もえないひと 06

 呼吸もおぼつかなくなり、冷や汗を流しながら、リウは瞬きさえも忘れて少年の手元を凝視する。頭が痛い。いっそ意識を失ってしまいたかったが、直ぐ傍にある死の恐怖と、極限まで鋭敏化された生存本能がそれを許さない。

「最っ悪……!」

 リウは自嘲気味に口の端を持ち上げた。こんなにあっさり、自分の人生が終わりを迎える事になろうとは。

 プランツは簡単に燃え上がる。そういう組成で出来ている。出来てしまっているのだ。

 不穏な空気を察して、輪の外から心臓を締め上げるような悲鳴が響いた。隠された兄の姿を求める叫びにリウは我に返るが、膝に力が入らず立ち上がる事すらできない。その様子に喉を震わせながら、嫌にゆっくりと目の前の少年はマッチを外箱の摩擦面に押し付ける。

「こういう時なんていうんだっけ?たまやー??」

 そう言って滑らせようとしたその指を、唐突に差し込まれた声が抑え付けた。

「そりゃあ景気の良い掛け声だ。どこに打ち上がるんだい?」

 狭い路地を反響して到達した第三者の声に、少年達は驚いて声の方へと振り返る。

 優雅に鰭を波打たせて、冷たいコンクリートの波間に一匹のオルカが佇んでいた。

「見ーちゃった見ちゃーった、新人いびりどころか新人燃やしなんてやりすぎだろ?なあ?」

 長身の男だった。丁度逆光でシルエットだけが朝靄の中浮かび上がる。その姿は、昔拾った図鑑に載っていた、海の王者を彷彿とさせた。

 深く被られたフードから覗く薄い唇が、リウを囲む少年達よりもよほど捕食者めいて吊り上げられる。顔は窺えないが、その声と姿から察するに男のようだった。ヒトかプランツかは、その外見からは判断できない。

「殺人までしちゃうのはどうかと思うけどな?」 

 黒地に白い斑点が浮かぶパーカーは艶のあるゴムめいた質感で、長い裾が彼の歩みに合わせて泳ぐように揺蕩う。

 少年達は音も無く迫り来るその影に明らかに狼狽していた。

「なっ……なんだてめえ!?」

「え――?こんな分かりやすくてキャッチーな見た目でも分かってくれない?お前等本当にこのスラムに住んでんの?」

 黒フードがすっと彼方を差して指を伸ばすと、鰭のようにヴォリュームのある袖がゆっくりと広がった。

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