第70話 ギャルの理由
俺と桃園さんは山田たちから逃げ、一つ下の階へと階段へ移動した。
「ふう」
そして一息つくと、俺は山田に「桃園さんの具合が突然悪くなったので家に送っていく」と嘘のメッセージ送った。
山田からは「了解でござる」とすぐさま返事が帰ってくる。
「上手くいったみたいだよ」
「わあ、良かったです」
嬉しそうにする桃園さん。
さて、無事に渡辺さんと山田くんを二人っきりにするというミッションは達成したわけなのだが……。
チラリと桃園さんの顔を見ると、桃園さんは照れたように笑う。
「……ふ、二人っきりになっちゃいましたね。これからどうします?」
「そうだなあ」
参ったな。山田と渡辺さんを二人っきりにすることだけを考えたので、二人っきりにした後のことまで考えてなかった。
せっかく駅前に来たのに、何もしないで帰るってのも勿体無いしな。
「それじゃあ、またあのパフェ食べに行かないか?」
「良いですね!」
二人で去年も行ったあの喫茶店へと向かう。あそこのパフェ、美味しかったんだよな。懐かしい。
「いらっしゃいませー。好きなお席へどうぞ」
二人で街を一望できる窓際の席に腰掛ける。
「懐かしいですね」
「ああ、一年ぶりだな」
そんなことを考えながら窓の外を眺めていると、入口の方から聞きなれた声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「二人でござる!」
「お好きなお席へどうぞ」
「はいでござる!」
や、山田!
サッと顔面から血の気が引く。
おいおいおい! 何で同じ店に来るんだよ!!
まずいぞ、具合が悪くて帰ったはずなのに、こんな所でパフェ食ってるだなんて知られたら!
「た、武田くん」
「ちょ、ちょっと待って。こんな時のために……」
俺はカバンから演劇同好会で使ったウイッグを取り出す。
「とりあえずこれかぶって」
「は、はい。分かりました」
ものの数秒のうちに、俺は金髪縦ロールにマスクにサングラスという怪しい姿に、桃園さんは黒髪ロングにメガネの美少女になった。
……ゴクリ。
お冷を手に息を殺して下を向いていると、山田と渡辺さんは何事もなく横を通り過ぎ、俺たちの後ろの席に座った。
ホッ。どうやら怪しい縦ロールの女には気が付かなかったらしいが、ここからは声を殺して喋らないと。
やがて俺たちのパフェが運ばれてきた。
「なるべく早く食べて、終わったらすぐに店を出よう」
できる限り小声で囁く。
「はい」
俺たちが黙々とパフェを食べていると、後ろから声が聞こえてきた。
「そういえば、渡辺さんは何でギャルをやってるでござるか?」
「何で?」
「ほら、今どきギャルって珍しいでござろう。流行ってる訳でもないのにギャルをしてるからには、何か理由があるはず」
確かに、漫画やラノベの中ではギャルってよく見るけど、リアルではあんまり見た事ないな。
「それは――」
俺が聞き耳を立てていると、渡辺さんが答えた。
「ギャルってカッコイイから!」
あっけらかんと答える渡辺さん。なんだそりゃ、と思っていると、渡辺さんはスッとスマホを取り出した。
「見てこれ、中学生の時の私。超ダサいでしょ?」
「確かに……黒髪で眼鏡で表情も暗いし、今と全然違うでござるね」
画像は見えないが、どうやら渡辺さんは中学生のころは暗くてパッとしない感じだったらしい。
「でしょ? でも、ある時テレビでギャルを見てさ、明るくて可愛くて自信に満ち溢れてキラキラしてて……それで私、すごく憧れちゃってさー」
「それで渡辺さんもギャルになったでござるか?」
「うん。ネットで画像を漁って見よう見まねでギャル始めたんだけど、そしたら何だか自分も強くなれた気がして、なんて言うか、パワーが湧いてくるんだよね、ギャルって!」
確かに、俺はギャル系はそんなに好みではないが、ギャルになったら楽しそうだなって思う。明るくて強くて能天気で。
「そこまでギャルが好きなら、じゃあ何で今日はそんな格好なのでござるか?」
「それは――」
渡辺さんの声が消え入りそうになる。
山田は強い口調で続けた。
「その格好、渡辺さんには全然似合ってないでござる」
おいおいおい山田! てめぇ、何言ってんだ!?
渡辺さんはお前のために可愛く変身したんだぞ!?
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