第68話 渡辺さんのデート作戦

「まあ、そうなんですの?」


 アリスちゃんもキラキラとした目で俺たちを見てくる。


「それなら適役ですわね! 是非四人で買い物に行ってきて下さいな」


「いいじゃない、行ってきなさいよ」


 ミカンも俺の脇腹を肘でつんつんつつく。


「うーん、仕方ないな」


 ぶっちゃけ、たかが布一枚を買うのに四人も人数は要らないと思うんだけどな……。


 俺が迷っていると、桃園さんが耳元でコッソリとつぶやいた。


「頑張って、二人の仲を取り持ってあげましょうね」


 そっか。そういうことか。


 ――そうだな。そう言えば山田は、原作では桃園さんとくっつくキャラだったっけ。


 それならここは渡辺さんの恋路を応援し、山田とくっつけておくべきだな。


 俺はクルリと振り返り、山田の顔を見た。


「よし、じゃあ決まり。山田もいいよな?」


「まあ……四人なら。仕方ないでござるなぁ」


 しぶしぶ承諾する山田。


 クックック、かかったな。


 初めは四人で出かけて、頃合いを見て山田と渡辺さんを二人っきりにしてやるぜ。


 これで山田と渡辺さんがラブラブになるって寸法よ!


 ふふっ、これで桃園さんと小鳥遊の恋の障害となるお邪魔虫、山田は排除できる。


 高笑いが止まらないぜ!!


 ***


 そして俺と桃園さん、渡辺さんは金曜日の放課後に桃園さんの家に集まった。


「えっ、これ、桃園さん家!? 超デカい! お嬢様じゃん!」


 桃園さんの家を見るなり渡辺さんが叫んだ。


 立派な造りの門。その奥に広がる大きな芝生の庭と広い豪邸。


 俺はマンガで見ていたから知っていたけど、桃園さんがお嬢様だって知らない渡辺さんは、桃園さんの家のあまりの立派さに度肝を抜かれたようだ。


「おじゃましまーす」


 緊張しながら桃園さんの家に入る。白を基調にした広いエントランス。豪華な金のシャンデリア。


 俺と渡辺さんは口をポカンと見上げたままだだっ広い玄関を見回した。


「何これ、広っ!」


「本当だな」


「ねえ、桃園さんって、ヤクザの娘だったりする?」


 コソリと渡辺さんが聞いてくる。


「まさか。ただの田舎の地主というか……昔ながらの家なので、敷地が広いだけです」


「おかえりなさいませ」


 すっと音もなく、いかつい顔の中年女性が出てくる。


「あ、桃園さんのお母さまですか? こんにちは」


 俺が慌てて頭を下げると、中年女性は能面みたいな顔をして言った。


「いえいえ、私はただの女中でございます。奥様は今日、所用で外出しております」


「女中! 女中って、時代劇でしか聞いた事ない!! 超ヤバ!!」


 キャイキャイ騒ぐ渡辺さんをチラリと見て、女中さんは眉をひそめる。


「こちらの方たちはご学友でございますか?」


「ええ、同じ部活の仲間なんです」


 桃園さんは俺たちの方へ振り返ると女中さんを紹介してくれた。


「こちら、外村さん。代々うちに務めてくれてあえる女中さんです」


「女中さんって、家政婦みたいなかんじ?」


 渡辺さんが首を傾げる。


「ええ、そうです。外村さん、今日は部活の打ち合わせをするので、後で紅茶を持ってきていただけますか?」


「かしこまりました」


 深々と頭を下げる女中さん。


「それでは、こちらへどうぞ。私の部屋へ案内します」


 桃園さんの後について二階へと登る。パステルカラーで統一されたインテリアが並ぶ部屋は、シンプルだけど可愛らしく、いかにも桃園さんらしい。


「わー、可愛い部屋!」


「来てください。こちらが衣装部屋です」


 桃園さんが、ベッドの横にある扉を開ける。そこには可愛らしい洋服ダンスとクローゼットが並んでいた。


「衣装部屋? 衣装専用の部屋があるの!?」


「はい、一人っ子なので、部屋が余ってて……来てください、渡辺さんに合いそうな服を一緒に探しましょう」


「わー、ありがとう!」


 渡辺さんと桃園さんがきゃいきゃいと話しながら衣装部屋に入っていく。


 そう、今日桃園さんの家に俺たちが来たのは、明日の買い出しのために、渡辺さんに桃園さんの服を貸してイメチェンさせるためなのだ。


 山田は清楚なお嬢様系が好きだから、渡辺さんをギャル系から清楚系に変身させ、そのギャップで惚れさせようという作戦だ。


 と、俺はふと桃園さんの机の横にあるコルクボードに目をやった。


 そこには、夏合宿や文化祭など、演劇同好会の懐かしい写真が飾られている。


「あ、これは……」


 その中には、俺と桃園さんがミュージカルを見に行った時の半券もあった。


 わざわざ取っておいてくれているだなんて、桃園さん、よっぽどこのミュージカルが気に入ったんだな。


「わあっ、わわわわわっ! ダメです!!」


 すると、桃園さんが急にコルクボードを引ったくった。


「えっ、どうしたの!?」


「これ、見ました!?」


 顔を真っ赤にしてコルクボードを体の後ろに隠す桃園さん。


「いや、チラッとしか見てないけど……何かあった?」


「い、いえ、何でもないです。すみません、取り乱してしまって……」


 髪を耳にかけながら恥ずかしそうに横をむく桃園さん。


 あ、もしかして。


 よく見てなかったけど、小鳥遊の写真でも貼ってあった?


 最近あの二人は仲が良いいし、もしかして俺の知らないところで二人でどこかにデートに出かけたりしてるのかもしれない。


 公園で会ったあの時みたいに……。


 俺は恥ずかしそうにする桃園さんの顔を見ながら、嬉しいような少し寂しいような、そんな複雑な気持ちになっていた。

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