第2話
気のせいだったのだろうか。市街のいろいろな場所を巡ってみて、気がかりな出来事はあったが、決定的なことは思い出せないまま徒労に終わってしまった。
橙に染まり、薄紫がかった空と絶え間なく鳴き続けるセミが僕を苛立ち、焦らせる。
「仕方ありませんよ。手掛かり一つとしてない状況ですから。あそこのベンチで少し休憩しましょう」
僕の心中を察してくれたのか、慰めの言葉をかけてくれた。知的な大人の雰囲気がそうさせるのだろうか、凪さんの穏やかかつ包容力のある声色は不思議と僕を落ち着かせた。
「すみません、こんな時間まで付き合ってもらって」
「いえ、気にしないでください。困っている人がいたら放っておけないたちなんで」
微笑みながら凪さんはそう返した。男でも惚れてしまいそうな優しくも甘い笑みだった。僕もこんな男性だったらなぁ、と心の中でつぶやいた。
あの子はどんな男性が好みなのだろうか、そう思っていると頭の中で彼女が現れる。黒髪のロングヘアにおっとりとしたたれ目の…
「今、少しだけ、
「っ! どうして分かったんですか」
「彼女のことを考えているとき、きみ、魂抜けたみたいにぼーっとしているよ」
「えっ、そっ、そうなんですか」
あまりの動揺に声が上ずって変な声になってしまった。しかし、自分でも薄々感じていたことだった。
改めて、最初に彼女であった時のことを思い出してみた。それは数時間前のことだ。
八波町は人口がさほど多くない小さな田舎町だそうだ。小、中学校は町にあるが高校はないため、近くの市の高校には電車で通うらしい。
凪さんから町についての説明を受けながら町の各所を巡った。でも、何も感じなかった。
近くに中学校があるから行ってみよう、と提案を受けたので行くことにした。
学校手前の長い坂を凪さんと話をしながら登っていると、向かい側から二人の女の子が歩いてきた。
二人とも黒髪で、片方はショートカットで小柄ながら筋肉質な体つきの女の子で、もう片方はロングヘアのお嬢様のような清楚な雰囲気のある女の子だった。可愛いなぁ、と思いながらロングヘアの子を見ていたら、すれ違う瞬間、顔を向かい合わせて話していたロングヘアの子がこちらをチラッと見た。目が合って、ドギマギした。間近で顔を見ると可愛さよりも甘い懐かしさを感じた。
離れていく彼女を、僕はただ
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