海に帰る

りょう(kagema)

海に帰る

天井はタバコのヤニで黄ばみ、壁紙にも手垢が染み込んだ、古びた旅館の小さな窓からは、満月の光をゆらゆらのせた真っ黒の海がのぞいていた。

男女ははだけた浴衣の帯を結び、互いに布団の上で身を寄せ合った。


「一緒に死のう」

そう、女が言ったのは昨日のことだった。

その瞬間、二人の周りを海の羊水が包み込んだ。二人は縄のへその緒で海底につながれていた。互いの手は、絡み合い、二人の裸体がゆらゆら揺れた。

「僕たちは、この世界に産み落とされる前に、同じ場所にいたのかもしれない」


二人は、海の見える人気のない旅館に足を運んだ。

布団の上で女は、男の浴衣をぎゅっと掴んでできるだけ近づこうとした。男は女の背中に腕を回す。その手は女の浴衣を強く握りしめていた。

「永遠に一緒だよ」


「夜が明ける前に行こうか」

二人は机の上に、一万円札を三枚と「お釣りはいりません」と書かれた書き置きを一枚おいて、部屋を出た。

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海に帰る りょう(kagema) @black-night

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