女友達②- 2
その日は朝から曇天で、傘をさすかどうか迷うほどの小雨が降ったり止んだりを繰り返していた。
気圧のせいかじんわりとした頭痛がゆうべから続いている。
通学路は田んぼと畑と家、それから田んぼと畑と家のあいだにぐんにゃりと横たわり、その穴ぼこだらけのアスファルトから雑草が生えている。タイヤが穴ぼこを乗り越えるたびにハンドルのベルがチンッと小さな音を立てた。
一応は世間一般にそこそこ名の知れた大学なのだけど、わたしの所属する学部は生憎とこのド田舎のキャンパスに設置されていた。
辺り一帯は学生向けワンルームマンションと安くて量が多いのがウリの飲食店が軒を連ねている。学生の街と言えば聞こえはいいが、実際のところはうちの大学に通う学生くらいしか住む理由がないというだけの話。
けれど、大学生のヨコシマな欲望のほとんどを叶えてくれない疎開先のようなこの地を、わたしは案外気に入っていた。華やかな街なかでの学生生活への憧れもないではないが、地味でこじんまりした生活のほうが肌に馴染む感じがする。
「俺はできるなら都会の大学に通いたいですけどね」
いつだったかバイト中にそんなことを話したら後輩はそう言った。
「受験のとき思いましたもん。『うわ、なんもねえな』って。これで街のキャンパスのやつらより学費高いのかよって」
彼は日本有数の難関大の受験に失敗してウチに来た学生のひとりだった。
ある夜の帰り道で、最近友人になった同級生はこう言った。
「『自然豊かな田舎のほうが健やかな子供が育つ』みたいな風潮ってあるじゃない?わたしあれ逆だと思うのよね。抑圧された幼少期を通ってきた人こそが、不健全で馬鹿馬鹿しい欲望を抱えたまま大人になるの」
彼女がどんな人間なのか、実のところ私はまだほとんど知らない。
そんな私たちの退屈な町で殺人事件が起こったのは先月はじめのことだった。
被害者は二十代の女性。報道によると遺体は一部が損壊されていたらしい。また、被害女性の自宅クローゼットから彼女の子供とおぼしき女児の遺体が発見されたそうだ。女児は腐敗が進んで肉がずり落ち、ところどころ骨がのぞいていたとネットの記事で読んだ。
つまり、母親の死より随分前からその部屋には死体が転がっていたということになる。
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