第87話 ラブラブ修学旅行デート作戦
「わあ、武田くん、来てください。この床の模様、面白いですね」
「タツヤ、こっちも見て。富士山の、もよう」
桃園さんとユウちゃんが、阿弥陀堂の床をじっくりと眺める。
「これは廊下を修復した時に隙間をなくすために埋め木したものだそうだよ。ただ隙間を埋めるだけじゃなくて、昔の大工さんが遊び心で色んなモチーフを施したっていうのが面白いよね」
俺がグーグルで得た知識を披露すると、桃園さんとユウちゃんはキラキラした目で俺を見つめてきた。
「へえ、詳しいんですね」
「タツヤ、すごい」
「い、いやあ、それほどでも」
俺たちがそんな風に床の話をしていると、辺りをキョロキョロと見回しながら渡辺さんがやってきた。
「ねえ、山田知らなーい?」
「山田? 知らないけど」
どうやら渡辺さんは山田を探しているらしい。
「ちっ、あいつ、どこ行った? せっかく修学旅行でラブラブチャンスなのにさー」
ぶつくさ言いながら去っていく渡辺さん。
修学旅行でラブラブチャンスか……。
俺は桃園さんの横顔をチラリと見た。
そういえば、桃園さんと付き合ってからデートは一度したけど、それ以外は一緒に下校するくらいしかカップルらしいことはしていない。
せっかくだし、この修学旅行中にカップルらしいことの一つや二つ、してみたいな。
例えば――手を繋いだり、キスをしたり……。
あ、そういえば、手はこの間繋いだっけ。繋いだと言うより手を引っ張って歩いただけだけど。
とすると、次はキス!?
頭の中で桃園さんとキスをするのを想像してみる。
体がかあっと熱くなった。
い、いや、まだ付き合って一ヶ月も経たないし、流石にキスは早いよな!
そういうのって付き合ってから三ヶ月くらいしてからだろ、多分。知らんけど!
そうだ、今は手をつなぐぐらいでいいな。
今度はなりゆきにまかせてじゃなくて、ちゃんとロマンチックな感じで。
二人っきりで手をつないで恋愛スポットを回る。これぐらいが丁度いいな。うん。
うん、そうしよう!
俺がそんなことを考えていると、天井から突然声が聞こえてきた。
「ふふふ……どうやら上手いことまいたでござるな」
えっ、な、なんだ!? 天の声!?
まさかと思い天井を見上げると、そこにはヤモリのように天井に張り付いている山田の姿があった。
「お、お前、忍者かよっ!」
「しーっ、拙者、渡辺さんから逃げてるからして」
天井をカサカサと移動し、スタッと音もなく着地する山田。
「何でだよ。渡辺さん、いい子じゃん」
「なら武田氏がお相手をしては? 拙者はどうもあの方は苦手でござる」
はー、と遠い目をする山田。
どうやら女の子のほうからグイグイ来られるのはあまり好きでは無いらしい。
「というわけで、拙者はこのままこっそりとここを離れて別の場所に向かうでござる」
「別の場所って、どこだよ」
ふっふっふ、と山田は含み笑いをする。
「実はここ京都には、拙者の好きなアニメのグッズを扱うショップがあるからして」
マジかよ、山田のやつ、アニメショップに行く気か。ちくしょう。桃園さん達がいなければ俺も行くのに。
「というわけで、ここから拙者は別行動でござる。ではさらばっ!」
スタタタタと忍者のように去っていく山田。
全く、あいつと来たら勝手なことを!
――でも、まあ、いいか。人数が減ればそれだけ桃園さんと二人っきりになれるチャンスは増えるし。
まずは、綺麗だと評判のイチョウの木を二人で見ようと誘ってみるか。
「あー、いたいた、武田くん。探したんだよ」
俺がそんな作戦を立てていると、今度は小鳥遊とミカン駆けてくる。
「あっちに大きなイチョウがあるんだって」「見に行ってみましょうよ」
桃園さんがぱあっと顔を輝かせる。
「わあ、いいですね。みんなで行ってみましょう。ね、武田くん」
「えっ!? ああ、うん、もちろん!」
畜生、さっそく作戦失敗だ!
俺は歯をギリリと食いしばった。
まぁ、いい。修学旅行は始まったばかり。まだまだ見所はあるからこれからだ!
俺たちはみんなでイチョウの木へと向かった。
「大きいなあ」
「落ち葉が葉っぱの絨毯みたい」
「わあ、綺麗!」
みんなでイチョウの木を見上げていると、急にスマホが鳴った。
ん? 山田か?
見ると、西田からだ。
『まずいことになった。俺たち鞍馬山に行っt 』
まずいこと? ていうか、何で途中で切れてんだ。
まあ、いいか。
「西田たち、鞍馬山に行くって」
報告すると、小鳥遊が首を傾げる。
「鞍馬山? どうして」
「さあ」
ミカンが「ああ」と合点がいったように手を叩く。
「そういえば姫野さん、自由行動の行き先を決める時に鞍馬山に行きたいって言ってたっけ」
「そういえばそうでしたね」
桃園さんも同意する。
「結局、遠いからやめようという話でまとまったはずなんですが、姫野さん、本当はやっぱり行きたかったんですね」
なるほど、それで鞍馬山に。
西田のメッセージが途中で切れているのと「まずいことになった」の意味は分からないけど、まあ、いいか。
「――さて、そろそろ時間だから僕たちも次に向かおうか」
小鳥遊が腕時計をチラリと見る。
俺もスマホの地図アプリとリマインダーを交互に見た。
「そうだな。次は二条城で、その次は金閣寺と銀閣寺だな。時間が押してるから急ごう」
「うん」
俺と小鳥遊、桃園さん、ユウちゃん、ミカンの五人で移動を開始する。
「……あれ? そういえば、渡辺さんは?」
山田はアニメショップに行くって聞いてたから分かるけど、渡辺さんの姿が無い。
ミカンが教えてくれる。
「んー、なんか『山田の気配が消えた。たぶんアニメショップだから追いかけるね』って言ってたけど?」
マジか。山田……思考が完全に読まれてるぞ。
そんなわけで、俺たちは結局いつもの五人で残る京都の観光名所へと向かったのだった。
***
そして順調に京都の名所をまわった俺たちだったのだか――。
「楽しいなあ。武田くんと修学旅行で京都を回れるなんて、夢みたいだ」
うるうるとした瞳で俺を見上げてくる小鳥遊。
「あ、ああ、そうだな……」
「僕はずっと、親友と修学旅行で京都を回ることに憧れていたんだ」
「そ、それは良かった……」
「ああ、幸せだなあ、親友と修学旅行!!」
それは良いんだけど――小鳥遊がずっと隣でベッタリしてるから、中々桃園さんと二人っきりになれない。
小鳥遊には桃園さんに告白する時に色々と世話になったから無下にはできないし、どうしたものか。
俺は大きなため息をついた。
桃園さんと二人きりでラブラブ作戦をするつもりが……どうしてこうなった!?
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