幕間
神妙な面持ちのニュースキャスターが、凄惨な殺人事件の犯人が漸く逮捕されたと報じた。
画面が犯行現場からの中継に切り替わった。テレビの向こうには、どこの街にもいくつかはありそうな一軒家が映っている。退屈なミステリー小説のあらすじを読み上げるように記者が事件のこれまでの
「こんなことができるなんて、この犯人は人間じゃないわね」
サンマの腹からカチャカチャと内臓を掻き出しながら母が言った。母は小骨まできれいに取り去ったサンマの身を、妹の小皿に載せた。
「人間じゃないならなんなのよ」
と、わたしはそうするのが当然かのごとく母に突っ掛かった。
現にこうして一人の人間が捕まってるのだ。まさかホホジロザメやグリズリーじゃあるまい。
確かに人の姿はしているけどね、と答える母は反抗期の娘の取り扱いに慣れていた。
「人を殺すとき人間はね、鬼になるの」
「鬼?」
「そう。人には人を殺せない。殺せるとしたらそれは人ではなく鬼なのよ」
「しずく、今日鬼ごっこで鬼やった!クラスで一番かけっこが速いゆうたくんだって捕まえたんだよ!」
割って入った妹が「ムフー!」と胸を張ると、「雫はとっても足が速いのねー」と母がその頭をやさしく撫でる。
「おねえちゃん、しずくオリンピック出れるかな!?」
「それはどうかなー?ならまずは二年生のなかで一番にならないと」
妹は「そっかー」と言いながら足をぷらぷらしていたが、別段落ち込んだ様子もなくニコニコしていた。
そうこうしているうちにニュースは次の話題に移り、接近中の台風について、天気予報士が週末の動きを解説していた。
いつかの、わたしがまだ「わたし」だった頃の記憶。母とわたしと妹の三人、毎日こうしてテーブルを囲んだ。
にわかに強くなってきた風がふいに窓を叩いた。
この手にはもぎ取られた命の感触があった。
この目には失われる存在の姿が映った。
この耳には最期の嗚咽の残響があった。
鼻腔を突き刺す、赤い赤い鉄の海。
改めましてみなさんごきげんよう。
わたし鬼をしております、川瀬と申します。
殺しのご用命はぜひ当事務所まで。
あなたの町の殺し屋さんが承ります。
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