第71話 自分らしい姿で

 渡辺さんにこの格好が似合っていない!?

 何でだ。こんなに可愛いのに――。


 俺と桃園さんがゴクリと息を飲み、聞き耳を立てていると、山田がふうと息を吐いた。


「……そのダサいファッションは、どうせ武田氏辺りの入れ知恵でござろう」


 ば、バレてた――!!


 ってか、ダサいって!? そんなにダサい!? 確かに一昔前のエロゲ風ではあるけど!


「ば、バレた?」


 たはは、と笑う渡辺さん。


「バレバレでござるよ。全く、そんな格好をしなくても、渡辺さんはいつも通りでいいでござるのに。明るくて強くてキラキラしてる。それが渡辺さんのなりたかった自分でござろう」


「山田……」


 渡辺さんはうん、と小さくうなずくと、いつもの明るい声に戻った。


「つまり山田は、いつもの私の方が好きってことね!?」


「は!? いや、拙者、好きとまでは――」


 慌てる山田。だが、渡辺さんは山田の話など聞かずにまくし立てる。


「なんだー、やっぱり山田はいつもの私がいいってこと!? そうと決まったら、早速ギャル服を買って着替えなきゃ! これ食べ終わったら、早速二人で買いに行って、デートのやり直しね!」


「あ、いや、その……これはデートでは……」


 慌てる山田。


 俺と桃園さんは二人で顔を見合わせると、そそくさと店を出た。


「あの二人、上手く行きそうですね」


「ああ、良かった良かった」


 一時はどうなることかと思ったけどな。


 きっとあの店を出た後、二人はショッピングに出かけたに違いない。山田がぶつくさ言いながら大量の服を持たされている所が目に浮かぶようだ。


 案外、あの二人はお似合いかもしれないな。


 カフェをあとにした俺たちは、近くのゲーセンに行ってぬいぐるみをUFOキャッチャーで取ったりして過ごした。


「わあ、あれ、可愛い」


 桃園さんが指さしたのは、ちょっとまぬけな顔をしたタヌキのぬいぐるみ型キーホルダーだった。


 ふむ。前の奴が取り損ねたのか、少し触っただけで落ちそうな位置にあるな。


「ちょっとまってて」


 俺はガチャリと百円玉をUFOキャッチャーに投入した。


「えっ、いいんですか!?」


「うん」


 やはりだ。俺の目論見通り、アームで少しつついただけで、タヌキのぬいぐるみはポトンと穴に落ちてきた。


「はい、取れたよ」


「わあ、ありがとうございます!」


 よっぽど好きなキャラクターだったのだろうか、桃園さんはタヌキのぬいぐるみを手に大喜びだ。


「これ、大切にしますね」


 大輪の花のような笑顔。


 UFOキャッチャーが得意で良かったとこれほど思った事はない。



 ***


「うんとこしょのどっこいしょ!」


 俺たちの掛け声に、子供たちも大きな歓声を上げる。


 わーっ。


 パチパチパチ。


 児童館で行われた『おおきなかぶ』の公演は、大成功のうちに幕を下ろした。


 舞台袖で小鳥遊がホッと胸を撫で下ろす。


「いやー、一時はどうなるかと思ったけど、無事に公演が終わってよかったよ」


「本当でござる。まさか、こんなデザインのカブが受け入れられるとは思っても見なかったでござるし……」


 山田がウンウンとうなずき、チラリとカブを見た。


 白い布が足りなくなったカブは、渡辺さんの手によって途中からピンクのラメやヒョウ柄の布で継ぎ足されていた。


 正直言って、かなり派手なカブだ。


「ま、まあ、パッチワークみたいで、これはこれで可愛いですし、子供たちにも大人気でしたし」


 桃園さんがフォローする。


「でしょでしょ!? やっぱり子供にも、ギャルのスピリッツは伝わるっていうかー」


 ガハハと豪快に笑う渡辺さん。

 よく分からんが、子供たちには好評だったらしい。


「私も……良かったと思う」


 ヒョウ柄のカブを見つめ、なぜかユウちゃんもつぶやく。


 ま、まさか、ユウちゃんもギャルになりたい!? ……なんてことないよな。


「あれ、それ何?」


 みんなで片付けをしていると、ミカンがふと桃園さんのカバンを指さした。


「ああ、これですか」


 桃園さんが照れたようにカバンについていたタヌキのぬいぐるみをつまみ上げる。


「可愛いですよね? これ、宝物なんです!」


 宝物だなんて、大袈裟だなあ。


 そう思いつつも、俺の胸は何だか言いようもないポカポカとした気持ちに包まれたのであった。



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