第2話 『オラ、わくわくしてきたぞ』
――仕事を受ける気になりましたか?
俺の頭の中に澄んだ声が響いた。
感じ的に青年っぽい声質だ。
俺は一応周りを確認するが部屋には誰も居ない。
と、なれば声の主はこいつか。
申し遅れました。私『マニュアル』と申します。主より遣わされた貴方の質問に答え、サポートする存在です。
「……まずこの本に何も書いてない無い件について」
それはまだ正式に貴方が仕事を受けるかどうか分からないので白紙にしてる次第です。
(何も書いて無いのに受けるも何もねーだろ、アホ)
と、頭の中で呟いてみる。
アホと言うよりもこちらとしては意思確認をしてから、と考えておりますので、とても良心的な話かと。
頭で呟いた事に返事をしてくる『マニュアル』さん。
あーはいはい、口でも頭でもどっちでもいいのね、了解。
とりあえず会話は脳内でやるか、深夜だからね!
(じゃ、受けるとしても絶対に聞きたい事が2つ)
何でしょう?
(1つ、命の危険はどれぐらいあるんだ?)
依頼によりますが、基本的にはこちらとしても最大限のサポートをさせて頂きますので、よほど『あほ』な行動をされない限り大丈夫かと。
こいつ……意外と根に持つタイプだな。
(じゃ2つ、報酬はいくら?)
非常に大事な質問だ。
危険込みで働かせておいて低賃金だと現実の方がいい。
それも依頼によりますが、そうですね。今回の依頼だときちんと達成されれば日本円にて15万円程お支払い致します。
「ぬほっ!」
『マニュアル』がさらっと言った報酬額に思わず吹き出してしまった。
(マジかよ、オラ急にわくわくしてきたぞ)
結構な事です。
(で、仕事内容は?)
簡単な事です。指定の場所に生息するモンスターを駆除して下さい。
俺のわくわく指数が急激に下がってきた。
(いきなり命の危険込み込みかよ……)
こちらで装備等サポートしますし、余程『あほ』じゃ……ああ、失礼『あほ』な行動を取らない限り問題ないかと。
……本当にこいつ根に持つな。
(ふーん、それじゃ早速!)
始めますか?
「寝る」
気のせいか『マニュアル』から多少冷たい視線が送られたような気がする。
すぐに行くような感じでしたが?
(ばか言え、今は深夜、人間様は寝る時間だ。依頼は明日の朝でもいいんだろ?)
構いませんね。それでは明日からと言う事で詳しい説明もその時に。
(おっけー)
時計を見ると結構な時間だ。
今日は無茶苦茶な事があったが、意外と順応したなと我ながら感心して就寝する。
テ~ラ~ッタッタ~テッテ~♪(某ゲーム宿屋風に)
「おはよう! 良い朝だね!」
俺は昨日の本を手にとってそう挨拶する。
……時刻にして12時過ぎを朝とは言いませんよ。
気持ちの良い挨拶をしたのに、何故かケチをつけてくる。
「細かい事を気にする奴だな」
貴方と言う人間がどんどん理解出来て光栄です。
「それは良かった」
さて、簡単に朝食兼昼食を取って各種準備を済ませる。
この時間親も居ないから遠慮なく喋れる。
「さて、どうすればいいんだ?」
では、まずは服を脱いで下さい。
「は?」
服を脱いで下さい。
「全部?」
はい。
「何もかも?」
はい。
部屋にパンツも無くまっぱっぱ……。
なんか泣きたくなってきた……。
ルールの1つですが、この世界の物をあちらには持っていけません。
同時に向こうの物もこちらには一切持って来れません。
「へいへい」
人間まっぱだと、もう捨てる物がないのか気が大きくなる。
では、私の上に手を置いて下さい。
言われるがまま、本の上に手を置く。
瞬間、視界が真っ白に染まる。
「おぉお?!」
確認を忘れていました。向こうでの職業は何にしますか?
視界が真っ白の状態で頭に声だけが響く。
「ま、魔法使い!!」
了解しました。職業『魔法使い』にて最適化します。
装備の最適化、『ローブ』、『火の杖』、『リングLV1』を付与。
目的地に到着します。
『マニュアル』が立て続けにそう言うと、何かが体にふわりと触れる感触と同時に視界がクリアになっていく。
「おおおおおぉぉ!!」
視界がクリアになったと思ったら、どこの田舎だよと思うぐらい自然一杯の場所、まさしく異世界って感じ。
「来た来た来たー!、ほんとに来たー!」
いや、何かほんとにテンション無駄に上がるわ。
って、気付くと右手に杖、体にローブ、左人差し指にリングが装備されている。
「『マニュアル』これどうやって使うの?」
ローブはただのローブです。それ以上でもそれ以下でもありません。
『火の杖』は一日5回だけ『ファイア』の魔法が使えます。
使用方法は杖を対象に向けて『ファイア』と唱えて下さい。
『リング』は身体能力を多少向上してくれます。
「ほう」
『火の杖』の射程距離は最大5mです。
因みに1m以内で使用すると自分も巻き込まれます。
「ふむふむ、で、倒すべきモンスターはどこに居て、種類とか教えてくれるのか?」
倒すべきモンスターは貴方の理解度に合わせると『スライム』です。
モンスターの場所はここから直線で10m程の場所に居ます。
「っておい! アホか敵の間近じゃん!」
『あほ』ではありません。効率的と言うのです。
それにスライムの大きさは小さいですし、あの種族は火に弱いので問題ありません。
『マニュアル』の言葉を頭で聞きながら、即座に索敵。
……居た。
一瞬水溜りか? と思ったが表面がぬらぬらして動いている。
大きさは1m強程度か。
「あれだけか?」
対象はあれだけですね。
「10mか……近づいたら飛んでくるとかないよな?」
ありません。無謀に近接戦闘をしない限り安全です。
5mの最大射程を取れば問題なく対処出来ます。
そうと聞けばレッツ接近。
かがみながらコソコソと近づく姿は情けないが安全第一。
「ここぐらいか?」
もう1m程近づくのをお勧めします。
スライムは素早くは無いですが、外すのを避ける為にも。
『マニュアル』の助言に従い、もう少しだけスライムに接近。
スライムはこっちに気付いて無さそうだけど……。
ってか、顔とかないから全然分からんな。
深呼吸しながら杖をスライムに向ける。
はぁはぁ……なんか緊張してきた。
「ファイア!」
俺の言葉で杖の先端に赤い炎が生まれると、スライムに向かって勢いよく飛んでいく。
炸裂音がした後に盛大にスライムが炎に包まれる。
「うっほ!」
予想以上の魔法の効果に興奮しつつも、スライムの様子を見る。
バチバチと炎が爆ぜる音と、何とも言えない嫌な匂いを漂わせながらスライムが炎に巻かれていく。
確実に勝ったか?
「ファイア!」
追加の魔法がスライムを打ち据える。
……2発目必要でしたか?
「俺は慎重派なの」
油断して後ろから食われるパターンは現実に一杯あるの!
確実に倒す派です。
「しかし……」
もう消し炭と化したスライムを眺めつつ、
「これで終わり?」
終わりです。
「……はぁ~、何だか楽勝だったような疲れたような」
初回はそう言うものだと思います。
それではもう戻りますか?
アイアイサーと言いかけて、ふと左側の方から人の叫び声? らしきものが聞こえてきた。
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