第4話

 真っ暗の中、踏切の少し前で僕と凪さんは向かい合うように立った。話の切り出しに困ったが、単刀直入に言うことにした。

「お陰様で記憶が戻りました」

「!! そうですか! さっきは急に倒れてびっくりしましたけど、良かったぁ」

 心配してくれる凪さんを僕は疑念の目で見つめた。そして、僕は自分の記憶について話し始めた。

 僕は八波町で生まれ育った中学三年生で名前は白浜凪。日向碧とは幼稚園からの幼馴染だった。そして、僕は彼女のことが好きだった。でも、碧の好きなタイプは高身長の知的な男性で僕とは真逆だった。夏祭り当日、大事な話があると言って拝殿の前で待ち合わせをすることにした。碧は気まずそうに、高校生になったら引越すということを告げた。なんでも、都市部の新学校へ通うためらしい。頭が真っ白になった僕は話を最後まで聞かずに泣きながら走った。自暴自棄になった僕は踏切の上で自殺を図った。

「これが僕です。今思えば、なんて青臭いガキなんでしょうね」

 僕は自嘲じちょう気味に吐き捨てるように言った。ただ、進学のために引越すだけなのに、彼女がどこか遠くの僕の触れられない場所に、行ってしまうと思えてしまった。心は後悔といきどおりに満ちていた。

 話を聞く男性の顔は真剣だった。そして、決意を帯びた声でこう言った。

「あなたは、まだ死んではいません」

「へっ?」

 意味不明な男性の発言に、間抜けな声が出てしまった。

「時間がありません」

 そう言いながら、男性は僕の手を掴み、足早に引っ張り始めた。

「ちょっと、待ってください。あなたは何者なんですか!ちゃんと説明してください!」

 男性の勝手に事を進める態度に苛立ち、手を振り払い声を荒げた。男性はびっくりした様子で振り返る。だが、再び手を掴み、引っ張られ、僕は踏切ぎりぎりに連れられた。

「あなたはすでに気づいている。僕のことも、この世界の正体も」

 そう言いながら、急に僕を突き飛ばした。予期せぬ行動に何もできぬままただ倒れる。彼は微笑みながらもうっすら悲しみを滲ませたそんな表情をしていた。そして、どこからともなく猛スピードで走る電車が現れた。

 自分でも分かっていた。ただ、認めたくなかった。あの時に彼女への想いをすべて捨ててきたつもりだった。だけど、これっぽっちも捨てきれていなかったことに。そんな弱弱しくもしぶとい自らの想いに呆れつつも感謝をした。

 電車にひかれた瞬間、僕の意識は暖かい光に包まれながら飛び散った。そこから先は何も覚えていない。

 気が付いたときには、病院のベッドの上にいた。

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未練の形 並白 スズネ @44ru1sei46

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