第7話
一度「欲しい」と言ってしまった物は、たとえいらなくなったものや、食べ物のパッケージのように、欲しかった物に付属してきた物であってそれ自体が欲しかったわけではない物でも、手放すことができない。
捨てたとしてもなぜか「俺の物」と認識され、いずれは俺のもとに戻ってきてしまう。常識的に考えて誰も必要としないはずの物であってもだ。
所有権を放棄できない。この力は、そういうものなんだ。
それでも、やはり信じたくなくて、走った勢いで自宅に帰ってきてしまった
占野のマンションでは、「燃えるゴミは火曜日」とかいう決まりはなく、マンションの敷地内に敷地内ゴミ置き場とかいう小さい建物があり、いつでもゴミを持って行っていいということになっていた。
できるだけ人目につかないようにそこに大きなゴミ袋に入れたゴミを置いてきた。
まっすぐ家に帰るのはなんだか嫌で、かといって結局不動産屋へ行く気持ちもなんだか失せてしまい、しばらく近所をうろうろしてから帰った。
自室の前に立って真っ先に目に入ったのは、ドアノブに掛けられたスーパーのビニール袋だった。
玄関で恐る恐る覗いた中身は菓子パンの袋、空っぽの紙コップ、湿った土だった。
何か冷たい物が脳天から足まですっと下りて行った気がした。
脳裏に浮かんだ公園で会った人の笑顔を、頭をふって振り払った。
でも、今のゴミはまだ戻ってきてない。いや「まだ」じゃない、もう戻ってこないんだ。そうだよ、なあ…
一縷の希望は、チャイムの音によってかき消された。
「占野さーん、落とし物ですよー」
絶望に満ちた表情でドアを開けると、マンションの清掃員らしき人が口がほどけた大きな袋を抱えて立っていた。
その人は袋をさかさまにするとぶんぶん振って中身を玄関にぶちまけた。パンやお菓子の袋にゲーム。間違いなく占野がさっき捨てた物だった。
「『あなたの物』、こんなにいっぱいゴミ捨て場に落ちてましたよ。ゴミと間違われないように気を付けてくださいね。それでは」
愛想よく笑って、清掃員らしき人は去っていった。
占野は玄関で頭を抱えた。抱えたところで、どうすればいいかなんて分からなかった。
詐欺だ。誰にともなくそう思った。
ピンポーン
再び鳴ったチャイムにびくっと飛び上がった。
さっきの人か? 玄関を開けた。
スキンヘッドにサングラス。高級そうなスーツ。
見るからに怖そうなお兄さんがタバコを吸いながら立っていた。
一瞬、硬直してから、ドアを閉めた。
ピンポンピンポンピンポンドンドンドンドンドンドンドン!
「開けろおらあああああああああ!」
ひいいいいいいいいいいいいい!
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