第4話 『時間制限クエスト』

 ほくほくほく。

 俺はニヤニヤが止まらなかった。

 バイト先でも『上機嫌ですね? 何かありました?』って真っ先に言われてしまう。

 そりゃ、上機嫌にもなりますよ。

 部屋に戻ったら『マニュアル』先生の上にきっかり15万あったんだから。

 因みにスライム2匹倒したんだが、と聞いたら、『対象以外の戦闘は関係ありませんので』と斬って捨てられた。

 まぁ、いい。とりあえず明日からまた2日程休みなのでまた『アルバイト』にいそしもうかなぁっと。

 ルンルン気分で深夜まで遊んだ俺はいつも通り昼過ぎに起きて『アルバイト』に行くつもりだった、が――。


「へ?」


 突然、目が覚めた。

 ふと時計を見ると朝の7時、バカな!

 昨日寝たの4時ぐらいだぞ?

 こんな時間に俺が起きるはずは……。


 大変申し訳ありませんが、私が起こしました。


 と『マニュアル』先生が頭で喋る。


「……なんで?」


 寝起きなのにすっきりと言う不思議な感覚。


 実は時間制限の依頼――貴方の理解度に合わせて『クエスト』と今後呼称します、が発生しましたのでお知らせをと思いまして。


「時間制限ー?」


 はい、今から1時間以内に終えねばならないクエストがあります。

 ただし、報酬額は50万です。不要でしたか?


「ごっ!!」


 元から頭はすっきりしてたが、それでも一気にだるだるな空気は吹き飛んだ。


「イクイク! 行くってばさ!」


 では、前と同じく服を脱いで下さい。


 くっ……来たかまっぱタイム、これ親に見られたら吊るレベルだぞ。

 とは言え、金の力に負けた俺はいそいそとまっぱになる。


 それでは――。


 『マニュアル』先生の声と共に視界が真っ白になる。

 これも慣れたなぁ。


 装備の最適化、『守りのローブ』、『リングLV2』、『爆砕の杖』を付与。


 あ、聞くの忘れてた。


(『マニュアル』今回のクエストって何?)


 時間制限がある以外はとてもシンプルです。

 指定した対象の破壊です。

 装備の説明ですが、『守りのローブ』はどんなダメージも1回だけ完全防御してくれます。

 『リングLV2』は身体能力向上に加えてローブと同じく物理防御の力がありますが、ローブほど強くない代わりに回数制限がありません。

 『爆砕の杖』は一日3回『ボム』が使用できます。

 使用方法は対象に杖を向けて『ボム』と唱えて下さい。

 ただし、着弾は視線で決定する事になりますから見えない部分には撃てません。


「なんか……物騒な装備だな」


 『爆砕の杖』の射程距離は最大15mです。

 5m以内で使用すると自分も巻き込まれます。

 それでは目的地に到着します。


 『マニュアル』先生の言葉が終わると、視界が元に戻っていく。

 俺はちょっと拓けた小高い崖の上に居た。


「対象は?」


 あちらに見える橋です。


「ん?」


 見ると確かに前方に橋が見える。

 そんなに大きくはなさそうだ。

 しかし、造りは割りとしっかりしてそうでどう見ても個人の所有物に見えない。


「『マニュアル』、1つ聞きたいんだが……」


 はい。


「あの橋を破壊した場合、こちらの仕業とバレる可能性は?」


 この世界で魔法使いは貴重なので、同じ魔法を他人の前で使うとその可能性はありますね。


 なんじゃそりゃ。

 するってーとあれか? 爆破した後で御用になる可能性あるってか。だから報酬高いのか?

 どの道そんな末路嫌なんですけど。


「うーん……そう言えばいつも現地に到着してるけど、これって街の近くとかにも行ける訳?」


 可能です。


「ほう、なら魔法を使った後で適当に街の外れにでも移動するのは?」


 可能です。


 ふーん……じゃ、問題ないかもな。


「最後にあの橋って街から近いのか?」


 いえ、街からはかなり離れた距離に存在します。


 おっけー、問題はクリアされた。

 俺は杖を構え、どこに打ち込むか橋をよく見る。

 一日3回限定となると下手に打ち込むとクエスト失敗する恐れもあるし、ん?


「『マニュアル』、多分効率的な事してると思うけど、ここから橋までの距離は?」


 もちろん15mです。


 やっぱりな、心配するだけ無駄だったか。

 俺はとりあえず橋の手前側の根元を見て『ボム』と唱える。

 瞬間杖の先端からサッカーボールぐらいの光が生まれ、俺が狙った場所へ飛んでいく。


ドゴォオオン!!


 派手は爆音と光が辺りに轟く。

 結構大きな音するなぁ。橋はどうなったかな?

 確認すると、手前側は完全に落ちているが、向こうは若干無事に残ってる。


「やっぱ綺麗にしないと落ち着かないよねっと」


 残った部分に視点を合わせ、再度『ボム』を唱える。

 2回目の爆音と共に橋は完全にその姿を無くした。


「おっけー、さて『マニュアル』街の近くに適当に運んでくれ」


 了解です。


 視界がすっと変わる。

 そこは花が咲き乱れる何とも景色の良い場所だ。


 適当に選択しましたが、もう少し町に近づきますか?


「いやー、別にここでいいよ」


 俺はそう言ってそのまま寝っ転がる。

 こうやって寝てれば後で何か言われても、言い訳が出来ると言うものだ。さすが俺。


 帰還は如何しましょう?


「一眠りしてからでいいよ。大体普段なら寝てるんだから。

 ああ~、そう思うと眠たくなってきた」


 草花の良い香りがアロマテラピーのように効いて来る。

 暑くもなく、寒くも無い文字通りポカポカ陽気だ。

 寝るなって言うのが無理ってもんだ。

 それでは、お休……み。

 最後に『マニュアル』が何か言った気がするが、とりあえず無視して意識を手放した。

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