第3話

 脳内回想を終え、空を見上げると、太陽はすでに落ちかかって闇夜の訪れを告げていた。 

 僕はここで重大なことに気が付いた。もし記憶が戻らなくなったら、どうするのかを考えていなかった。凪さんにはこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。だとしても、どうすればいいのか分からなかった。必死に思考を巡らしていると

 「ドンドンドン、ドドンッ!」

力強い太鼓の音が鳴り響いた、後から笛の音や男たちの野太い声が聞こえてきた。

 「今日は祭りなんですよ、この町の。町全体が仕事を休んで祭りのために一日かけて準備するんですよ。すぐ近くの神社で、出店とか出ていますから行きましょう」

 またもや、誘いを断り切れずにうなずいてしまった。不安を抱えながらも最後の希望にかけることにした。



 神社全体は提灯ちょうちんで彩られ、境内には出店が連なって立ち並び、行きかう多くの人々の顔は活気に溢れていた。小さな町と聞いていたので侮っていたが想像以上だった。人ごみから抜けて二人で歩いていると、拝殿の前で一人寂しそうに立っている女の子を見つけた。

 その人物が昼間見た、日向碧だとすぐに分かった。急いで駆け寄ろうとすると、突然の頭痛に襲われ、あまりの痛さにうずくまってしまった。凪さんが駆け寄り声をかけるが、よく分からなかった。

 頭の中では痛みと同時に様々な映像が氾濫していた。学校の授業を受ける僕、下校をする僕、女子に声かける僕、泣きながら走る僕、そして、電車にひかれ死ぬ僕。断片的な映像が繋がり、僕はすべてを悟った。頭痛はとっくに引いていた。心配する凪さんに僕はこういった。

「最初の踏切まで戻りましょう」

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