26.願いを叶える代償
第95話 君と初詣
そしてクリスマスイブから一週間後、俺と桃園さんは高梨神社に初詣へやってきた。
「お待たせしました、武田くん」
綺麗な赤の振袖を着た桃園さんがカラコロと下駄を鳴らしてやってくる。
か……可愛いっ……!!
いやー、去年の巫女姿も良かったけど、振袖姿も
「ど、どうですか? これ……」
桃園さんが袖を振り、チラリと俺の方を見る。
「う、うん。い……良いんじゃないかな」
「ありがとうございます」
だーっ。本当は良いどころじゃない。可愛い。すごく可愛いんだけど、何でこう、俺は自分の気持ちを素直に言えないかなあ。
「あ、そのマフラー」
桃園さんが指さしたのは、俺が首に巻いていた赤いマフラーだった。
「ああ、これ? せっかく貰ったし、付けてこようと思って。暖かいよ」
そう、このマフラーは、何を隠そうクリスマスに桃園さんに貰ったものなのだ。
ああ、桃園さんから貰ったマフラーを付けられるなんて、なんて幸せなんだ。それに――。
「これ、もしかして手編み?」
「はい、実はそうなんです……」
桃園さんがもじもじと身をくねらせる。
「でも、渡した後でネットで『貰ったら嫌なプレゼントランキング』に手編みのマフラーが入ってて……重いって。ですので、武田くんも嫌でしたら無理につけていただかなきても――」
「いやいや! これ、凄くいいよ! 赤なんて普段付けないけど、俺の持ち物って黒ばっかりだから、逆にアクセントになっていいって言うか――」
俺は照れたように下を向いている桃園さんをチラリと見た。
「……桃園さんから貰ったものなら何でも嬉しいよ」
「本当ですか?」
「うん。ありがと」
俺の言葉に、桃園さんは少しホットしたような顔をする。
よし、ここは――。
「それじゃ、行こうか」
俺はできる限り自然な仕草で桃園さんの手を握った。
自然に――できたと思う。心臓はバクバク鳴ってたけど。
「……はい」
嬉しそうに笑い、俺の横を歩く桃園さん。
繋いだ手から繋がるぬくもり。こんなに幸せな事ってあるだろうか?
桃園さんと二人、カップルになって手を繋いで歩いてる。
信じられないくらい嬉しくて、まるで夢みたいだ。
しばらく神社の境内まで二人で歩く。
「おーい、二人とも!」
すると、こちらへ手を振る人影が見えた。
オレンジの着物と水色の着物。ミカンとユウちゃんだ。
俺は反射的に繋いでいた手をパッと離した。
知り合いが誰もいないところだといいけど、人前で手を繋ぐのはやっぱりまだ照れてしまう。
ミカンとユウちゃんがこちらに駆け寄ってくる。
「きゃー、二人とも、あけましておめでとう!」
「……おめでとう」
二人とも、振袖が似合っててとっても可愛い。
こうしてヒロインが三人そろうと、その辺のアイドルなんか蹴散らせるくらい華やかでキラキラしてる。
「二人とも、今年は巫女のバイトやらないんだ?」
俺が尋ねると、ミカンはお守り売り場のほうをパッと指さした。
「うん、今年はアリスちゃんと渡辺さんがバイトに入ってるから」
見ると、巫女の格好をしたアリスちゃんと渡辺さんが一生懸命お守りを売っている。
金髪で外国人っぽい顔立ちのアリスちゃんが和風の巫女の格好をしているというのもミスマッチ具合が良いし、渡辺さんも普段と違う清楚さがあってギャップ萌えだ。
やっぱり女の子の和服っていいな。
「それじゃ、お祈りしてから二人のところに行ってみようか」
「そうですね」
俺と桃園さんがそんな話をしていると、ミカンがふふ、と声を出して笑った。
「あんたたちも、ずいぶんカップルらしくなったわねー」
そうだろうか?
ふとクリスマスでのことを思い出し、顔が熱くなる。
俺たちって……カップルなんだよな。
全然実感が無い。実感は無いけど……なんとなく嬉しい。
「そ、そうですか?」
桃園さんも嬉しそうに頬をおさえる。
こんな幸せな日が、今年も来年も、ずっと続けばいいな。
「それじゃ、お参りしようか」
「はい」
お賽銭を入れようと財布を開ける。
財布の中には五百円玉しか入っていなかった。
ああ、何か、去年もこんなことあったな。
でも去年とは違い今年は迷わずに五百円玉を賽銭箱に投げ入れた。
何しろ俺は桃園さんという最高の彼女を手に入れた。気分は無敵である。
二礼二拍手一礼。
今年の願いはこれだ。
桃園さんと、ずっと一緒にいられますように!
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