第9話 昔から

 森林の上を大型ドローンが飛んでいた。

 コンテナには、配送会社のキャラクターが描かれている。

 大型ドローンによる宅配サービスだ。

 今では、この輸送方法が主体となっていた。

 天候によっては、自動車も使われるのだが。


 大型ドローンに一機の小型武装ヘリが近づいていた。

 ヘリには、警備会社のタカヤマ隊長と入社したばかりのサトウが乗っていた。

 サトウにとっては、これが初仕事だった。 

「これだな、位置を確認してくれ」と、タカヤマ隊長。

 大型ドローンの後方に着くと、ヘリを追尾モードにした。

 サトウは、GPSで位置を確認していた。

「この辺です」

「報告しておくか」通信スイッチを入れた。

「タカヤマです、お疲れ様です。1730上番しました」

「リョウカイデス」

 いつものように、感情のない声が答えた。

 サトウは、ニャッと笑った。

「何だよ。何か、可笑しいか?」

「AIに向かって、お疲れ様って……」

「確かに疲れないかもな」

「ジョウバンって何です?」

「漢字で、上、下の上と、順位の一番、二番の番で、上番。

 上番っていうのは、任務に就いたってこと。

 任務が済んだら、下の番で、カバンって言う。軍隊用語だな」

「軍隊って……随分、古い言葉ですね」

 サトウは、少しだけ関心したようだった。

「コンテナの中はと……」サトウが命令書を確認した。

「すっげぇ、百人分の食料なんですね。

 こんな所に人が住んでいるんですか?こんな森の中に」

「いろんな人が、居るからな」タカヤマは、前から目をはなさずに答える。

「食料の護衛ですか?腹減ってきましたね」

「お前は、下を警戒してくれ。

 目的地近くまで行くと、決まって通信が途絶えるらしい。

 何か見付けたら教えてくれ」

「機械じゃ監視できないってことですか?」

「だから、仕事が来た。機械が出来ない仕事は人間がやるんだ」

 二人は、何処までも続く森林とその上を飛ぶドローンを見ていた。


「あれ、何ですかね。あの光。拡大します」

 サトウが何か見つけた。

 そこには、直径三十センチくらいの発光体が、数個並んで森の中を進んでいた。

「レーダーが、反応してません」

 タカヤマも、モニターを覗き込んだが、光だけで何かわからなかった。

「UFOってヤツですかね」

「さぁな」

 しばらく、見ていたが、いつの間にか消えてしまった。

「タカヤマさん……、ここ、通ったんっじゃないですか?」

「何言ってる。旋回なんかしてないさ」とタカヤマ。

「だって、あの大きな樹……見たような」

「似たような樹なんかどこでもあるさ」

「気のせいかな?」サトウは、納得いかないとつぶやいた。


「タカヤマさん、本部から連絡です。

 ドローンと私たちを見失ったそうです」

「えっ、衛星が……見失っただと」タカヤマが驚きのあまり声を発した。

「タカヤマさん、右ですよ右。ドローンは、右です」

 ドローンが、急に右折していく。

 タカヤマは、ヘリを自動操縦から手動へ切り替えた。

「こんなことが、あるのか?」タカヤマは、ドローンを追った。


 この後、ドローンは右左折を繰り返し進み続けた。

 急に森が開け、街が現れた。昔の建物だ。

 その街の中央の広場にドローンは降り立った。

 ヘリもそれに続いた。


 タカヤマとサトウは、ヘリを降り、ゆっくりとドローンの周りを見回った。

 古い街の中から、一人の女性が近づいてきた。

 かなりの美人だ。

 サトウが、タカヤマの脇を肘で突っき、ニャッと笑った。

 タカヤマが、伝票を差し出す。

 美人は、伝票を見て、頷き、サインをして、タカヤマに返した。

「ここは、どこです?こんな山奥にこんなところがあるなんて」

 美人は、微笑みながら答えた。

「この街は、歴史ある街です。昔から、ありますよ」

「ヘリから、見たところこの街の周りは何もなかったような……」

「あの森の裏には、国道もありますし、大きな建物の建設も始まってます」

 そういえば、車両の走行音や、工事のくい打ちの音が聞こえていた。

「今日、結婚式があるのです。頼んだのは、その為の料理」

 いつの間にか、ドローンのコンテナの周りに大勢の人が集まり、荷物をほどいていた。

「これで、仕事がお済みなら、この街でゆっくりして行ってください」

 二人は、美人に囲まれ街の中へ連れていかれた。

 盛大な結婚式に参列し、御馳走をいただいた。

 大きなリゾートホテルに連れていかれ、露天風呂につかっていた。

「タカヤマさん、今日は最高ですね。

 料理はうまかったし、美人ばかりだし、ここにずーっと居ようかな」

「それも悪くないな。こんな所が残ってるんだ」

 タカヤマは、風呂から森を眺める。

 これが、人間の住むべき所じゃないかと、心の底から思っていた。



「ここで、何してるだ」

 二人は、声で目が覚めた。

 そこには、猟犬をつれたハンターが立っていた。

 二人は、多量の枯れ葉のなかに裸でいた。

 ハンターは、軽く頷くた。

「あんたら、あいつらに騙されなっすた」

 と、ハンターが指さした先を見た。


 キツネとタヌキが、ちょこんと座っていた。



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