あかいみはじけた 23

 其処に写るのは、太陽のように花弁を広げたプランツだった。

「そう、話題作りにと何処にでも生えるタンポポのプランツなんて利用したのが仇になった。逆に利用されるなんて思わなかったな」

 先日ゴシップ誌に掲載されたハンナとロクの密会写真。それはハンナとゴーシュのものだった。カメラマンはゴーシュがどんな人物なのか全く知らずに写真を素っ破抜いた。それが新聞社に持ち込まれた段階でゴーシュの組織が感付き、新聞社とカメラマンを金で買収したのだ。最初は記事自体を握り潰すつもりだったのだが、せっかくだからと記事を書き換えて印刷させ、人気アーティスト同士の熱愛記事に捏造して話題づくりに利用したのだった。すべてゴーシュの指示だった。

「ロクは今日、短時間に二回もテレビ局への入館申請をしている」

 確かに、映像の時刻を見ると入館し三十分程度で退出すると、その三十分後にまた入館の手続きを行っている。ハンナはそのロクの後姿の写真を見て訝しげな顔をした。

「一回目と二回目、服装が違うの……?」

「そう、最初に入館した、こっちのロクは偽者だ」

「そんな!?」

「大胆だろう?私もそう思ったよ。実際の映像だとサングラスまで外してたから、相当似ているのだろうな――そうやって堂々とカメラの前に姿を表して盗みを働いた彼等が、次にすることなど大体予想がつく」

「え?彼等?」

「この日、局内で小さなトラブルが頻発していたらしい。停電とか、水漏れとかね。もっと表に出ない狡猾な奴が裏に絶対に居る筈だ。だから犯人は複数人。そして、そんなずる賢い犯人がここまで危険を冒して盗んだという事は――即、高飛びする気なんだろう。あれを直ぐに金に換えることは出来ないだろうから、ほとぼりが冷めるまでどこかに隠れるつもりなんだ」

 流れるように説明されて、ハンナはこくこくと感心して頷くばかりだ。

「街から出る道は全て押さえたから、すぐに犯人達は此処に連れて来られる。知らなかったとしても私の組織“ユグドラ”と、君に手を出した罪は重い。灰になって償ってもらうさ」

 犯人が複数人と聞いて、真っ先に楽屋に撒かれた赤い実の主の事をハンナは思い出したが、どうしてもゴーシュには伝えられなかった。五年前のあの時、自分は上手くできたと彼に言っているのだ。今更失敗だったと蒸し返して。彼に嫌われたり、軽蔑される事が怖かった。

 それに、まだアレがナナの実だと決まったわけでは無い。そうハンナは自分に言い訳をする。

「……ナ、ハンナ?」

 はっとして焦点を合わせると、心配そうに眉を下げるゴーシュの顔があった。

「可哀想に、心労で疲れているんだろう?」

「えっ、ええ。ごめんなさいゴーシュ」

「もう今日はゆっくり休むんだ。私も今夜はこのホテルにずっといるから」

 そう言ってゴーシュはハンナから離れ、奥の自室へと戻っていった。

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