同棲しているカップルを描いた短編小説です。
好きな相手と一緒に住むなんて、本当に特別で素敵ですよね。
けれど、それ故の問題も起こってしまいます。
お互いを思いやる主人公二人があまりにも健気で、涙が出そうになりました。
好きだからこそ、相手を気遣う。思いやる。
でも、相手を思いやれば思いやるほど、溝が出来てしまう。埋めようとすればするほど、深くなってしまう…。
気遣い合いが裏目に出て、すれ違う様が大変もどかしくて、本当にやきもきしました。非常に緻密で圧倒される心理描写に、登場人物へ尚更感情移入してしまい、
しかし何も出来ない自分につい苛立ってしまいました。
主人公二人の切実たる思いにどちらも共感できて、胸が苦しくなりました。
ラストがどうなってしまうのか、一度読んだら目が離せませんでした。
人間の心とは大変複雑です。中々解くことが出来ない、こんがらがってしまった糸のよう。
ですから、ぶつかることが必要なのだと。どんなに好き合っていても。
思いやりだけではいけない。何度もぶつかり合って、それを乗り越えていくことで、愛が深まるのです。
不思議ですね、心というものは。
複雑に絡まった糸が解ける瞬間も、あっという間なのですから。
愛と優しさの物語です。
やっぱり相手を思いやるっていいなと感じられるし、
愛っていいなと、じんわりとした気持ちで満たされました。
いぶき と りょう は、同棲中のカップル。仕事が忙しくなった いぶきのことを、りょうは思い遣るが、いぶきの想いとは食い違ってしまう。ある日、とうとう二人はぶつかってしまいーー
一緒に暮らしていく日々には、好きとか愛しているという気持ちだけでは、簡単に解決できない問題が、沢山あるものですよね(しみじみ)。主人公二人が遭遇したのも、そんな問題の一つで、「どちらの気持ちも解るなあ」と思いながら拝読しました。
だからこそ、二人がぶつかる場面では、本当に心配しましたよ……。
いつもながら、恋愛に関する心の動きを、丁寧に繊細に描きだす作者さまの筆力には、惚れ惚れします。
甘く切ない物語を、堪能して下さい。