舞風高校

ライトノベルの高校なんかでは、なかなか如何して特筆すべき点がある。

外に出ることが許されず、ポイントなんかが採用されていたり。

E組は山の上の校舎だったり。

何故か生徒会が2つあったり。

そう、いかにも物語フラグが生まれそうなものばかりだ。


しかし、この『舞風高校』

国立の進学校……でもなく。

魔術師を育成する魔法学校……でもなく。


なに、ただの県立高校だ。


特別都会な訳でもなく、閑古鳥の鳴いている田舎でもない。

進学に力を入れるほど、勉強をしているわけでもない。

かと言って、別段部活に力を入れているわけでもない。

生徒会の権力も特に強いわけでもない。


入試のレベルも普通。

テストの平均点も、全国平均程度。


『悪くは無いが、良くも無い』


この言葉は正に、この学校を言い表すために出来た言葉のようだ。


唯一特筆すべき点があるとすれば、妙に図書館が大きいことだろう。


…まあ、それ以上は何も無いのだが。




さて、そんな学校でどんな物語が紡がれるというのか。


では、一つ。入試にて498点を叩き出した生徒の話をしようではないか。



名を…【斉藤 灰賀さいとう はいが


その者が主人公かと聞かれれば…




否としか答えられないだろう。






2018年3月17日


沸くのは、歓喜。または、悲鳴。または、絶望。または、または…


挙げれば尽きないが、数多の感情がそこには渦巻いていた。


1人、喜びも悲しみも無い、無機質な人間がいた。


「498……点数なんて明かしていいのか」


この受験の発表では、まさかのまさか。点数まで明かされる。


入試の点数を公衆の面前で晒すとは。


批判の嵐になりそうなものだが、何故か声の一つもあがったことはない。


「この2点は…作文か」


大抵、受験に合格すれば親などに連絡する物だが。


「帰るか。別段報告というのもないし…な」


この発表は、点数の高い順に表示される。


彼は、自らの合否以外に興味は無かったが、一つ興味を引かれるものがあった。


「2位の者…496?まさか。そんな有力株があったか」


この学校の入試は、他と比べて決してハードルが低いわけではない。


そんなテストで、1・2位がこんな点数なのは、なかなか無いことだろう。


「面白い…何の変哲も無く、面白みも無い学校だと思ったが」


そんな学校を選んだ理由に、波乱を好まなかったということもあるが。


「名を…



 『柊 芳鳴ひいらぎ ほうめい』か」


僅かに雪が残った道を、軽い足取りで戻っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る