アナザースペースLOVE~異世界で始まる恋~

ブリアレオス

encount01 異世界

『こちら空母「キャリアー」。現座標を維持。半径1000km周囲に敵性反応無し』

『調査艦隊Σ(シグマ)の大気圏突破を確認』

『進路、空母「キャリアー」甲板。着艦まで約374分43秒』

『護衛隊は予定通り調査艦隊Σを帰艦まで援護』

 静かだったコックピット内が騒がしくなる。緊張で震える手を握りしめ、落ち着いてメインスラスターに火を入れる。

 全長5.5mの人型のそれは、背中の箱から突き出しているエンジンから火を噴いて真っ黒な宇宙を進みだした。

『新人、初任務だからってあまり固くなるなよ』

 顔をグルリと囲むように湾曲したモニターの端から、紫色の人型ロボットが現れた。

『いきなり宇宙(そら)とは災難だろうが、操作はゲームより簡単だ。頭で考えりゃ勝手に飛ぶ。アームスレイブタイプは誰でも扱えて即戦力になれるのがウリだ』

「了解。ありがとうございます、隊長」

 俺が乗っているのは、いや、着ているのはアームスレイブというシステムを載せた元々工業用のパワードスーツに装甲と戦闘プログラムを追加して軍用兵器化されたものだ。通称『ヘカトンケイル』

 宇宙開発が進んで宇宙での作業が人の手とロケットによる打ち上げだけでは間に合わなくなってきた人類が作り出したパワードスーツで、操縦者の動きを拡大強化するのが目的だった。21世紀始めから開発が進んでいた代物で、今では一般人でも免許を取ればパワードスーツを持てる時代になっている。

 全身を包み込むようなコックピットは、操縦者の肩や肘、膝、足首、さらには指の各間接の一つ一つまでを読み取ってパワードスーツの大きな腕や脚をシンクロさせる仕組みだ。それ以外の機能や操作はヘルメットに装着された電極が脳波を読み取って自動で動かす仕組みだ。

 俺が着ているのは軍用で、やたらカクカクしたシルエット。分かりやすく言うとゲームに出てくるロボットだ。地上用と宇宙用があって、得意な事が違う。ただ俺のだけは特別で、自力で大気圏を突破したり突入したりできる陸海空宇宙万能型試作機だ。

『気楽に行け。そいつの試運転とテストをしてる気持ちでな。奴等も下手に手を出しては来ないさ』

「宇宙人になんて出会わないと思ってましたよ、WSM(ワールドスペースミリタリー)に入るまでは……」

『ところがどっこい、奴等も我々と同じく新しい住み処と資源を探してるんだとさ』


 地球温暖化と資源枯渇、砂漠化、海面上昇を止められず、人類はその数を約一割にまで減らした。母星である地球を捨て、新しい母星を求めて宇宙へ手を伸ばした。最有力だった火星は予想通りで、大気さえ調整すれば十分住める星だった。火星開発開始から20年、人類を邪魔する存在が現れた。


 宇宙人である。


 それまで宇宙人は空想上の生き物であったり、誰かのイタズラだったりした。しかし、科学では説明ができなかったり不可解な部分も多く、存在そのものが怪しかった。それが今、火星を取り合って人類と戦っている……


『まぁ、スーツの最終試験じゃ移動と姿勢制御はトップだったんだろ?死ななきゃいいさ。そのスーツも自力で宇宙と星を行き来出来てその上スラスターと武装を強化した最新型で、他にもごちゃごちゃと凄いモンが積んである。俺が着たいくらい…………おい新人』

 突然、フルフェイスヘルメットから聞こえる声がワントーン下がった。

『来たぞ。指令艦に伝達。敵襲だ』

「え?」

『聞こえなかったか?敵襲報告をしろ!すぐに第一種戦闘態勢要請だ!』

 直後、レーダーに反応。コンピュータよりも早く察知できるのはえ

 モニター端に映っていたリーダー機が急加速して最前線になる。俺も慌ててその横に付きながら緊急通信回線を開く。

「こちら警備護衛部隊、ロイヤルナイツ!敵襲です!」

『了解、直ちに調査隊の防衛に向かい、時間を稼げ。120秒後に増援部隊が出撃する。なんとしても調査隊に被害を出すな。特に05番には重要な研究素材が積まれている。貴殿が搭乗している機体も最新鋭機だ。無理をしない程度に損傷を抑えろ。繰り返すが、最優先事項は調査隊に被害を出さない事だ。健闘を祈る』


◆◆◆◆◆◆


 弾薬が残り少ない。補給に向かう暇もない。敵は本腰を入れているらしく、攻撃の手を緩める気はないようだ。次から次へと増援が湧く。

『新人!無事か!?』

 戦闘区域内の敵を殲滅したものの、つい先程敵増援がこちらへ接近しているとの報告が入った。調査隊もメインエンジンに被弾、損傷、停止。敵の殲滅まで離脱は全く見込めない。隊長機も中破、あちこちの装甲が剥がれてフレームが丸見えだ。左腕も動力部がダメージを受けているのか、うまく動いてないみたいだ。

「はい、バルカンが肩に数発掠めただけです!」

『流石だな。今のうちに弾薬の補給に向かえ。俺も機体の応急処置で一時帰還する。弾薬が少ない中悪いが道中援護頼む』

 その時だった。通信スピーカーからノイズが大音量で一瞬流れた。

『なんだ今のは?通信装置の異常か?』

『違います!敵の新兵器による影響です!被弾した機体が一瞬で……しょ、消滅しました!』

『何!?』

 直後、レーダー内に巨大な反応が無数の雑魚と共に現れた。

『警告、データベースに存在しない敵です!全体、警戒を!詳細不明の兵器を搭載しています!一発でも被弾すれば「消滅」します!絶対に回避してください!』

 メインカメラ望遠機能でその敵影をズームする。明らかに、大きさがおかしい。

『な、なんなんだあれは……ッ!』

『カテゴリー分類不可能!今までの奴等とは比べ物に……う、うぁッ!?』

 偵察機の反応が消滅。よく見えなかったが、牛乳瓶くらいの大きさのミサイルのようなものが、何の軌跡も描かずに飛んできて、偵察機に着弾した途端……小さなブラックホールのような球体に変化して偵察機を吸い込み、消えた。

『分析出ました!例の敵は特殊な粒子による不可視の全方位シールドを展開しており、実弾兵器及びミサイルは無効化されます!恐らくその粒子により接近も阻まれ、近接攻撃も不可能と思われます!よって、試作段階のビーム兵器のみ有効と分析されます!また、あの攻撃は時空間を歪めてその周囲の物体を全て吸収、異空間若しくは別の場所へ強制転移させるものだと推測されます!』

『総員、奴の周囲にいる雑魚を先に片付けろ!奴には無駄弾を使わず弾薬を節約しろ!ビーム兵器の準備が整うまでできる限り時間を稼げ!くれぐれも奴の射線上に出るなよ!』

『『了解!』』

 とは言われたものの、実戦にまだまだ不馴れな俺はこの機体の性能に救われているだけで……奴のような敵に勝算はまずないだろう。

『新人!ぼさっとするな!後ろだ!』

「えっ?」

 奴に気をとられ過ぎた。巨大なカブト虫のような雑魚が2体、背後から迫っていた事に、気がつかなかった。反応する間もなく、両腕を掴まれた。

「し、しまっ―-」

 目立つ奴がいれば狙われるのは常識の中の常識。ひたすら攻撃を避け、ひたすら撃破してくるような奴がいれば厄介がられる。それが俺だった。目の前に、奴。芋虫のようなそいつは、頭の両脇に空いた穴から例の弾丸を撃ち出す。その射線はまっすぐに俺に向いていた。悲鳴をあげる間もなく、俺は意識を失った。


 その意識を失う瞬間、直前まで見ていた光景が巻き戻されていくのが見えた。



「お前は我が家の恥さらしだ。一家の看板に泥を塗った」

 初老の男が目の前に現れた。逆光で顔は影になって見えない。

「散々俺を縛って、行動を監視して、ろくに社会勉強させてくれなかったくせに、それで社会にほっぽり出して『なにも知らない癖に』って理不尽だろーが」

 すると、その隣に同じくらいの年齢の女が最初からそこにいたかのように現れた。

「なんで貴方がいるの?邪魔よ、存在が」

「うるさい。俺にとっちゃお前の方が邪魔だ、泥棒猫」

 この場にいるだけで胃がムカムカする。早く逃げ出してしまいたい。気に入らないのは全て排除して、それで満足なこいつらが気に入らない。なぜ受け入れようとしないんだ。


「「お前なんて要らない」」


 二人が口を揃えてそう言い放つと、急に世界が書き変わった。最近ようやく見慣れた270度モニターと、機械に包まれるように埋もれた自分の体。モニター中央下に表示された機体状況はほぼ無傷。そして、モニター全体に写し出されている光景は……

「……雲……宇宙(そら)じゃない……」

 綺麗な青空に小さな雲がぽつぽつと浮かんでいる。太陽もある。なぜ地球にいるんだ?どうやら俺はヘカトンケイルに乗ったまま仰向けに倒れているみたいだ。

『まだ機能してるみたいだ』

『見たところ、他の遺物と文明も技術も似ているが……妙な事にここに出現してから殆ど年月が経っていないようだ』

『まさか、今までに見てきた遺物は……』

 自動で大気内用マイクが機能していたらしく、外の会話が聞こえてきた。


 そうだ、俺は奴等の新兵器にやられて……!


 慌てて上半身を起こすと、数人の悲鳴が聞こえた。

「なんだ?」

 首を回して周囲を見渡せば、何人もの人が俺の回りを取り囲み、立ち入り禁止のテープで封鎖していた。ようやく気がついたが、俺は崖下で雑木林に倒れていたらしい。胸や肩に乗っていた人を吹っ飛ばしてしまった。

『う、うわぁ!う、動いた!?』

『落ち着け!下手に刺激するな!』

 そう叫んだ人々を見て、自分の目を疑った。動物だ。動物の頭と毛皮、尻尾がある人が、白衣や作業服を着てヘカトンケイルの回りで慌てていた。犬や猫、狐、狸、鳥、トカゲ、種類は様々だ。

『て、鉄の巨人よ、私の言葉がわかるかい?』

 座り込んだままの俺の目の前に、白衣を着たフクロウが恐る恐る歩み寄ってきた。日本語だ。俺が知る日本語だ。

「わかる」

 どよっ、とその場にいた全員が驚きに目を開き、視線を俺に注ぐ。

『君は……どこから来たのか、どうして倒れていたのか教えてはくれないだろうか……』

 さっきまで気絶していた俺にはよく状況が把握できていない。ヘカトンケイルのAIなら全て把握しているだろう。すぐにAIに説明させた。

『マスターに代わり、この私AI「ミネルヴァ」が説明いたします』

『声が変わった!?』

 獣たちは一々驚いては必死にバインダーノートに文字を連ねていく。まるで俺が宇宙人に見えるかのようだ……だけど、それで合っているのかもしれない。

『機体登録時刻0354時、惑星アルギス軌道上、座標533.46.92にて未確認生命体の襲撃を受けました。以下、未確認生命体を乙とする。乙の新兵器による時空崩壊現象により私とマスターは詳細不明の異次元へ転移、マスターは転移時のショックで意識を喪失。4時間42分17秒間異次元を浮遊。一切の前兆無く、突如この惑星の高度17m上空へ転移。落下。落下後46分経過時、貴方が私を発見。さらに発見から12分後、マスターの意識が回復、現在に至ります』

『そ、そうか……つ、つまり、君は……異世界人……なのか?』

『はい。状況から判断するに、異世界人だと名乗るのが適切と判断します』

「ありがとう、ミネルヴァ。俺も大体理解した」

『礼には及びません、マスター』

 とにかく、もう体の節々が痛い。コクピットから出て体を伸ばしたい。コクピットを解放し、窮屈なシートから体を引き剥がすように機体から抜け出す。太陽からの日差しが心地良い。フルフェイスヘルメットとスーツで全身包まれてはいるものの、気持ちの良い風が吹いているのはわかる。

 ヘカトンケイルの腰に乗り、大きく背伸びをする。



 宇宙の殆どが未だに科学で証明、解明されていない。俺はそのまだ分からない部分を先行して目の当たりにしている。

 どう説明したらいいか、適切な言葉が思い付かない。

 ともかく、俺はこの地球に似ているようで似ていない、妙な世界を旅することにしよう。

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