアラートが示すのは【宇宙災害コズミック・ハザード】、接近する複数の微小惑星を感知していた。


「確認急げ!こんな時に災害防衛とは――各【霊装機セロ・フレーム】、災害レベル確認後速やかに――」


 アラートへ反応した月読つくよみ指令が瞬時に判断し、臨時災害防衛行動に移行しようと関係各位へ詳細確認の指示を飛ばす。

 ――しかし、状況に只ならぬ違和感を感じた者がいた。

 感じた違和感の正体――飛来する微小惑星の背後に存在したわずかな重力の歪曲わいきょく


 深淵しんえんを見る事が出来る少年の心に、その違和感が否応なしに牙を剥き――少年は叫んだ。


「違う……!あれは敵襲ですっ!!」


 少年の言葉に、一瞬状況が掴めぬ救いし者セイバース達――当の指令ですら、その叫びに迷いを生じさせた。

 だが、その叫び――誰よりも素早く反応したのは蒼き英雄。

 蒼き雷光を撒き散らして宇宙を駆ける。


いつきっ!【聖剣コル・ブラント】と施設を守れっ!!』


 手甲ブレードを抜き放ち――微小惑星へ肉薄するΩオメガ

 それに反応するかの様に、微小惑星最後方から突如飛来する影――否、それは光学的な視界から消えた物体。

 Ωオメガがそれに気付いた時には、砲撃にも似た速度で機体とすれ違う。


 英雄は光学的なステルスに包まれる影を、宇宙の深淵しんえんが生み出すわずかな空間のゆがみでかろうじて捉えた。


深淵しんえんを感じろいつきっ!行くぞっっ!!』


 英雄の声で、流石の月読つくよみが不覚にも判断を誤った事態を立て直す。

 関係各員へ指示訂正とそれに必要な対処を飛ばし――


「各員敵襲だ!災害防衛対応より速やかに対敵勢力防衛へ移行!クオン、すまん――状況を見誤った!」


 緊急事態にも英雄へ謝罪を放つ指令。

 一方Αアルファはすでに飛来している物体を、空間のゆがみから位置を割り出し迎撃していた。


 重力波フィールドを災害防衛に使用した、グラビティP・Sパラゾレート・スタッドに見立てて前方に展開――速度を殺した所で拳が謎の飛来物体を打ち抜く。


 爆砕した物は大型の対艦ミサイル――しかし、それ程の物体が熱源反応も無く砲撃同様の速度で旗艦を狙い定めていた。


綾奈あやなさん……こんな物が熱反応も無しに飛来するって――」


 格闘が専門の少年ですらその疑問にぶち当たる。

 パートナーへ不可解な攻撃と報告しようとしたその目――モニターに映る別の影、今度はまがう事なき機体の影。

 だが、大型――その身は灼銅しゃくどう、赤みを持つ銅の色とだいだいまばゆい黄。


 謎の機体が気炎と共に自分へ突進してくる――けれどその構え、恐らく間違いでは無い少年が知っている男。


「まさか……あの戦狼……!?」





 蒼き機体が微小惑星の背後――最後方へ一気にぶち抜く。

 すでにこの小惑星群に危険は無いと判断し放置――代わりに、謎の攻撃を放った出所を突き止めに走っていた。


 しかし光学的なセンサーにはなんら反応が感じられない。

 一抹の不安――熱源反応すら出さずに対艦攻撃を行った者、まさかその


 刹那――その疑問を解消させる動きが小惑星影から飛び立った。

 どうやらそれは、光学的に気配を消せるのはの様だと気付く英雄。


 飛び立った機体は明らかに光学センサーにとらえられた。

 体躯は今までのどの機体より大型――背部には先ほど飛来した、対艦ミサイルを引っさげて重装甲に重火砲を装備。

 最も目を引くは、その腕部に装備される機体ほどもある電磁射出式の大弓――空想世界で呼びあらわすならば、巻き取りクレイン・クインタイプのバリスタ。


 概要を察し英雄はさらされた事実を口にしていた。


「この機体……【ザガー・カルツ】の四機めか……!」

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