もえないひと 05
「まじか?アルビノ?すげえレアじゃね?」
白花個体だ馬鹿野郎。痛む頭に顔を歪めながらリウは小さく呟く。
次第に自分へと集まって行く熱を孕んだ視線に怯え、クーは体を震わせて涙を浮かべる。
「にー……」
脳震盪を起こしているのかふらふらと視界は頼りなかったが、なんとか小さな白い影を見つけてリウは形ばかりの笑顔を向けた。その額をたらりと緑の血が伝った。その常緑血(エヴァーグリーン)の感覚にリウは身震いする。あの勢いで頭に鉄パイプを叩きつけられれば、いくら表皮が頑丈なプランツでも死んでいておかしくない。こいつらは、殺すことに何のためらいも感じないタイプだ。
完全に油断していた。前の街でも同じ目に遭って、命からがら逃げ出してきたというのに。
クーを希少なペットとしか思わない連中や、非推奨行為(タブー)の申し子としてクーを狩ろうとした保守派の信者達。そいつ等からやっとの思いで離れる事ができたというのに。
誰も自分たちの事を知らない街に辿り着いたという安堵感で、つい日光不足のクーに帽子を被らせる事を怠ってしまった。リウは悔しさに奥歯を軋ませる。
「とりあえず、白いのは連れて行くか」
クーが荷物のように抱えられ、リウの視界から消える。
「やめろ!!クーを離せ!!」
「……あー、こっちはどうする?」
「俺らと同じ雑草じゃあ使い道もねえし、燃やしときゃ良いんじゃね?」
リウの叫びを無視して「だよなー」と笑いながら少年たちは勝手に話を進め、彼を取り囲んだ。
「おい、叫ばれたら厄介だろ。口塞いどけ」
「ちゃんと囲めよ、火が見えんぞ」
「おい、あんま近づかせんなって!俺もプランツだっての」
俺に飛び火したらどうすんだよ、げらげらと笑いながらリウを見下ろすのは青い花弁を不精に伸ばした露草のプランツだ。同じ種族にも関わらず、その目に一切の同情は無い。
「くっ……そ……」
人間もプランツも、どちらも残酷だ。どちらも蔑んでくる。同じ雑草同士でさえ、群れた方が勝者の顔をする。
ヒトの少年の一人が、どこかの居酒屋のものだろう、安っぽい印刷の施されたマッチを取り出す。それを火器だと認識した瞬間、意思とは関係なく体が震えだし、リウの瞳が見開かれる。
少年の一挙一動を、食い入るようにリウは見つめていた。炎を生み出す道具を目にした途端、本能が命じるままに露草のプランツは数歩後ずさった。
「へへっ、びびってんじぇねえよ」
「うっせ、こっち向けんな!」
火器を持つ者が自分に害をなすことが無い仲間であってさえ、プランツは反射的に恐怖を示す。
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