魔界の門番はじめました
降川雲
第1話
「あのう門番様、例の件なんですけども……」
そう言って高級そうなスーツに似合わず過剰なまでにへりくだっている中年の男は、横にいる制服姿の少女にちらちらとせわしなく視線をやっていた。
「例の件というと、後継者の件でしょうか?」
スーツ姿の男性にそう問いかけているのは、「門番様」こと京介・ヴェスペリアである。彼の髪は黒髪に白髪交じりのごく普通の日本人中年男性といった髪をしているが、右目はどこまでも深い黒、左目は燃えるような金色だった。
「ええ! 門番様が後継者の事で私どもにご相談いただいてから……そちらの世界との境界を守る門の管理は我々としても第一に考えておりますので……」
そう一心不乱に京介に必要以上にへりくだるのは、防衛省の国家公務員だ。しかし彼の視線は時折脇に逸れて、傍らの少女に冷たい眼差しを向けていた。
目の前の役人の態度に居心地の悪さを感じるのは京介にとっては毎度のことである。しかし何の因果か日本でもごくわずかな人間しか知らない秘密を押し付けられてこの場にいる少女に、京介は同情することしか出来なかった。
対峙している相手が、自分にどんな感情を抱いているのかを察することも出来ないほど愚かではないスーツの官僚は、そそくさと少女を置いて京介の前から退出してしまった。
残された少女は怯えきった目を京介に向けながら、
「飯島沙夜です……」
と消え入りそうな声で挨拶した。
その表情があまりにも暗くて重苦しい雰囲気だったので、京介は返事をすることも名乗り返すことも出来ずに固まっていた。
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