第5話

 まあでも、返品できないんだとしてもまた新しい家をもらってこっちの家は放置して引っ越しすれば問題ない。

 そう判断して菓子パンを食べながら不動産屋へと向かった。

(これ、思ったよりも不味かったな)

 食べ終えた菓子パンの袋を道端にポイ捨てしようとしたその時、地面に財布が落ちているのが見えた。薄くてボロかったが、まあついでだ。

「欲しい」

 袋を捨てるのと入れ違いに、財布を自分の物にした。


「あの、落としましたよ!」

 少し歩いたところで不意に後ろから肩を叩かれた。誰かが占野しめのが落としたものを拾ってくれたようだ。

「え? ああ、どうも…」

 振り向いて、拾い主がこちらに差し出す物を見た。


 一瞬、こいつは皮肉を言っているのかと思った。

 をポイ捨てした自分への皮肉を。

 しかし、満面の笑顔でぐしゃぐしゃになった袋を渡してくる相手は、とても怒っているようにもこちらをバカにしているようにも見えない。かえって不気味だ。

「…いや、それは捨てた物なのでいいんです…」

「そうなんですか? でも、『あなたの物』は『あなたの物』なんですから、あなたが持ってないとダメですよ?」

 拾い主はそう言うと、袋を困惑する占野に押し付けて去っていった。

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