第86話 そうだ、京都へ行こう
そして修学旅行二日目。俺たちは京都観光へと出かけた。
コースは西本願寺や金閣寺、銀閣寺、清水寺など定番コースだ。
俺は小鳥遊、山田、それからクラスメイトの西田と東野というやつの五人グループ。
「今日はよろしくな!」
「よろしく!」
西田と東野が班長の俺に握手を求めてくる。なぜ俺かというと、俺がジャンケンに負けて班長になってしまったからだ。
「……あ、ああ、よろしく」
俺はおずおずと二人の手を握り返した。
西田は茶髪でつんつんした髪で、サッカー部。チビだし目つきも少し悪いが、それが逆にちょっとヤンチャな感じがして良いと女子たちにモテるようだ。
東野は黒髪で短髪。バスケ部で背が高い正統派爽やかイケメン。言うまでもなくモテる。
なんでこんなスクールカーストの高い、モテ男の代表格のような二人が俺たちの班に入ったかと言うと、班の人数が五人と決まっているからだ。
それで俺たち演劇同好会三人組と、西田と東野の二人ペアがドッキングしてこの班が生まれたというわけだ。
他にも運動部の連中で三人組の奴らはいたし、小鳥遊はともかく俺や山田みたいなオタク丸出しの底辺男の班に何でこの二人が来たかは分からない。
だけど、ともかく今日はこの二人と一緒に京都を回らなくてはいけないんだよな。うう、リア充相手は緊張するぜ。
俺は班の行動計画をまとめた紙を取りだした。
「えーっと、まず最初は西本願寺だな」
「西本願寺……ってどんな寺なんだ?」
西野が興味無さそうに聞いてくる。
「えーっと、浄土真宗の総本山で、秀吉が使っていたとされているサウナだとか、樹齢400年のイチョウの木なんかが有名みたいだよ。あとはカフェなんかもあるって」
俺がグーグルマップで得た知識を話すと、西田と東野は感心したようにうなずいた。
「へー、そうなんだ」
「よく知ってるなあ、武田」
「は……はは、そうかな」
イケメン二人に褒められ照れていると、西田が声を潜め、俺の耳元で囁いた。
「それでさ、お願いがあるんだけど――武田って、姫野さんと同じ班の女子たちと仲良いじゃん?」
「ああ……」
姫野さんというのは、桃園さんたちの自由行動の班にいる黒髪ロングの姫カットが特徴的な女子のことだ。
ちなみにバレンタインの時に小鳥遊にチョコを渡していた女子でもある。
俺は姫野さんのことを話す西田の様子を見てピンときた。
「ははん、もしかして姫野さんとの仲をとり持って欲しいってことか?」
「――っ、なぜ分かった!?」
西田があからさまに動揺する。ふふ、俺はこういうことには鋭いんだ。何せ、前の世界ではラブコメもののマンガやらラノベやら読み漁っていたからな。
「いいぜ。うちらの班と桃園さんたちの班はルートがほぼ一緒だから、一緒に行動できないか聞いてみるよ」
「おお、ありがたい!」
ちなみに桃園さんたちのグループは、桃園さん、ユウちゃん、ミカン、渡辺さん、それから姫野さんというメンバーだ。
姫野さん以外は演劇同好会のメンバーだし、頼めば何とでもなるだろ。
「それじゃあよろしくな!」
「ああ」
俺と西田が握手をしていると、ちょうどタイミング良くミカンがスカートをひらりとさせながらこちらへ走ってきた。
「やっほー! いっくんたち、どこに行くの?」
「最初は西本願寺だよ」
小鳥遊が答える。
「えー、一緒一緒!」
「じゃあさ、せっかくだから一緒に行こうぜ」
俺が提案すると、ミカンは顔をぱあっと輝かせる。
「いいね、それ。ちょっとみんなに聞いてみる!」
ミカンが桃園さんたちに叫ぶ。
「ねぇねえ、みんな、いっくんたちのグループも西本願寺だって。ちょうどいいからこのグループの後について行こうよ!」
しめしめ。俺の狙い通りだ。
「私は良いですけど、そちらのグループが迷惑なのではないですか」
桃園さんが俺の顔を見上げてくる。
俺は慌てて否定した。
「全然迷惑じゃないよ」
西田と東野も同意してくれる。
「俺たちも全然構わないよ」
「ってかむしろ女子がいたほうが嬉しいし」
「それじゃあ……よろしくお願いします」
桃園さんが頭を下げる。
そんなわけで、目論見通り、俺たちは十人で移動を始めることとなった。
「バスで移動する? タクシーにする?」
ミカンが尋ねてくる。
「うーん、最初は安いからバスにしようかと思ってたけど、タクシーのほうが早く着くし、乗り間違いがないからタクシーがいいと思うんだけど、どう思う?」
「私もタクシーがいいと思う。大した距離じゃないし、三、四人で割ればそんなに高くないっしょ」
と、これは渡辺さん。
他のみんなも同意する。
そんなわけで、俺たちは三人、三人、四人に別れてタクシーに乗ることになった。
「ほら、あんた、せっかくだし桃園さんと一緒にタクシーに乗りなさいよ」
ミカンにドンと背中を押され、桃園さんと同じタクシーに乗り込む。
狭い車内。桃園さんの太ももと俺の膝がコツンと当たった。
「あ、ごめん」
「いえ……一緒に移動できて嬉しいです」
はにかむ桃園さん。
「まあ、私もいるけどね!」
ミカンもずい、と俺の横に腰掛けてくる。
「僕もお邪魔するね」
小鳥遊もタクシーの助手席に乗り込む。
一台目は、俺と桃園さんと小鳥遊とミカン。
二台目はユウちゃんと渡辺さんと山田。
三台目は西田と東野と姫野さん。
結局、こんな組み合わせで、俺たちは西本願寺へと向かうことになった。
――が。
「あーっ、いたいた!」
西本願寺に着き、ミカンが山田たちのグループを見つけ、走っていく。
「良かった、無事合流できましたね」
「そうでござるね」
「だけど……」
俺たちはキョロキョロと辺りを見回した。
三台目に乗っていたはずの西田と東野、姫野さんたちがいない。
「あれ、西田くんたちは?」
「道が混んでるのかな」
だけど待てど暮らせど西田たちを乗せたタクシーはやってこない。
「姫野さんに連絡してみたんだけどー、なんか返事が来ないって感じ」
渡辺さんがスマホを手に肩をすくめる。
まさか、三人で別行動か? ありえるな。
西田は姫野さんを狙ってるし。
「仕方ない。先にみんなで観光してよう」
俺が提案すると、みんなも渋々同意する。
「そうだね」
「もし連絡がきたら居場所を教えればいいか」
そんなわけで、俺たち七人は京都での自由行動をスタートさせた。
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