女友達②- 3
見知らぬご近所さんらの亡骸が見つかってからしばらく、町で警察官の姿を見ない日はなかった。「のどかな地方都市で起こった悲惨な児童虐待事件」として全国で報道されもした。
近隣の小中学校は数日間自宅待機となり、私が通う大学からも「不要の外出は避けるように」とのお達しが出た。子供の死体はともかく、母親を殺した犯人のほうは依然逃走中とされていた。
それからひと月半が経過した今はこうして呑気にじーこじーこ車輪を回しながら授業へと向かっている。
犯人が捕まったわけじゃない。
たとえ海の向こうからミサイルが飛んでこようと学校には行かなくちゃいけないし、大人たちは会社に行かなくちゃいけない。
殺人事件くらいがなんだ。
ただそれだけ。
私たちの命は本当はいつ散ってもおかしくない、ということを私たちは決して知らないわけじゃないのだけれど、現代社会を生きるには刹那主義ではいられないのだ。それがこの国では少し極端なのかもしれなくても。
先ほどまで感じるか感じないかくらいの水滴だったのが、ポツリポツリと空から主張してくるようになった。本格的に降りだす前に、気持ち急ぎ目で目的地への到着を目指すことにした。
大学までの道のりはあと三分の一。だいたい五分と少しといったところだ。
「ッ!!」薄い水溜りを轢いたら泥水が跳ねてスニーカーにかかった。
お気に入りのコンバースだったのに、グリーンのキャンバス地に染みができてしまった。心なしかうっすら靴下も濡れてる気がする。最悪だ。
そのとき、背負ったリュックサックの中で突然携帯が鳴った。
誰だ、こんなときに。
おおかた迷惑メールか、知らん間に登録させられたまま解除が面倒臭くなったメルマガだろうと思いつつ、この時間なら時間割の変更かもしれないと考え直して信号を待ちながらカバンを探った。
まさか休講か?いつもなら大喜びで踵を返すが今朝に関しては払った犠牲がちとでかいぞ。
ポップアップを見ると件名と本文の最初の部分だけが表示されており
「【緊急連絡】本日全面休講 全員自宅待機のこと」
という文字が読めた。
「あら、おはようございます。キミちゃん」
前方から聞き馴染みのない女の声がして私はスマートフォンから顔を上げた。しかしながら、私をそんな風に呼ぶ知り合いはひとりしかいない。
「毎度ありがとうございます。あなたの町の殺し屋さんです」
いつのまにか眼前にいた川瀬さんはそう言って私の口の中に何かを突っ込んだ。固くて苦く、金属のようだった。
そして、次の瞬間私の人生はあっけなく突如終わりを告げたのだった。ちゃんちゃん。
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