未練の形
並白 スズネ
第1話
気が付いたら、僕は踏切の上に立っていた。ここに立っている理由を思い出そうと、考えてみるが浮かんでくる何かは具体的な形を表す前に泡がはじけるように消えてしまう。それどころか、ここが何処で何年何月何日か、家族や親戚、友人、親戚の名前すらも思い出せない。
どうやら僕は記憶喪失らしい。周りを見渡し、誰かに尋ねようとしたが、あるのは遠くまで広がる田んぼと畑で、人間は一人としていなかった。
澄んだ風と緑豊かな風景にどこか懐かしさを感じた。頭の中で何か映像みたいなものが浮き上がってくる。しかし、途中でぼやけて、消えてしまう。
もやもやする気持ちを抑えて、自分のすべき行動を考えた。ここには踏切があるので電車が通っている、つまり、駅がある。無人駅でないことと近場であることを信じ、僕は線路に沿いに駅を目指し、歩くことにした。今日は雲一つない快晴だった。
「あち――い。」
返す相手もいなく、
空を仰ぐが、相変わらず、
歩き始めてだいぶ時間が立つが、どうも、駅に近づいている気がしない。もしかすると、まだ半分も来ていないかもしれない。
そんなマイナス思考を振り払うように、俯いていた頭を上げ、まっすぐ前を見ると、遠くにうっすらと人影のようなものがある。湧き上がる期待と
さほど距離はなかったようで、人影との間隔はすぐに縮まった。人影の正体は、白髪のショートカットに黒縁の四角い眼鏡、白いYシャツにカーキー色の長ズボンといった知的でクールな雰囲気を持つ美男子だった。胸がチクっと
「すいません、ここの人ですか」
突然の質問に少し驚いた様子だったが、すぐに
「はい、そうですけど。どうかしましたか。」
男性の声は、クールな外見とは異なった柔らかい温かみのある声だった。
「おかしなことをお聞きしますが、ここはどこですか、今は何月何日ですか、それから…」
「ちょっ、ちょっと待って下さい。いきなりどうしたんですか」
僕の質問を
「なるほど、記憶喪失ですか…ほんとうに何も覚えていないんですか。たとえば自分の名前とか」
「まったく何も。それに、不思議なんですよね。気が付いたら踏切の上に立っていたのも」
「そうですね。いろいろと気になることがありますが、一旦、市街へ出てみましょう。もしかすると、何か思い出すかもしれません。あなたの住んでいる場所は八波町と似たよう場所かもしれないので。案内しますよ、ここから市街はそう遠くありません。」
初対面なのに、道案内だけではなく記憶探しまで手伝ってくれる白髪の男性、
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