25.君とサプライズクリスマスを

第93話 クリスマスプランは完璧に

 そして季節は過ぎ、十二月。


 町は赤と緑に模様替えをし、いよいよクリスマスイブがやってきた。


 今年も演劇同好会は児童館で劇を披露し、みんなでクリスマスパーティーをするつもりだ。


 もちろん、みんなで楽しむだけじゃなく、二人っきりになれるプランも用意している。


 パーティーの終盤、俺はこっそりとパーティーを抜け出し、桃園さんと二人で駅前のイルミネーションを見に行こうと誘ってみるつもりだ。


 そしてロマンチックなイルミネーションの中、俺は用意しておいた桃の花のついたネックレスを渡す。


 ふふ……パーフェクトプランだ!


「武田ーっ、そろそろ出番よ!」


 俺がパーフェクトクリスマスプランに酔いしれていると、ミカンに呼ばれる。


「はーい、今行く!」


 今日やる劇は『さんにんサンタ』という絵本をアレンジした劇だ。


 サンタ学校の落第三人組、サンとタクとロース。彼らは三人で一人前なもんだから、色々とドジをやって失敗ばかり。



 だけど、最後には、喧嘩しながらもしっかりと協力し合いサンタ役目を果たしていく、そんな話だ。クリスマスっていいな、と素直に思える。


 サンタ三人組は渡辺さん、ミカン、山田の三人。子供役はユウちゃんとアリスちゃんだ。


 俺と桃園さんは今回は裏方。


 桃園さんの演技を見れないのはちょっと残念だけど――。


 俺は横をチラリと見た。


 桃園さんは俺の視線に気づくと、顔を赤くしてはにかみ、手を振ってくれた。


 あ~! 可愛いっ!!


 あー、幸せだなあ、彼女とと一緒にクリスマスを過ごせるだなんて。


 しかもその彼女が、ずっと憧れてたヒロインの桃園さんなんだから!


 ***


「それじゃ、これから部室に戻ってクリスマスパーティーをしよっか!」


「うん!」


 公演が終わり、俺たちはみんなでゾロゾロと移動を始める。


 ――と、桃園さんがスマホを見ながら浮かない顔をしている。


「どうしたの? 桃園さん」


「いえ……実は、去年のクリスマスに帰りが遅くなって怒られてしまったので、今年は早く帰ってくるように母から連絡があって」


「そうなんだ」


 そういえば、桃園さんのお母さんってすごく厳しいんだっけ。


 参ったな。途中で抜け出して駅前に桃園さんを連れていく予定だったけど、ここは予定を変更しよう。


 そうだ。クリスマスパーティー中に二人で部室を抜け出してあの伝説の木の下にいこう。そこで桃園さんに、クリスマスプレゼントを渡せばいいんだ!


 そんなことを考えながら学校に向かっていくと、校門の前に一人の女性が立っているのが見えた。


 短いピンクの髪。目つきは少しキツいけど、スタイルが良くて、まるで女優みたいに美人な女の人。


 あれ、まさか、あの人は――。


「お、お母さん!」


 桃園さんが声を上げる。


 や、やっぱり~!


「メグ、あんたこんな時間まで何やってるの!」

 

 お母さんがずんずん歩いてくる。


「お、お母さん。今日は演劇同好会の公演があるって言ったと思いますけど……」


「聞いたけど、こんなに遅くなるなんて聞いてないわ!」


 いや、こんなに遅くって……まだ五時前なんですけど!?


 俺がポカーンとしていると、お母さんは桃園さんの腕をグイッと強引に引っ張った。


「帰りなさい、メグ。今日はクリスマスディナーを家族全員で食べるって約束でしょ!」


「ちょ、ちょっと待ってください。私、この衣装を部室に片付けないと――」


「大丈夫だよ、桃園さん。僕たちが片付けておくから」


 小鳥遊が桃園さんの荷物を代わりに持ってやる。


「そうそう、お母さんに心配かけちゃいけないわよ」


 ミカンも同意する。


「そうですか? では……すみません」


 桃園さんがペコリと頭を下げる。


 えーっ、桃園さん、帰っちゃうのかよ!

 お母さん、厳しすぎるだろ!?


 そんなことを考えつつも、平静を装いながら俺は桃園さんに手を振った。


「う、うん。桃園さん、バイバイ。家族で良いクリスマスを過ごしてね……」


 心にもないセリフを吐きながら手を振る。


「本当にすみません。あとで連絡しますね」


「さ、早く行くわよ、メグ」


 お母さんに引きずられるようにしながら去っていく桃園さん。


 あーあ、行っちゃったよ、桃園さん……。

 カバンの中に入れた桃園さんへのクリスマスプレゼントのことが頭をかすめる。


 せっかく考えた俺のクリスマスプランが!

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