舞い上がる太陽

第1話 忍びよる闇



 ――地球西暦2026年


 地上では繁栄が生み出した闇によって、文明の進歩がとどこおり始めた時代。


 世界はその行き詰まり打開のため、太古より栄しいにしえの超先進文明、そしてその文明と共に生きてきた同胞【宇宙人そらびと】との交流強化を機軸に新たな未来の模索を行っていた。


 超先進文明――それはさかのぼる事12000万年前に繁栄を極めた、太陽の帝国【ラ・ムー帝国】を初めとする国々の文明。

 その名を【ロスト・エイジ・テクノロジーL・A・T】と呼称する。


 その血を受け継ぐ者達を【レゾナの民】と呼び、かつての地球上に存在した【ムー大陸】の沈没後も【レゾナの民】は【宇宙人そらびと】の中心となっていた。

 地球西暦で言う2000年代の時点での繁栄を支え、その版図はんとは太陽系全域へ広げるに至っている。

 

 そしてネオJAジェネシック・エイジ――1262年宇宙標準暦。

 天王星に首都を置く、新世代のラムー帝国は地球文明進化の監視・管理を担っていた。


 そのラムー帝国が太陽系内にて、最も重要とする中立宙域が存在した。

 それは太陽系第5惑星【木星】。

 同星系で最大の大きさを持つこの巨大惑星は、60を越える衛星群に4つの巨大衛星を持つ事で知られている。

 その一つ水と氷の衛星である、【エウロパ】衛星軌道ラグランジュ1――そこに宇宙人そらびとによって建設された超巨大コロニーが存在している。

 【ソシャール】と呼ばれるそれは、宇宙で暮らす宇宙人そらびとにとって故郷とも呼べるコロニーであり、【アル・カンデ】と言う正式名称と全てにおいて中立を宣言する、多くの他民族を受け入れる独立区として、太陽系における重要な生活拠点とされていた。


 その文化と技術、繁栄に欠かせぬ物を兼ね備えながらも、ここは宇宙そら――広大かつ極限の自然環境の中において人類を存続させる事は、過酷そのものであった。


 多くの人々が一丸となり、降り注ぐ脅威と戦い続ける、その際たる物――それは【宇宙災害コズミック・ハザード】。

 共存しなければならない、極限の自然災害である。

 

 そんな中――宇宙に生きる者達にとって予期せぬ危機がせまりつつあった。

広大な宇宙において、最も身近で恐るべき脅威


 ――人対人の争いマンリズム・ハザード――


 違えた意思が引き起こす、人同士の争いこそ――宇宙で最大の脅威である。



》》》》



 『よーし、このブロックが最後だ。ミラー壊すなよ!?』


 中心を資源採掘用の微惑星と連結されるソシャールは、通常基本動力を太陽光(光量子フォニック・クオンタム)と超振動(高次紐ハイレイト・ストリング)による、複合式エネルギーで稼動させるために外周区画へ【量産式震空物質マテリア・リッド】製のミラーパネルを展開する。


 居住区画の可能生活数上限は、2000~6000万人規模とされており、これらの資源及びミラーパネルは、そこに居住する宇宙人そらびとにとっての生活のかなめになっていた。


 だが、外周をおおうミラーパネル群は隕石及び流星群、さらには太陽風の被害に常にさらさされ損壊・劣化の頻度は尋常ではない。

 ゆえに定期的な交換が必要とされるが、それらを人に代わり行うのが、【アームド・フレームA・F】と言われる宇宙災害特殊作業用の人型無人ユニットである。


 対C・H/AM=010型、正規量産型の改修工事用カスタム機、広くソシャール修繕用に使われる。

 簡易装備を換装する事で、災害防御に対応が可能な人型を取るマルチ・システムで、ベースを同じとしながら、軍用機体と異なる特殊機体として扱われる。


「おーい、交代だぞ~。」


「ああ、ちょっと待ってくれ……、後の修繕箇所は……」


 いつもの様に、修繕作業に当たっていた作業員は後少し――作業に没頭しながらも頭にちらついた休憩時間と言う言葉の誘惑に負ける。

 過ぎった誘惑を堪能するためO・Mオート・マニピュレート作業を適度で切り上げ、同僚との交代時間を迎えた。

 

 O・M 作業員は、通常その管制制御をソシャール外部区画の修繕作業用・小型宇宙船から行う。

 この日は小規模破損だったため、二人の当直作業員がたまの休暇も惜しんで勤務していた。


 外装ミラーパネルは、隕石・流星群対応特別製であるが、ソシャールが木星の重力圏にあるため、木星の巨大な重力がもたらす影響が非常に大きい。

 その重力はソシャールに止まらず、隕石・流星群にも多大な影響を及ぼす。

 結果、当直作業員が貴重な休暇も返上して、修繕を行うのが皮肉にも常態化していた。


「O・M中心だからって手を抜いてると、後がこわいからな~……。」


「ははっ!……違いない……!」


 すでに休憩時間に頭が切り替わる作業を終えた男は、交代で訪れた同僚へヒラヒラと手を泳がせ愚痴の同意を求める。

 当然同僚も同じ感覚を共有する者――眉をひそめた苦笑いを浮かべながら、交代の引継ぎを終えた。 


 彼らには手馴れた一連作業、それは日常だった。

 そんな一連作業の風景では見慣れないシグナルが、モニター前の今しがた急かされた作業員の目に飛び込んで来る。


「……ん?何だこれ。……フレーム……A・Fアームド・フレームか……?」


「ああ?……何が……」


 日常の作業ではおおよそ反応する事の無い、警告を示す点滅――思わず休憩の誘惑に負けていたはずの作業員が凝視する。

 同僚の反応が気にかかり、引継ぎを終えた男もその何らかの異常を確認しようとした――その時、謎の振動が作業船を突き抜けた。


 炸裂音――砲弾が着弾したような衝撃と爆発。

 決して大きくない作業用の宇宙船が木の葉の様に舞い――量子的真空中へ無数の破片と共に爆風が散る。

 外部が破壊される小型宇宙船――モニター前の二人は、突如襲った衝撃で壁まで吹っ飛ばされ意識を喪失した。


 対デブリ防壁のみの損傷、異常を感知した小型宇宙船は即座に救難モードに移行する。

 破壊され――救難信号が宇宙の闇へ拡散される宇宙船を、かすめる様に飛行する謎の機体。

 ソシャールへと接近する物の正体――それは二人の作業員が確認しようとしたである。


 だがそれは、A・Fアームド・フレームの形状ではない。

 その姿は戦略兵器、何らかの破壊を遂行すいこうするため、武装がほどこされていた。


『よっしゃーー、まずは一機っ!』


『ばっ……かねアンタ!余計な事をするなって言われてるのに、何を……』


 襲来する謎の機体。

 小銃サイズの火砲を構える、軽装を生かした動きをする武装機兵。


 A・Fアームド・フレームの基本設計14メートル弱より、若干大柄で前時代的な形状のと比べても、流線型の先進的な外観。

 そのコックピットの中、一番手柄を叫んで喜ぶ操縦者の男。

 右側を上げて固め、もう片方を垂らした前髪から覗く眼は、獲物を狙うかの様に鋭く研ぎ澄まされる。


 その操縦者をもう一方の機体―― 一見同型であるが、大型の収束火線砲を始め複数の火線砲による重装の武装機兵、搭乗者である勝気な女性が通信越しに、今しがた喜んだ男を戒める。


 そして、一連のやり取りの間に割って入るもう一つの声。


『おい、アーガス……。不用意な犠牲は作戦に支障を来たす……。あまり手をかけさせるなよ……?』


 アーガスと呼ばれた男に、釘を刺す声のぬしは隊長格なのだろう、部下の無用の先行をたしなめている様ではある。

 だがその口調には、まるで嘲笑しているかの様な気配がただよっていた。


『けどよ隊長……!いくらなんでもこいつは歯ごたえが無さ過ぎるってヤツだろう……!?』


 三体のA・Fアームド・フレームとは一線をかくす機体。

 作業管制用小型船が発見したその時、照合を行う間もなく攻撃を受けた。

 有人にて戦闘行為を行う謎のアンノウン……。


『……アンタ……、隊長の言う事聞いてたの……?不用意な犠牲を出すなって……!』


 いにしえのムー帝国がりし日の近時代、その歴史上に存在したもう二つの巨大文明国家【レムリア】――そして【アトランティス】の連合国。

 その末裔に当たる民族で構成される国家は、近年大規模戦闘用の戦略兵器をフレーム規格に追加した。

 

 作業管制用小型船に被害を与えたその機体こそ、新規格フレームの正体――試作戦略有人兵器【シヴァ・フレーム】であった。


『こちらヒュビネット、バーゾベル……周辺宙域の重力は良好か?』


 ヒュビネットと名乗った隊長格の兵士は通信を飛ばし、暗礁あんしょう宙域に待機するフレーム搭載を可能とする旗艦きかんに状況を問う。


『こちらバーゾベル。衛星【イオ】、【エウロパ】の潮汐力により安定域です。』


 エウロパラグランジュ1にて安定軌道を持つソシャール【アル・カンデ】。

 そこは常に木星の巨大な潮汐力ちょうせきりょくの影響を受けるが、その衛星である【イオ】【エウロパ】の持つ潮汐力ちょうせきりょくとのバランスを取り、静止軌道上にて安定した人類居住コロニーとして運用される。


 しかし、そのソシャールとの星間移動は非常に厄介で、木星及び影響の強い二つの衛星が発する潮汐力ちょうせきりょくの安定期を見定める必要がある。


 容易に接近出来ない事から、外的要因の侵入によるソシャール被害が少ない事でも知られていた。


 だが今――この謎の部隊は現に、ソシャール近郊に接近・襲撃を行っている。

 ただならぬ事態の幕開けである事は、想像にかたくなかった。


「さて……ゲーム開始と行こうか……!」


 ヒュビネットと名乗る男は、自らが搭乗する機体の中でつぶやく。

 漆黒しっこくに染められた他二人と異なる様相の機体、その中にあって――まるで嘲笑ちょうしょうするかのごとき表情。

 【漆黒しっこく嘲笑ちょうしょう】という言葉が当てはまる、その隊長格の男は危険なくわだての開始を宣言した。


 この時より――太陽系において一つの争いと、それに立ち向かう人々の物語が幕を開ける。 

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