20.山田と渡辺さんの買い物デート

第67話 大きなカブ、大きなおっぱい

 そんなこんなで、ミカンと俺の偽カップル生活は終わり、俺たち演劇同好会は、ゴールデンウィークに行われる児童館での公演に向けて着々と準備を進めていた。


「うんとこしょのどっこいしょ!」


 緑色の紐を引っ張るお爺さん役の小鳥遊。


「あらまー、でっかいカブ!」


 続いて出てきたのは、お婆さん役のミカンだ。


「ばあさん、カブを抜くのを手伝ってくれ」


「あいよ!」


 ミカンが小鳥遊の腰に手を回す。


「うんとこしょのどっこいしょ!」

「うんとこしょのどっこいしょ!」


 次が子供役の俺と桃園さんの出番だ。


「おじいさん、お婆さん、どうしたんだい?」


 精一杯、子供らしい声を出す。


「おお、実はこのカブが抜けなくて」

「手伝ってくれないかい?」


「いいよ」


 俺はミカンの後ろに回ると、キュッとくびれたウエストを恐る恐るつかんだ。


 桃園さんも俺の後ろに回り俺の腰の辺りをつかんでくる。


「うんとこしょのどっこいしょ」


 そんな具合に俺たちが密着しながら『大きなかぶ』を演じていると、カーディガンをプロデューサー巻きにし、丸めた台本を手にした山田が飛び込んできた。


「カーット! カットカットクァーット!」


 俺はミカンからパッと手を離した。

 何だよ。セリフもちゃんと言えたし、どこが悪かったんだ?


「武田氏! そんなへっぴり腰じゃ、大きなカブは抜けないでござるよ!」


「ええっ?」


「もっとこう、腰を落としてガッと引っ張らないと、ダメでござる! 今のは演技してるってバレバレ!」


「でも……」


「でももカモもないでござる!」


 ツバを飛ばしながら俺にダメ出ししてくる山田。うう、何でこいつが監督なんだよ。


「武田さあ、もっとミカンにがっしり掴まったら? 元カノだから気まずいのは分かるけどさぁ」


 渡辺さんがカブをちくちく縫いながら提案する。


 膝上二十センチほどと思われる短いスカートで胡座あぐらをかいているので、黒いレースの紐パンが丸見えである。


「こうか?」


 俺が遠慮がちにミカンのウエストを掴むと、山田はイライラしたように俺の腕をつかんだ。


「違う! こうでござる!」


「武田、遠慮せずに腕回して!」


 ミカンが前から腕を引っ張ってくる。


 ぽよん。


 腕に当たる柔らかい感触。


 うっ……。


 後ろから思い切りミカンを抱きしめるような形になる。腕にはおっぱい、太ももにはお尻が押し付けられ、思わず体が熱くなる。


「桃園さんも、もっと武田氏にくっつくでござる! 舞台はもっと狭いでござるよ!」


「は、はいっ、こうでしょうか」


 むにっ。


 桃園さんが、俺の腰の辺りに抱きついてくる。


 桃園さんの大きなカブ……ではなくビックメロンもムギュムギュと俺の背中に容赦なく押し付けられる。


 ぬおっ、こ、これは……この暖かいものは!!


「それじゃ、続きからいってみよう!」


 山田が劇を再開させる。


「うんとこしょの、どっこいしょ!」

「うんとこしょのどっこいしょ!」


 ぽよんぽよんと腕と背中に当たるおっぱい。


 柔らかい膨らみに挟まれた俺は、頭が真っ白になりながら演技を続けた。


 お……大きなカブって、こんなにエロい劇だったっけ!?


 ***


「はい、今日の練習はここまででござる!」


 山田の合図で練習が終わる。


「ふう……」


 俺は息も絶え絶えになりながらおっぱいサンドイッチから抜け出した。


「そう言えばさー、今日の武田、なんかいい匂いしない?」


「えっ?」


 いい匂い? もしかして、昨日桃園さんから貰った石鹸を使ったからだろうか。


 お風呂上がりとか寝る前は桃園さんの香りがしてドキドキしたけど、朝起きたらもう全然匂いがしなかったので消えたのかと思ってたけど、俺の鼻が慣れただけだったのか。


「タツヤ……いいにおい??」


 ユウちゃんが俺のそばに来てクンクンと匂いを嗅ぐ。



「タツヤ、桃園さんの香りがする……」


 じっと意味ありげな目付きで俺を見つめるユウちゃん。


 ドキッと心臓が鳴った。


「ああ、実は昨日、桃園さんから貰った石鹸を使ったんだ」


「へー、そうなんだ。いい匂い!」


「私にも嗅がせて!」

「私も嗅ぎたいですわ!」


 渡辺さんやアリスもやってきて、クンクンと俺の匂いを嗅いでいく。


 ヤバい。俺の周りにゾロゾロと美少女たちが集まってくる。


 まるでハーレムマンガみたいだ!


「わーん、武田氏ばっかりいい思いしてずるいでござるー! クンカクンカ……スーハー」


 なぜか山田まで俺の匂いを嗅ぎに来る。


「ところでさー」


 と、渡辺さんが手を挙げる。


「今、カブを縫ってたんだけどさ、白い布が足りないって感じ」


「ああ、その事でござるか」


 「大きなカブ」の主役とも言える巨大なカブは、古いシーツを加工して作っているのだが、何せ大きいので、どうやら布が足りなくなってしまったらしい。


「それじゃ、布を買い足しに行くか」


 俺がボソリと呟くと、渡辺さんは目をキラリと光らせた。


「じゃあそれ、私が買いに行く!」


 渡辺さんはガッシリと山田の腕を掴んだ。


「山田と一緒に!!」


 あ、あー、そういうこと。めげないよなー、渡辺さんも。


「それは良いアイディアですわ!」


 アリスちゃんもパンと手を叩いて立ち上がる。


「せ、拙者は二人きりは嫌でござる!」


 だが山田は真っ青な顔で叫んだ。


「武田氏! そう、武田氏はどうでござるか!? 武田氏なら去年も買い出しに行ったから勝手が分かるはず」


 えっ、なんで俺が……。


「そうだね、じゃあ、武田くんと桃園さんも一緒に着いて行ったらどうかな。二人は去年の児童館の公演の時も買い出しに行ってもらったし」


 と、これは小鳥遊。


 俺と桃園さんと山田と渡辺さん、四人で買い物だって?


 うーん、これはどうしたものか。


 横を見ると、桃園さんは、


「私は構いません」


 と言ってニコリと笑った。

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