第11話 動き出す宇宙の歯車
引き
希望を閉ざされた瞳、もはやそこに心が宿っていないのかと思える足取り。
しかし――その少女が後にしたマンションの一室。
たった今、引き
部屋の一室――飾られた一枚の写真立ての前。
立ち尽くす男が額の傷跡に誓いを立てる。
そしてデスクの脇、
精気の抜けた様な姿から一転――データメモリを手にし、部屋を飛び出した男は少女が去る前にと二階からメモリを投げ渡す。
「ジーナ・メレーデン!!」
「……えっ、……わっ!?」
声に反応した少女が、突然飛来した小さなそれを落としそうになりながらもキャッチする。
「な……何ですかいきなりっ!……それに……これ……」
「
引き返す寸前の少女の言葉を
「……こんな物……貰っても困ります……。私一人じゃ……
男の先の様子からの急変――それに戸惑いながらも、渡された物の受け取りを拒絶する少女。
それもそのはず、少女はあくまで
パイロットとしては、自分の腕が
「違う……。」
「……?」
「あれはもともと、一人で動かす事なんて出来ない――そういう物なんだ……。」
別人となった大尉が
少女の得る認識としては、かつて目の前の大尉が一人で
「だけど……あれに精通したパイロットが二人いれば――その複座用プログラムで必ず操作出来る……!」
「……複座……用……?」
認識と違う事実――当然少女は
だがその肝心の
すでに全てを諦めるも、自分の認識に誤りが生じていた状況に困惑を極める少女――次の大尉の言葉で、その心に希望の風が吹き荒れた。
「
吹き荒れた希望は、少女の表情へ精気満ち溢れる輝きを取り戻させる。
「……サイガ大尉……じゃあ……!」
「
「は……、いえ……了解です!!」
男より
希望を宿した少女――メレーデン曹長は感極まった涙を浮かべながらも、大尉へ真っ直ぐ敬礼を返し、愛車のバイクに火を入れる。
セルが回りエンジンに火を打たれた相棒も、その少女の頑張りを讃えるように吼え――唸りと共にタイヤを回転、路面にブラックマークを刻み付ける。
そのまま曹長の二輪の愛車が爆音と共にアクセルターン――そのまま疾風の様に、C・T・O本部へ猛加速していく。
事を構える覚悟は出来た――かつての引き
友を失った絶望の中にあっても、
心のどこかで全てを諦めながらも、決して消えなかった熱い想い――
その決意を――軍の正式な制服、
彼にとっての再起の儀式ともいえる行動のため、一階駐車場へ足を向けた。
そこには、彼が何よりも大切にしている愛車が息を
「かつて――地球の社会への不利ゆえに……時代から消えようとした車があった……。」
流れる様なボディラインと低く構えた車高――速く走るためだけに生まれた地球は日本の、奇跡の存在とも言われる
「だが、勝利が存在を認められる事に
「最後の出場で……蘇った不死鳥。」
そこに搭載されるエンジンは、大尉の言う最高峰レース――最後の最後で世界の頂点に輝いた伝説のレースカーの血統を継ぐ。
「その、あくなき挑戦の精神――少しだけ……分けて貰うぞ……!」
彼の愛車はそれだけに
伝説の血統を生み出したあくなき挑戦の精神を大尉に宿すため、生粋の地球製スポーツカー【FD3S RX-7】。
キーが捻られるのを合図にし、繭型のハウジング内へ目覚めの火が放たれると――レシプロエンジンで言うピストンに当たる、三角のローターが激しく鼓動。
伝説の血統を持つ、奇跡と言われたエンジンが爆音と言う咆哮を上げる。
「行くのか……?」
ふと、長くその身を
しかし――今しがたそこにいたのは大尉一人、人の気配は
が――サイガはそれが誰か知っている。
その声に予想していたかの様に返答する。
「あんたか……。ああ、行くよ……!」
大尉が愛車の運転席ドア――それを斜めに跳ね上げた状態で、彼が感じた気配の方へ顔を向ける。
そこに居たのは少女――それも先のメレーデン曹長よりも
だがそこから感じられる気配――それはとても人間が放つ類の物ではない、崇高にして高次の波動。
少女に見えた者は、悠久の時を生きる【観測者】である。
「分かっておると思うが、今
放たれる言葉の一つ一つに、神と同位の力が込められる【神霊言語】。
低位の人類――ましてや低俗な者であれば、その言葉を聞くこともなく高位霊波動を受け卒倒する程に強力な霊力震。
その言語にも、大尉は動じる事なく言葉に耳を向ける。
「……それでも……
大尉はすでに、その【観測者】との面識は深いのか――親しき友人と話すかの様に、かりそめの
「全て……思い出したんだ……。そう……何もかも……。」
きっかけは懸命なる少女――
「自分しか見えていなかった……その時には聞こえなかった言葉……。アイツの――オレに向けた、約束の言葉……。」
少女の叫びは、自分勝手に生み出した心の壁を打ち砕き――あまつさえ、聞こえていたはずの友の願いの言葉を思い出させてくれた。
「……だから……」
引き
「いつまでも……通りすぎた過去に……
蒼き魂が8年の時を経て、ようやく新たなる一歩を踏み出した。
【観測者】が語る試練が、どれ程のものかも想像がつかない――だが今の彼は、進む意外の選択肢など選ばぬ決意が宿っている。
「ならば……もう、何も言うまい……。」
クオンが語る覚悟が、
彼女はただ
【観測者】は人類の行く末を案じる存在ではあっても、決してその未来に災いを
故に、人類が
「行くがよい……クオン・サイガ……。」
「ああっ……!」
大尉の駆る【RX-7】――爆音とタイヤスキールが、路面と偽りの大気を切り裂き……今も彼を待つ者が集うC・T・O軍施設へ疾風の様に発つ。
全ての新たな胎動を、その目でしかと焼き付けた【観測者】の少女を形取る者。
その胎動を、
『見えておるか、この
『されど――しばし待て――我が友であり、姉妹であり、我の分かれ身である者よ……。』
しかし【
その青き星へ、少しの
『
『アリス――
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