第7話 理想郷

 宇宙艇は、宇宙コロニーを目指していた。

「見えてきたわ、かなり大きいわね」

 メカニックのリタが、画面から目を離さずに言った。

「誘導電波は、どうだ?正常化?」

 タカシは、攻撃されないか心配だった。

「バッチリですよ。電波は強いし、寝ていてもドッキング出来ます」

 二人をサポートしてくれるアンドロイドのトニーが答える。

「なんかワクワクするわね」

 リタが、ニヤニヤして言った。冒険好きな危なっかしい年頃の女の子丸出しだ。

「なんで、笑ってんだ。拘束されるかもよ」心配性のタカシが忠告。

「ビビッてるの?タカシ兄さん」リタが、からかう。


 私たちは、やっとの思いでこの宇宙コロニーにたどりついた。

 船外作業の為、宇宙艇で母船を離れ、作業を終わって帰還しようとしたら、母船が無くなっていた。

 マンガみたいな出来事だが、事実だからしようがない。

 空気や食べ物が底をつこうとしていた時、誘導電波を見つけ、それに従ってこの宇宙コロニーにきた。

 

 トニーの言う通り、問題なく宇宙艇はコロニーにドッキングした。

 私たちを出迎えたのは、スタイル抜群のメイドのアンドロイドだった。

「こちらへ」

 私たちは、色々な検査後、車に乗せられトンネルを進んだ。

 先端に光が漏れる。

 トンネルを抜けると開放的な晴れやかな世界だった。

 色々な乗り物やロボットが行きかう、まるでアミューズメントパーク。

「えーっ、驚きだ!こんなロボットが動いているなんて!

 分からない。これは凄いんだ」

 トニーは、目を見張って叫ぶ、子どもみたいに。

 コロニー中心部に白い塔が建っていた。

 私たちは、車から降ろされるとエレベーターに乗せられ、最上階へ向かった。

 そこは、色とりどりのネオンが輝く街を見下ろすことが出来た。

「すげぇ。でかいな」トニーが、思わず窓に近づく。リタが後を追う。

「マスターが、着きました」メイドが教えてくれた。

 エレベーターのドアが開くと、スマートな男女が出てきた。

 まるで映画スターのような容姿だ。

 私たちに近づき、笑顔で握手を交わした。

「私は、ルーク。こっちは、サラ」

 リタは、まるで白馬の王子様を見るようにルークを見つめる。

 タカシは、完璧な女性らしい曲線とキリッとした美人のサラから目を離せなかった。

「ふたりとも、どうしたの?アンドロイドが珍しい?」と、トニー。

「アンドロイド……」タカシとリタが、声を上げる。

「そう、僕たちは、アンドロイドです」

 ルークとサラは、笑顔で答えた。

「では、お話をお聞きしましよう」と、ルーク。

 私たちは、テーブルに着き、このコロニーにたどり着くまでを説明した。

 

「しばらく、ここで休んでください。

 落ち着きましたら、どうするか決めてください。

 私たちは、あなた方がここに住むことを希望します。

 強制はしません。

 ここに居たくなければ、宇宙船や食料を提供します」

 ルークが、落ち着いた声で告げた。

「ここに住む?住まわせてくれるのですか?」

「歓迎します……。この街に着いた時、何か気付きましたか?」

「ここには、色々なアンドロイドやロボットがいますね。

 アンテークなモノも……」と、トミー。

「そうです。人間が地球を離れた頃からのアンドロイドやロボットがあります」

「なぜ、そんな古いモノを……」

「なぜって……」ルークとサラが、目を合わせるとサラが話始めた。

「ロボットやアンドロイドは、人間をサポートするために作られました。

 人間は、良いモノを求め、次から次と新しいロボットやアンドロイドを作っていった。

 何も壊れていないのに、必要とされなくなったモノもいます。

 人間は、死んでしまいますが……」

 サラは、タカシとリタをチラッと見るて、話を続けた。

「私たちは、壊れた部品を取り換えることができいるので、

 半永久的に存在できるのです。

 このコロニーには、部品工場もあるのです。

 つまり、私たちは、永遠に貴方たち人間のサポートが出来るのです。

 人間のサポートができることが、存在意味を持たせてくれるのです。

 だから、良ければこのコロニーに留まっていただきたい、

 どれだけのロボットやアンドロイドが喜ぶことか」

「……わかりました。すこし考えさせてください」

 と、タカシは、リタの顔を見て言った。

「あなたもですよ。トミー」

「僕もですか?」

 トミーは、直ぐに返事が出来なかった。

 考えてみたことが無かったから。

「急ぎはしません。決めるのは、貴方たちです。

 メイドに部屋を案内するので、ゆっくりと休んでください」


 三人は、部屋に案内された。

「ベットだ!」

 タカシとリタは、ベットに飛び込んだ。

 トミーが、窓の外を眺めている。

「あっ……」トミーが声を上げた。

「どうしたの?トミー」と、リタ。

「思い出した……彼らのこと……ルークとサラ」

 トミーが、タカシとリタを交互に見詰めた。

「聞いたことがあるんだ、

 最高峰と言われる人工知能を持ったルークとサラが、

 宇宙を漂っている宇宙船のメインコンピュータの人工知能を助けているって。

 今では、メインコンピュータだけでなく、様々なロボットやアンドロイドを

 助けるために、このコロニーを作ったんだ」

 トミーは、何かを感じていた。自分でもわからなかった。

 目の奥から、じわっと流れ出るような感じを。

「僕は、ここに残ります。

 僕は、ルークとサラの助けをしたい。

 貴方たちは、任務じゃなく。

 絵を描いたり、歌ったり、踊ったり、自分の好きな事をして暮らすといい。

 貴方たちは、ここに存在しているだけで、我々に仕事を与えてくれる。

 ……素晴らしい生き物です。

 ここは、貴方たちにとっても、私たちにとっても、

 理想の世界だと思いませんか?」

 トミーは、また、窓の外を眺めていた。





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