第2話

 京介はハーフだ。京介の母は日本人、父は母から見れば「魔界人」というところだろう。


 日本国のある世界とは他に、地球とは世界の法則でさえも異なる全く別の世界がある。そこをこちらの世界の住人は俗に「魔界」と呼んでいて、地球上には数か所魔界と繋がる場所があるのだ。


 京介は魔界へとつながる日本で唯一の門の門番をしている。よって仕事の都合上魔界の王とも面識があるし、魔界からの侵攻を恐れている日本の防衛を任されている防衛省の官僚に過剰なまでに媚を売られているというなんとも微妙な立ち位置にいた。


 確かに科学技術が発達し物理法則が支配する地球から見れば、魔法が発達して魔力と精霊が生きている魔界は、彼らの常識から外れていて想像を超える世界だ。地球では迷信とされる超常現象や妖怪は、こちらの世界では当たり前に存在している。


 そういえば、と京介は思い出した。自分がこの仕事を父から受け継いで、自分のもとを訪ねてくる官僚の世代が二回変わっていた。生粋の魔界人である先代の父とは違って京介は、目立った能力が平均的な日本人よりも老化のスピードが二分の一程度遅いだけなのだ。父のように怒気だけで部屋を凍りつかせるなんて化け物じみた真似は出来ない。


 現実はそんなものだというのに目の前の少女は怯えていた。いったい役人たちからどんな魔界人像を植え付けられたのかはわからないが、恐怖に染まった顔といい、振り返っただけで卒倒しそうな程すくみ上っている様子から判断するに、京介のことを化け物じみた存在だと誤解しているのだろうことは想像に難くない。


 これは意思疎通も苦労しそうだと内心苦笑いしながら、なるべく少女を怖がらせないように、

「お嬢さん、僕のことを彼らからどのように聞いているのかはわからないけれど、僕は普通の人よりも少しだけ長生きできるだけで、想像しているような怖いことなんて君に出来ないから安心して欲しいな」

と微笑んだ。


 しかし沙夜の震えは止まらず、「やっぱり妖怪……」といううわごとを繰り返し、今にも泣きだしてしまいそうだ。


「あのさ、」

「ひぃっ……! あの妖怪とか言ってないですし怖がってなんか……いややっぱり怖いです!」


 京介が一言かけただけでこの反応だと、彼女が門番をやっていくのは前途多難に映った。

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