第3話

 で、とにかくその能力を得た占野しめのはたいそう喜んだ。

 当時ちょっと色々とやらかして実家を無一文で勘当されて、衣食住にも困っていたところだったからちょうど良かった。


 早速試しにスーパーで使ってみた。

 売り物の板チョコを1枚手にとって「欲しい」と呟くと、そのまま包みを破って食べながら歩き出した。

 流石にドキドキしたし、僅かながら罪悪感もあった。

 いつもよりゆっくり歩いていたからだろうか、店員に呼び止められた。

「あの、お客さん? お金払いました?」

 ギョッとはしたが、占野はつとめて堂々とこう答えた。

「何ですか? このチョコは俺の物なんですが?」

 普通チョコ食いながらドヤ顔でこんなこと言われたら頭に来るだけだよな。


 だが店員は怒るどころかほんの一瞬きょとんとし、それから慌てて返した。

「そうですね。あなたのです。すいません」

 そうして、そそくさとその場を去っていった。


 この能力は本物なんだ。占野はほくそ笑んだ。

 チョコを食べ終わると、スーパー中のあらゆる好物に向かって「欲しい」と唱えた。

 食べ物だけでなく、家具や家電製品、服やゲームや漫画なんかも「欲しい」と言いまくって手に入れた。

 その後は不動産屋を訪れて気に入ったマンションに「欲しい」と言った。

 最後に、銀行に行って「今ここにある金全部『欲しい』」と言って金も確保した。とんだ銀行強盗だな。

 こうして、当面の生活をどうするのかという問題をあっさり解決した占野は新居での新生活を始めたわけだが…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る