第6話 『そうだ異世界に行こう』

 何て事だ。

 こんな深夜に目覚めてしまうとは。


 現在時刻7時、ただの『朝』ですよ。


 『マニュアル』先生からの突っ込みは置いといて、昨日早く起こされたせいか随分な時間に起きてしまった。

 とりあえず朝食を食べて『マニュアル』先生からクエストでも受けるか。

 居間に降りると母親から開口一発『今から寝るの?』と聞かれた。ショック!

 ま、普段の生活態度の賜物だろうけど。

 2万置いてた件もノーコメントだったので、金額的にあれぐらいで良かったと安心。

 朝食を食べてから歯を磨いたりと準備を整える。


「さぁ! 『マニュアル』今日のクエストは!」


 ありませんよ。


「はぁ?」


 だからありませんよ。


「マジかよ……毎回何かある訳じゃないのね」


 がっかり……。しかし、それならそれで今日は向こうを色々と見て回りたいなぁ。


「『マニュアル』、クエスト無くてもあっちの世界には行けるのか?」


 可能です。


「お、それなら今から行きたいんだけど……」


 を頂ければ、可能です。


「通行料?」


 はい、基本的にクエストはこちらの依頼ですから通行料等発生しませんが、そちらの個人的な要求であれば別になります。


 ……マジかよ。意外としっかりしてるな。


「いくらぐらい?」


 往復1万円です。


 おや? 思ったより安い。


 装備のレンタルも行えます。それこそ金額を支払う限りいくらでもレンタル可能です。


「仮にローブだけ借りて行った場合は」


 それなら通行料に含みますので1万円です。


「じゃ、初日の装備だった場合は?」


 トータルで5万円になります。


 むむむ……結構掛かるが、今の俺ならそうでもない金額だ。

 登山に行っても結構かかるんだ。異世界行くなら安いと見るべきか。


「じゃ、それで頼む。行く先は街の近くで」


 了解しました。

 ルールの1つですが、向こうへの滞在時間は最大24時間です。

 24時間を過ぎると強制的にこちらへ転送されます。


「へ~、そうなんだ」


 それから向こうに滞在した時間分、再び行けるようになる時間が延びます。

 貴方の理解度に合わせると最大24時間滞在した場合、強制転送後24時間経過しないと再度行く事が出来ません。


「ふーん、ルール結構あるなぁ。きちんと理解した方が良いか?」


 構いませんが正確な把握にはかなりの時間を要します。

 今のように適宜こちらから指示する方が合っていると思われますが?


「……確かに。めんどくさいしな、はっはっは」


 納得頂けて光栄です。

 さて、それでは移動しますのでいつものようにお願いします。


「おう」


 すぱぱぱぁっと、全裸になる俺。

 この感覚に段々抵抗を感じなくなったような……。

 まっぱになった所で、いつものように視界が真っ白に変わる。


 装備の最適化、『ローブ』、『火の杖』、『リング』を付与。

 街より1キロ程離れた場所に到着します。


 さぁっと視界が戻るとそこは林の中だった。


 人目を避ける為にこちらを選択しました。

 ここより指示する方向へ行けば街へ到着します。


「おっけー」


 『マニュアル』先生の指示に従い、俺は街へと到着する。

 地図要らずとは全くもって便利だぜ!

 とりあえず街へと入る、がその前に門に守衛が居た。

 街へ入るのに何か手続きでもあるのかな? とおっかなびっくり通るが、守衛の一人がこちらをチラリと見るだけで特にお咎め無しで入れた。


(入る手続きすら無いとか意外だな)


 貴方の理解度に合わせると、この街が『冒険者の街』だからですよ。

 人類以外の脅威に対する防衛戦力の街ですから、街への出入りも多くこの時間だと人間の出入制限はほぼありません。


「ほっほう」


 なるほど、この格好だから守衛さんに冒険者扱いされてノーチェックだったと言う事か。


 以前にも説明しましたが、この世界では魔法使いは貴重なので色々目立ちます。

 挙動に気をつけないと行動に支障が出るでしょう。


(へいへい)


 ありがたい『マニュアル』先生の助言を聞きながら、俺は街をぶらぶらと歩く。

 思った以上に人通りも多く活気があるな。

 多分、モンスター退治での経済効果がすごいんだろう。

 適当にふらふらと歩いて見物していたが、良い匂いに誘われて一軒の店に辿り着く。


(えーと、飯屋?)


 中をちらっと覗くと飲み屋兼飯屋って感じだ。

 結構腹も減ってきたし、この世界の飯でも食べてみるかな。

 って、この世界の金が無いや。


(『マニュアル』、この世界のお金を手に入れるには?)


 2つあります。働いて稼ぐか、貴方の財産をこちらのお金に換金するかです。


 なん……だと!


 因みにこの世界では、金貨=10万円、銀貨=1万円、銅貨=100円ぐらいです。

 換金は1万円からで、帰還する際には残額がいくらあっても持っていけませんのでご注意下さい。


 にゃんだとぅ、結構あこぎな商売だな。

 仕方ないので1万円を『マニュアル』に換金してもらう。

 さっきから現金を支払っていないが、『マニュアル』に確認したら現実の俺の金から都度引いてるとの事。

 まぁ、あれだ。どっか旅行に来たと思えば痛くもないか。

 そう自分を納得させて店に入る。


「おぉ……」


 思わず声が漏れる。

 何だろう、いかにもって感じの酒場の雰囲気だ。

 こう言う飯食える、酒飲めるって場所は冒険者の溜まり場になるんだろう。昼時ってのを合わせて結構繁盛してる。

 俺はそのリアル感にテンションを上げながら席につく。

 木で出来た頑丈そうなテーブルだ。ゲームでこんなのを見た事あるが、実際見るのとではやっぱ違うな。

 座りながらテーブルをぺたぺた触っていた俺の視界に忙しそうに注文を運ぶ店員の姿が映る。

 ふむ、やはりゲームと違って服装は作業向きだな。

 ゲームだと短いスカート着たネーチャンが居るものだが、やっぱり作業を考えるとああ言う普通の服装だよね。

 と、繁々と見つめながらどうやって注文取ればいいんだっつーかメニューどこだよって思ってると、突然俺のシックスセンスが囁いた。

 ――逃げろと。


ひらりっ。


ドガシャっ!!


 誰かが俺のテーブルに盛大に突っ込む。

 頑丈なテーブルだ、さぞ痛かったろう。

 見た事あるパッキンの女が苦悶の声を上げている。


「サイト、ガード固すぎ!」


「ガードじゃねーよ、俺の固いのは常識だ」


 打った鼻を抑えながらこっちに文句を言うこの女、レミルだったか?


「レミー! 何をして……サイトじゃないか」


 人を掻き分けて登場してくるのはミリーナだ。紫の長髪とか印象深いからよく覚えている。

 レミルを覚えている理由? そりゃ一番迷惑だったからだ。

 ミリーナの後ろから金魚のフンのようについてくる三つ編み赤毛のメガネっ娘、アンだったかな? ……いや多分違うな。

 マジで忘れた。その内誰か呼ぶだろう。


「レミーが突然居なくなったと思ったら……お前またサイトに飛びつこうとしたのか?」


「にしし、ふっと見るとサイトが居るんだもん。チャンスと思ったんだけどな~」


 何がチャンスだ。

 そんな理由で防具着て後ろから飛びつかれてたら、怪我じゃ済まんぞ。


「しっかし、サイト良く僕が来たの分かったね。音させてないんだけどな~」


「知らんがな」


 俺はそう言うと椅子に座りなおす。

 レミナが『にしし』と笑いながら、隣に座る。おや?

 ミリーナが苦笑しながら、更にその隣に座る。おやおや~?

 メガネっ娘アン(仮称)が恐る恐るといった感じで最期に座る。

 ――なんでやねん。


「この間は礼もそこそこに失礼した。改めてチームを代表して感謝を言わせてくれサイト」


「いえいえ、危ない時はお互い様ですよ」


 無難な返事をしてとっととどっか行って欲しいんだが……いや待てよ。


「実は食事に立ち寄ったんですが、何か美味しい物ってありますかね?」


 この様子だと暫く居るんだろう、なら有効に活用しなくては。


「ああ、この店は……」


「メルカリ! メルカリ焼きが美味しいよ!」


 ミリーナの言葉に割って入るレミナ。


「ふーん、じゃそれを頼もうかな」


「うんうん、ついでにビヤチャの実も頼むと良いよ」


 へ~、良く分からんが色々あるもんだな。

 と、その時ミリーナが若干ため息を吐きながら、


「レミー、それは君が好きな物だろう」


 このクソアマ……しれっと自分の分を混ぜ込むか。

 レミナが『えー、おいしーよ~』と必死に言う。

 まぁ、不味くなければ何でも珍しいからいいか。


「まぁ、食べた事ないし……分けてやるから注文してくれ」


 と、レミナに言う。

 ぱっと顔を輝かすとレミナが、


「いやったー、サイトの奢り~!」


 言ってねーよクソアマ。

 ミリーナが耐えかねてレミナを制止しよう押さえ込む。


「すまないサイト、食事ならむしろ私たちに奢らせてくれ。この間の礼には遠いがせめてもの気持ちだ」


 ミリーナに押さえられたレミナがむーむー言いながら抵抗している。

 メガネっ娘アン(仮称)はそれを見てオロオロしている。

 コントか?

 うーん、本意では無いがこの世界について情報が欲しかったので、こいつらから取るか。


「いやいや、本当に気にしないで。それより最近『こっちに』来たばかりで色々教えてもらうと助かります。

 それこそ食事ぐらい奢りますから」


 『そんな』とミリーナが言いかけて力が緩んだのか、レミナが拘束から脱出する。


「いえーい! やったね! でも、サイト私とミリで態度ちがーう!」


「普段の行いだ」


 ぴしゃっと言ってやると、プーっと頬を膨らませながら注文を始めるレミナ。

 ため息をつきながら席に座るミリーナ。

 相変わらずオロオロしてるアン(仮称)、ってか誰か名前教えてくれ。

 ミリーナが大分遠慮してたので、情報提供を強く言って納得してもらう。

 さぁ、食え食え、食って情報を吐き出すがいい、うははは。

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