第3話 『色々泣きたくなってきた』

 好奇心に勝てず、恐々と声の方に向かう。

 声の方に近づくと、どうやら誰かが戦闘をしているようだ。

 もう少し近づくと3人組の冒険者風? な奴らがスライム相手にバトってる。

 って、スライム一匹だけって言ってませんでしたぁ?


 『対象』はあれだけですと申しただけです。


 ……チ、紛らわしい。


 視線を戻すと全身にごてごて防具をつけた戦士がスライムにまとわり着かれ、ピンチに見える。

 その後ろに居る――あれは女か、が弓矢を構えてスライムに撃ち込んでるが有効打になってない。

 その更に後ろにいるのは僧侶っぽい服装をしたやはり女がおろおろしてる。


 あれはだめですね。スライムは普通の打撃系武器では効果がありませんし、武器を捨てて逃げるべき所、判断を誤ったようですね。

 前の一人がもう捕食されます。


 『マニュアル』さんが俺の頭で呟いてくれる。

 うーん、女か……見捨てるか。

 と、一瞬だけ本気で考えたが、流石に現代人として助けられるなら助けるべきか。

 因みに宣言しておくけど、自分の身が危ない時は誰がどうなろうが自分大事なので! ここ大事。

 とりあえず更に近づくと、段々声もはっきり聞こえてくる。


「レミー! 逃げて、早く!」


「この! この! ミリを離せ!」


 半分近くスライムに侵食される仲間に、それを一生懸命助けようとする仲間達。

 ああ……完全に全滅バッドエンドって感じ。

 僧侶の子なんて泣いてるし。

 泣いてる暇があるなら戦えと思わなくもないが。

 まぁ置いといて、さて上手く狙えるか?

 この魔法って威力調整とか出来んのか謎だし。


 出来ません。


 『マニュアル』さんのありがたい助言を聞きながら、俺は『ファイア』を唱える。

 なるべくスライムを狙った……つもり!

 着弾!

 ゴウっと炎が巻き上がる。

 炎にびっくりしたのかスライムが戦士から離れる。

 その隙を逃さず何とかその場を離れる女戦士?

 それを確認してから再度『ファイア』をぶっぱする。

 ヤバイ、ちょっと楽しい。

 轟々と炎に巻かれたスライムはそのまま崩れ、消し炭のようになる。


「ふぅ」


 安堵のため息を吐いて、俺は近づいて冒険者3人の無事を確認する。

 女、女、女……女3人か――よし帰ろう。

 人としての最低限の義務を果たしたので、さっさとその場を離れようとする俺に後ろから声が掛かる。チッ!


「ま、待ってくれ!」


 正直女とか関わりたくないのだが、流石に無視するものなぁ。

 俺はため息を吐きながら3人組の方に振り返る。

 え?

 振り返ると視界のものすごい間近に弓撃ってた女がいた。

 明らかにこっちに飛び掛かってる!?


 大恐怖!!!


 ゲームで鍛えた反射神経舐めんな!

 直前でひらりと回避。

 ズベシャっと地面にキスする弓女。


「痛ったーい! ちょっと飛びついただけじゃーん!」


「ああ、ごめん殺されるかと思ったもんでね」


 ハグか? 今のハグのつもりか? どの道俺にそんな習慣ねーよ。

 とりあえず弓女を立たせて、女2人と合流する。


「まずは助けてもらってありがとう。私はミリーナ、こっちはメルリー、その無礼者はレミルだ」


 兜を外しながらそう挨拶をしてくる。

 兜の中から長い紫の髪が流れる。

 ってこんな髪で本当に戦士か?

 もう一人の僧侶っぽい子メルリーはメガネをかけて、赤毛を三つ編みにしてる。

 しきりにぺこぺこと頭を下げている。

 最後にさっきから隙あらば抱きつこうとしているパッキンのボブヘアーがレミルか。


「こら、やめないかレミー、失礼だろう」


「だってだって、感謝のハグしたいんだもーん」


 何度来ようが俺のハグは渡さん!


「俺は斉……サイトって言います」


「サイトか……いや本当にありがとうサイト」


 そう言って握手を求めてくるミリーナ。

 ああ、これは世界共通なんだなと思いながら握手。


「いえいえ、それよりここらは危ないからもう帰った方がいいですよ」


 ミリーナは他の二人と一瞬視線を合わせて、


「ああ、そうだな。あんなのに襲われたら次はどうなるか……。

 ああ、是非お礼がしたいので街に一緒に行かないか?」


 嫌です……と喉元まで言葉が出掛かったが理性で止める。


「いや、こちらはまだ用事があるのでお構いなく」


「そうか……残念だ。それでは街でもし会ったら声をかけてくれ。ブレーカーズってチームを組んでるんだ」


 そう言ってミリーナは笑顔で微笑みかけてくる。

 中々の美人だ。

 この会話中もレミルがちょいちょい接近してくるが、全て回避。

 ミリーナがそんなレミルの首根っこをひっ捕まえて引きずっていく。


「またねー、サイトー!」


 レミルが元気良く言うその後ろをぺこぺこと頭を下げながらメルリーが付いていく。

 あれが冒険者……うーん、この世界って大丈夫か?


 一応、貴方の理解度に合わせると、彼女らは立派な冒険者ですね。


 『マニュアル』先生がそう言うがどうにも不安な世界だ。


 それでは帰還しますか?


「そうだな、変に疲れたから帰ろう」


 そう言うとまた視界が真っ白になる。

 だが、今度は最初と違って一瞬で元に戻ると、そこはもう俺の部屋だった。

 帰ってきた……。

 大した時間じゃないはずなのに、何故か感慨深くなっていると、ふと鏡に移る己の姿を見る。

 まっぱっぱ。

 ――本当に泣きたくなった。

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