第7話 『時間制限クエスト2』
クソが……。
すっげー壁が殴りてぇ。
食うわ食うわ、どこに入るんだって言うぐらい食いやがった。
結局3万程が消えていった。
ま、その分色々情報を得た訳だが。
って言うか周りも見てたが、みんな真昼間から酒飲み過ぎ。
俺が言うのもなんだけど、ダメだこの世界。
っと、
「『マニュアル』、この間の景色の良い場所に移動してもらえるか?」
了解です。
瞬間、すっと周りの景色が変わる。
この間来た場所だ。
昨日の子と約束してしまったからな。俺はそう言うのは律儀なんだ。
ちょっと離れた場所に誰かが居る。多分アリアだろう。
近づいて行くと向こうも気付いたのか、駆け寄ってくる。
「御機嫌好うサイト様、来られないかと少し心配でした」
「約束は守るタイプでして」
そのままその場に座り、雑談をする。
冒険に興味があるのかそれ系の話をせがむアリア。
よし、ラノベとゲーム、アニメで鍛えた俺の知力を見せましょう!
お姫様が悪いドラゴンに捕らえられ、勇者から助け出されるってベタな話をしたんだが、アリアは夢中で聞き入っていた。
物語も佳境に入った所でやはり遠くから誰かが呼ぶ声が聞こえる。
アリアは悲しそうな表情を浮かべながら、
「あ……もう帰らないと」
今にも泣きそうな顔だ。子供のこんな顔は心にちくちくと刺さるね。
俺はガラにも無くつい、
「続きはまた今度な」
と言ってしまった。
その瞬間、背景に花が咲き乱れたような感じでぱぁっと明るくなるアリア。
「本当ですか、じゃ今度は明後日またここで」
そう言ってこちらに手を振りながら呼ばれる声の方へと駆け出す。
こっち向きっぱで手を振ってると……あ、コケた。
アリアは恥ずかしそうに立ち上がると、それでもこちらに手を振りながら去って行った。
いやー、何だか心が洗われる様だ。
明後日か、丁度バイトの次の日だから大丈夫だな。
俺は人目が無い事を確認してから『マニュアル』先生に元の部屋へと戻してもらう。
全裸で部屋に戻った俺。うーん、本当に段々違和感なくなってきたなぁ。
と、それよりも。
俺は机の中のお金を確認する。
ギャース! やっぱり8万円減ってるぅう!
通行料+装備で5万、あいつらの飲み食いで3万か……。
理由があるとは言え、女に飲み食いされたかと思うと洗われた心がどんどん汚れていく……。
腹が立ったので、その日は飯食って風呂入ってすぐ寝た。
目が覚めた。
時計を見る。
3時過ぎ?
なんでこんな時間に起きたし?
しかも何だか寝起きにしては頭が随分はっきり……。
お眠りの所、大変申し訳ありません。
やっぱり、こいつか。
急で申し訳ないですが、時間制限クエストが発生です。
む、時間クエ?
起き上がって部屋の電気を点ける。
今回も対象破壊クエストですが、範囲が広く時間制限が後30分程です。
「うは! 無理無理そんなん無理だわ」
制限時間を聞いて俺が再び布団に戻ろうとすると、
ええ、緊急なので報酬を100万円程用意させて頂きましたが、確かに無理かもしれませんね。ではこの話は無かった事に……。
「俺いっきまーす」
快諾して頂いて助かります。
「因みに人殺すとかじゃないだろうね?」
時間が無いので説明は行きながらしたいと思いますので、準備をお願いします。
「わーった」
はぁ!
気合一閃、すぽぽぉーんと服を脱ぎ捨てるとあっと言う間にまっぱっぱ。
今なら早脱ぎ大会とかあったらいい所まで行けそうな気がするな。
視界が真っ白になり、転送が開始される。
さて、先にクエスト内容ですが時間は到着した後30分となります。
対象の破壊ですが、山頂にある岩石の破壊です。
これはただの破壊ではなく完全に破壊してもらう必要があります。
現在夜と言う事もあり、広範囲を加味して今回は装備の種類が追加されます。
装備の最適化、『鉄壁のローブ』、『リングLV3』、『加重の杖』、『暗闇の眼鏡』、『風の履物』を付与。
お、いつもと確かに数が違うな。
装備の説明ですが、『鉄壁のローブ』はダメージを1回のみ完全防御に加えてローブ自身ダメージをある程度跳ね返す能力を有しています。
『リングLV3』は身体能力、防御力向上に加えて持続的な体力回復が出来ます。
『加重の杖』は今回使用制限がありません。使用方法は『グラブル』と唱えると半径30mの物体に超重力が発生します。
射程は50m、目標設定は杖を掲げて視線で設定となります。
注意事項は超重力内に入ると巻き込まれますので、必ず超重力の外に居るようにして下さい。
いや、マジで装備が物騒なんですけど……。
『暗闇の眼鏡』はどんな暗闇でも昼間のように見えます。現代における暗視ゴーグルが一番近い説明になるでしょう。
最期に『風の履物』ですが、これは自由に空を飛ぶ事が可能です。
ただし、制限時間があり連続使用は30分が限界になりますのでご注意下さい。
「どうやって空飛ぶんだ?」
飛ぶ事を強く思って下さい。基本イメージ通りに飛べますが、最初はただ飛ぶ事だけに集中した方が良いですね。
『加重の杖』は上下左右全てにおいて半径30mですのでその点もご注意下さい。
「お、おっけー」
それでは目標地点に到着します。
今回夜だし、時間制限を考えると一気に終わらせて即逃げで何とかなるかな?
と、思ってると視界が元にもど……え?
落ちる?!
視界が戻るとコールタールのように真っ黒な空間に落下する感覚だけがする。
「うわわわ!!」
見たいと強く思って下さい。
それと『飛べ』とも。
いきなり出来るかぁあああ!!
目に集中すると一気に視界が見えるようになる。
落ちてる落ちてる!
飛べ飛べ飛べよ!!
ぴたっと落下が止まる。
「ふぅうう……」
滝汗だくだく、なのに冷たいとはこれ冷汗か。
心臓がバクバクするよ全く。
問題なく操作できたようですね。それでは次に……。
「効率的過ぎる! 次からせめて地面スタートで!」
了解しました。それについては検討します。
それでは次に破壊対象を眼鏡に投影します。
ぱっと目に映ってる山々に点々と赤でマーキングがされていく。
うは、確かに結構数が多いぞ。
とりあえずまず手前から。
「グラブル!」
効果範囲に気をつけて魔法を解き放つ。
杖が一瞬だけ光ると山の岩石が効果範囲に沿ってグシャリとえぐられる様に潰れた。
うは! マジこえー。
しかし、この数ビビりながらやってたら終わらないぞ。
俺は『マニュアル』に効果範囲に入りそうな時は声をかけるように言ってどんどん魔法を打ち込む事にした。
『マニュアル』の正確さを考えるとこれでこっちが気にする必要はほとんど無くなるはず。
「グラブル! グラブル! グラブル! ガクブル!」
あ、最後の一回間違えた。
「グラブル!」
よしクリア。
『風の履物』にも慣れたがそれを楽しんでいる余裕が無い。
間に合うか……いや、間に合わす!
100万パワーー!!
俺は喉が張り裂けるまで魔法を連呼する。
どうにかこうにか努力の甲斐あって、ぎりっぎりで完了。
「はぁ、はぁ、や、やった、100万、はぁはぁ」
お疲れ様です。それでは帰還します。
「へ?」
瞬間、視界が真っ白になってすぐに俺の部屋に戻った。
まっぱはいつもの事だが疲労感が半端無い。
想定より体力の消耗が激しかったのでしょう。『リングLV3』でも追いつかなかったようですね。
(なん……だと)
喉も痛くてもとても声が出せない。
まぁ、各種効果が多少残っていますので、明日にも回復すると思われます。
それでは報酬を置いておきますのでご確認下さい。
「う……げ、げぐご」
俺は這うように『マニュアル』の上に置かれた札束を確認する。
眠い! 物凄い眠い!
やばいやばい、意識落ちる。
この札束置いたまま倒れる訳には……。
俺は最後の死力を振り絞って報酬を机の中に隠す。
その刹那、かくんと意識が落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます