第5話 漆黒の嘲笑



 遠隔操作による数体のA・Fアームド・フレームで、銃火砲による対侵入者防衛作戦を講じるC・T・O本部。


 だが最早、外部工場区画を抜けた侵入者はソシャール内部へと入り込み、居住区への被害拡大も時間の問題となっていた。


「おらっ……よっと!」


 格闘を得意とするアーガスが前へ前へと、障害となる機体を蹴散らしながら、


「……ったく!……アーガスっ、後がガラ空きなのよアンタ……!」


 後方からの支援、ユーテリスによる重火線砲攻撃が、アーガス背後――A・Fアームド・フレームを一掃する。


『おいおいお前達……、物足りんからといってがっつくなよ……!』


 部下二人の快進撃を、わずか後方で自分に迫る機体を軽くあしらいながら、傍観する隊長機。

 その動きは、何らかの機会をうかがう様にも見える。


A・Fアームド・フレームコード03・05沈黙……!工場区……ステーション内部に損傷発生!」


「だめです……!目標……さらに侵攻、食い止められません!」


「くっ……、A・Fアームド・フレームでは足止めにもならんか……!」


 そのあまりにも一方的な状況に、全てをモニタリングしているC・T・O本部も、手をこまねいているしかなかった。


 【ザガー・カルツ】――止まらぬ侵攻。

 その中にあって、不気味に機をうかがっていた隊長機、ヒュビネットが突然回線を開く。

 その回線はC・T・Oを始めとする、【アル・カンデ】内の軍事回線――


「さて……、そろそろか……!」


 C・T・O通信回線から敵機体より入電――

 通信オペレーターはすぐその事態を、月読つくよみ指令へ報告として飛ばす。


「指令……!敵隊長機と思われるSV・Fシヴァ・フレームから通信が……!」


「敵からだと……!?」


 C・T・O内部――大モニターを中心に各モニターへ、余す事無く映像が映し出される。

 その回線の向こう、【ザガー・カルツ】隊長――ヒュビネット大尉が不敵な笑みを浮かべ――宣言した。


『こちらはボンホース・イレーズン、【ザガー・カルツ】所属。特殊独立機動部隊隊長――エイワス・ヒュビネット大尉だ……!』


『【アル・カンデ】防衛機関、災害対策軍C・T・Oに告ぐ――』


水奈迦みなか様……、やはり奴ら……!」


「……その様おすな……。」


 大胆不敵な、演説の様に語られる宣誓を尻目に、【アル・カンデ】の管理者 水奈迦みなかと軍部指令 月読つくよみは、小声で状況の推移すいいを確認し合う。


『本日中に天王星――【ムーラカナ】星皇本国政府に通達せよ……!』


『貴国が行っている、地球【退化人類ターニテル】との融和政策にたずさわる――全ての機関・組織を地球及び月方面より撤退・解散させよ……!』


 【退化人類ターニテル】――それは宇宙に住まう者の一部、過激派集団が頻繁に口にする地球人類全体を指した、言わば人種差別発言に相当する。 

 その意は、地上における黄色人種や白人など、人種と言う横の垣根かきねではなく、縦――即ち地上人か宇宙人かを指している。


 宇宙の種において大半が、【覚醒者サイ・センシニティ】と呼ばれる宇宙適合者で占められる。

 近年その宇宙人そらびと、【覚醒者サイ・センシニティ】の間で、地上が数年来――史上最悪のペースで、数え切れぬほどの命が失われている事への、痛烈な批判ひはんが続出しているのだ。


 その際たる原因――それは人と人の抗争、〔戦争〕である。


『なお、これは最終警告である――』


 この敵隊長機――この者も、そこに端を発した襲撃を慣行した。

 C・T・Oのほこる頭脳二人は、そう推論すいろんを立てているのだ。

 しかし、それは――


『これに従わない場合――貴国らを三種族国家間、ひいては宇宙人そらびとに対する反逆国とみなし――』


『武力による……、粛清しゅくせいを慣行する……!!』


 大胆不敵な、侵入者からの宣言――あまりにも一方的な脅迫きょうはくとも取れる行為に、

C・T・O指令である月読 慶陽つくよみ けいよう 大佐は言いようのない怒りに包まれる。


『以上……、よく考える事だ……。』


「……通信……切れました。」


 全ての歯がギリッ!と軋み、その溢れ出た怒りを吐き捨てる指令。


「……そんな……バカな事があるか……!彼らの同胞が、今もこの【アル・カンデ】に居住している――掛け替えのない日々を過ごしているのだ……!」


 その怒りの中には、敵対者となった部隊――その国の、同胞達をおもんばかった意が含まれる。

 この指令――ただの敵対者への嫌悪などで、怒りをブチけたりはしない。

 それほどの器を持つ男なのだ。


「その国に対して粛清しゅくせいなどと……、そんなふざけた話がある物かっっ!!」


 指令の怒り――そこに含まれる意に対した同調。

 【アル・カンデ】の管理者であるヤサカニ 水奈迦みなかも、当然居住する罪も無いの同胞をおもんばかる。


「……彼らに如何いかな理由があろうとて……、仮にもこの千数百年――無益な抗争を起こす事無く生きた我々宇宙人そらびとにとって……」


 この宇宙人そらびとの歴史――つまりは太陽系の歴史、地球の地上を除いた千年以上。

 多くの命を奪い合う大戦の記録は、事実――残されてはいない。


「あまりに軽率な判断としか、言い様がおへんな……!!」



》》》》



 【アル・カンデ】内――臨時駐車場区画。

 突然の敵対者侵攻――その凶報きょうほうは、またたくく間に軍関連内部に広がった。


 情報統制が敷かれ、居住民への報告は現状C・Hコズミック・ハザードとされているが、居住区への被害が発生すれば、それも意味を成さなくなる。


 そんな中、この駐車場では軍下士官に属する隊員が、関連施設への管理・監視任務についているが、一様に重い雰囲気ふんいきである。


「……このソシャール……大丈夫なのかよ……?」


「こんな機体見たこともないし……。この機動性……A・Fアームド・フレームなんてまるで役に立たないじゃねえか……!」


 流出する映像に、早くも隊員は臆病風に吹かれ、弱腰になる――が、その隊員に気合を叩きつける男。


「オタオタしてんじゃねえよっ!大尉自ら、アルファフレームのパイロットをスカウトに行ってるんだっ!」


 気合が弱腰隊員にかつを入れる。

 その男は整備Tきっての腕っ節を持つ、チーフメカニック マケディ軍曹。

 少々大柄で、短くややボサボサに感じる黒髪。

 野蛮な感じがするが――少しだけである……。


「それより大尉が戻ったら、すぐに防護シャッターを――って……ほら見ろ、行ってるそばから大尉がお戻りだ……!」


「さっさとシャッターを下ろす……準備……を?」


 マケディが大尉の車を見る。

 軍曹も大尉――神倶羅 綾奈かぐら あやなの車は、整備班で完璧な整備をおこなっており、そもそもその車を見間違えるはずはなかった。


 だが軍曹は疑問に思う。

 いや――それは車が違うとか、故障してるとかそういう事ではない。


 大尉の車が飛ばしている――それも猛スピードで。

 そして軍曹の脳裏に、大尉という女性の性格が鮮明に浮かぶ。


 刹那――軍曹マケディは絶叫と共に、その場の全員へ警告する――


「ぜ……全員っっ……退避ーーーーっっ!!」


 その駐車場内へ、待ちわびた大尉の車がダイナミック入庫を決める。

 爆音と激しいタイヤスモーク――スキール音が空気を裂き、真横になりながらカウンターステアで超絶コントロール。

 そして、神倶羅かぐらの愛車が臨時駐車場内へ収まった。


 からくもその、ダイナミック入庫を回避した隊員の面々。

 噴出する冷や汗と共に爆発寸前の心臓を、なんとか深呼吸で落ち着かせていた。


 これがC・T・O名物、神倶羅 綾奈かぐら あやなの【ドリフティング・ダイナミック入庫】である。


 何事もなかったかの様に、ドアが斜め上方に開きドライバーと、スカウトを受けた少年が降車する。

 ――いや、少年に何事もないと言うのは無理な話だった。


「……大丈夫?……ごめん……ちょっと調子に乗りすぎたわ……。」


「……うっぷ……。へ……平気ッス……。アルファフレームとかに乗ったら多分こんなものじゃないっしょ……?」


 完全に振り回され、グロッキーな少年。

 パイロットが、乗る前から使い物にならなくなったらどうするのかと、思わざるを得ない光景である。


 まさに脳裏に思い描いた通りの惨状に、さすがのマケディ軍曹が鬼気迫る表情(号泣?)で危険なアクロバット大尉を叱責しっせきする。


神倶羅かぐら 大尉ーーーっっ!!あ……あれ程駐車場にドリフトで入ってこない様、言ったばかりじゃねぇかーーーーっっ!!」


「死ぬかと思ったぞこの大尉ーーーっっ!!(号泣)」


 軍曹の怒りと悲しみ?の混じった怒号に、気分を害した大尉はムスッとして恨めしそうににらむ。


「……あら……?ちゃんとけて止めたじゃない……。」


 問題はそこじゃないとの、ツッコミが入りそうな屁理屈である。


「それに緊急事態でしょ……?私のアンシュリーク……お願いね?」


 神倶羅 綾奈かぐら あやなの愛車は宇宙製。

 中型サイズのフロントエンジン・リアドライブF・R駆動――V6・3リッターエンジンに、アシスト・エレクトリック・ターボチャージャー搭載。


 宇宙での、ガソリン燃料使用は原則禁止であるため、木星各衛星で産出したメタンハイドレード及びアルコール系燃料がハイブリッドで使用される。


 数少ない、宇宙間でモータービークルを製造する【Y・Tオートモーター】が手がけるフラッグシップカー、【アンシュリーク TYPE RS】が彼女の愛車である。


「さあっ……、いつき君……!こっちよ、急いで……!」


「……あ……ハイッ!」


 待望のフレームパイロットを引き連れ、軍曹への対応はやや冷たいままでその場を後にする大尉。

 そしてその、相変わらずのそっけない態度にマケディ軍曹はごうを煮やし、ワナワナと沸騰する。


「全くあの大尉は……!毎度毎度……ぅおのれ~~!!」


「……まあまあチーフ……ここは落ち着い……て。」


 さしもの部下もなだめに掛かる――が、


「そこが良いと思っちまうんだよ!!こんちくしょ~~~っ!!」


「なんですと~~~~!!?」


 臨時駐車場に、謎のコントが響き渡った――

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