2018 Beginning

入学は穏やかに。

入学式に桜が咲き誇っているか、と問われれば、皆肯定の反応を返せるわけでもなかろう。

桜に対し、必要性と需要を感じるか。と聞かれれば、それは否だ。

「ふぅ…散ったぞ、とっくに」

他より一足早く来ていたこの少年は、今年度の主席である。

「さて…と、おはよう、とでも」

その瞬間に響いたのは、自転車の止まる音だった。

それが示すのは、この学校の生徒。加えてこの時間ということは、新入生だろう。

「おはよう…とでも」

追うように響いたのは、僅かに低めの声であった。

低いのは声質の問題ではなく、眠気が残っているからかもしれないが。

「この時間に来るとは…優等生だな」

「主席に言われちゃ皮肉なもんだ」

初対面である筈だが、なかなかに軽快なテンポで会話が進んでいく。

「挨拶は主席だけでよかろうに…と、思っているだろう」

「その通り…とも言えないんだな、それが」

面倒くさそうな態度から主席はそう推測したんだろうが。

どうやら、この副主席はその推測からは外れているようだ。

「…その心は」

「いやなに、売名ということかな。この学校で、入学の時点で教師に私の存在を認識させられるのはいいことだ。所詮、この挨拶が無けりゃ、主席様にしか目を向けられてなかっただろうからな」

要するに、媚を売っておこう。ということだ。

入学の時点での、教師に対する強力なアドバンテージになるということか。

「ふむ…なかなか、世渡り上手な思考じゃないか」

「一応、他に比べてそれなりに経験は詰んできてるのでね」

「経験?」

「世渡りのな」

実際、社会に出たということか。はたまた唯のバイトか。

「お前は…」

「どうした」

「面倒くさいことは嫌い、とか。なるべく目立ちたくない、とか。そのような独特の考えをもってたりはしないのか?」

中学二年生特有の病気の持ち主には、稀に出る症状だ。

…語弊がある。もとから、そのような性格の人間も居る。

「そうだな…実際、そんなものは想像の世界だけのもんだ、と言っておく。実際、それはかなり合理性を欠いてるんだよな。この時代、誰よりも目立とうとしなきゃ結局はやっていけないさ」

「…随分達観しているというか」

「どちらかと言えば、サラリーマンな感じだけどな。先に行くぞ」

どうやら、彼はいつの間にか自転車を置いてきたようだ。

「そうだな、入学早々遅れて目の敵…というのはなかなか気分が悪い」

「まあ…まだ時間まで30分以上あるんだが」

この学校の入学式は、在校生が8:00で、新入生が9:00に来るようになっている。

新入生代表は、7:30までに来るようになっている。

だがしかし、彼らは7:00に既に登校していたのだ。

「会長まだ来てないんじゃないか」

「来いと言っておいた本人が遅れる…そんなリーダーの学校なら興醒めだ」

「辛辣だな、主席」

新入生でこのような考えとは。

なかなか辛辣、というか度胸のある人間だ。

開いているかも定かではない学校へ向かう。

「副主席…と呼ぶのもどうなのか、といった感じだ。柊…と?」

「勝手に。主席でいいだろ?」

「苗字の一つも呼んではくれないか」

何故、こうも2人は会話が弾んでいくのだろうか。

互いに、コミュニケーション能力が高いわけでもないが。

「仲が良い訳でもないしな」

「おや、それを直球で言われるとは…存外傷つくな」

「さっきの会長への言葉…それこそ傷つくもんだろ」

「ブーメラン…かな」

他愛も無い会話をしつつ、無事開いていた学校へ入る。


学校への初の入場…


それが全ての始まりであったと。





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堕ちた作家は死して夢を見る Laziness @Laziness1108

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