第8話 悪ふざけ

 そこは、崩壊した世界だった。

 文明が、植物に飲み込まれたようだった。

 なぜ、こんな結果になったのだろう。

 みんな、こうなるのは知っていたのに。

 破壊を止めることが出来なかった。

 それは、お互いの格差が、もたらした結果だった。


 そんな世界を見下ろす頂に二人の男がいた。

 容姿は、人間に似ているが、丁度、肩甲骨のあたりに立派な翼を持っていた。

「ああ、こんなになっちゃって。人間ってヤツは」

「ここまでやるとは、俺も思わなかったよ」

 二人は、遥か遠くを見渡していた。

 そして、二人は顔を合わせると大笑いした。

「お前が、悪いんじゃない?」ニヤニヤしながら、言った。

「俺が?何言ってくれてるの、俺が何したって?」

「お前が、人間に種をやったからさ」

「何が悪い?腹減ったっていうから、狩りをするより、

 植物を育てた方がいいっじゃねって、

 教えてやっただけさ」

「それが悪いのさ」

「悪い?」

「そうさ、ヤツらは、格差を作ったんだ。

 狩りをしていた時は、平等に獲物を分配していたのに」

「俺のせいじゃないよ。ヤツらが勝手に格差を作ったんだ」

 納得いかないようだった。


「あ、お前も悪いじゃない?」

「何のこと?」

「ほら、貝殻だよ」

「貝殻?あぁ、貝殻か」少し考えたがすぐに思い出したようだ。

「あれは、お前も居たじゃないか」

「ヤツらが、俺との物々交換で悩んでた時だろ」

「そうそう、俺が牛の肉とトウモロコシを交換したいって言ったら、

 ヤツら、トウモロコシを忘れてきさ。困っていたときだった。

 お前が、スベスベの貝殻を持ってきて、俺に肉と交換してくれって言ったんだ」

「あれは、ちょっとした冗談さ。でも、悪いのはお前さ」 

「なぜだよ」

「ヤツらは、綺麗だけどただの貝殻だから、肉と同等とは思わなかった。

 だから、お前が交換するとは思っていなかったんだ。 

 その時、お前が交換するって言うから、

 ヤツらは、勝手に貝殻に価値があると思ったんだ。

 ただの貝殻なのにな」

「俺は、お前の冗談に乗ってやっただけだ」

「ヤツらは、貝殻の価値を信じ切って交換を始めた。

 俺たちは、貨幣を与えたんだ。これも格差を助長するモノになったんだ」


「じゃ、あれもか?」

「あれって?」

「毛皮と五個貝殻を交換しょうとした時、貝殻を持ってなくてさ。

 お前に貝殻貸してくれって言った時だよ。

 お前は、貸してやるよ。ただし、返す時は六個返せよって言った時、

 ヤツらの中の一人が目を輝かしていて、

 後から金貸し、いや、貝貸をやって、大貝貸になりやがった」

「そうか、見られてたか……」


 二人は、また、崩壊した世界を見下ろした。

「あんな小さな出来事から、こんな大きな戦争を起こすなんてな」

「俺らの悪ふざけのせいか。お前は、こうなるのを知ってたんだろ?」

「まぁな」

 二人は、目を合わせ微笑んだ。

 大きな翼を広げるとゆっくりと飛び立った。

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