第59話 ギャル系女子の渡辺さん

「新入部員!?」


 その後、部室で着替えていた男子と隣の部屋で着替えていた女子が合流し、改めて金髪美少女の自己紹介が始まった。


「私は一年B組、栗原・アリス・モンブランですわ。以後、お見知り置きを!」


 えっへん! と胸を張りながら自己紹介をするアリス。


 肩までのくるくるの金髪。背は小さくてロリ系の顔だが、ムチムチとした体つきで、かなりの巨乳だ。


 なるほど、ロリ巨乳のキャラは今まで居なかったし、こういう子が部活に居るのもいいかもしれない。


 でもなんかこの金髪といい、口調といい、どこかで見たような?


「君、もしかして、生徒会長の妹さん?」


 小鳥遊が小首をかしげながら尋ねると、アリスちゃんはさらに胸を張った。


「はい、そうですわ! 私のお姉さまは栗原・マロン・モンブラン。去年は生徒会長をつとめさせていただきました」


「ああ、やっぱり!」

「どことなく似てますものね!」


 アリスちゃんを囲み、ワイワイと盛り上がる女子たち。


 だが俺は、正直なところ、嬉しいと同時に疑問に思う気持ちも強かった。


 なぜだ? 原作の『桃学』では二年目に新入部員は入ってこなかったはず。


 散々、原作と違う行動をして運命をねじ曲げてきたので今さらではあるが、一体なぜこの世界では演劇同好会に新入部員が入ってきたのだろう。


 単なる偶然? 運命のいたずら? 風が吹けば桶屋が儲かる、みたいなものだろうか。バタフライ・エフェクトってやつだろうか?


 すると俺は、アリスちゃんが俺の事をじっと見つめているのに気づいた。


「……?」


 だがアリスちゃんは、俺が見つめ返すとサッと視線をそらせてしまった。


 いや、これは偶然じゃない。何かあるな。


「そういえば、アリスちゃんはどうして演劇同好会に入ることにしたんですか?」


「それは――えっと、お姉さまと一緒に児童館に演劇同好会の劇を見に行ったんですの。それで面白そうかなって」

 

「へえ、そうだったんだ!」


 女子ただが盛り上がっていると、バタンと大きな音を立ててドアが開いた。


「ちょりーっす、演劇同好会って、ここぉ?」


 ドアを開けたのは、一人の女子だった。

 濃い化粧に茶色に染めた髪、極限まで短くしたスカートに、九十年代からタイムスリップしてきたようなルーズソックス、それに推定Gカップの巨乳。


「……げっ」


 隣で山田が小さく声を上げる。


 あ、彼女は――山田にバレンタインチョコを渡した渡辺さん!


「あれ? 渡辺さん、どうしてここに?」


 ミカンが立ち上がる。


「どうしてって、これ」


 渡辺さんは胸の谷間から一枚の紙を取り出した。


「これって――」


「私ぃ、演劇同好会に入部しようと思って、みないな?」


 ギャル系女子の渡辺さんが入部届けを俺に手渡してくる。というか、口調も微妙に古いな。


「えっ」


 俺と山田が同時に呟く。


 俺はゴホンと喉を鳴らした。


「でも渡辺さん、もう他の部活に入ってるんじゃないの?」


 そう、うちの学校は部活動強制。一年のうちに、全員が何らかの部活に所属することになっている。


ということは、渡辺さんも何か別の部活に入っているはずなのだが――。


「あー、それは大丈夫、大丈夫ぅ」


 渡辺さんは手をヒラヒラさせる。


「一年の時はパソコン同好会に入ってたけどー、私ってばほとんど部に出たこと無かったし、今日、退部届け出てきたから!」


「そ、そうなんだ」


 それならいいんだけど、でもなんで今さら演劇同好会に?


 俺が不思議に思いながら入部届けを見ていると、ミカンが耳元で囁いた。


「渡辺さん、文化祭の時にメイド服が破けちゃって、それを見た山田がササッと縫って直したんだよね。それから渡辺さん、山田のことを気に入っちゃったみたいで……」


「えっ、そうなんだ」


 まさか俺と小鳥遊が文化祭を見て歩いている間にそんな事があったとは。


 あ、そういえば、原作では山田は小鳥遊と文化祭を回ってたんだっけ。


 それがこの世界では、俺が小鳥遊と文化祭を回ってたから、そのせいで展開が変わったのか。


 ――ってことは、待てよ!?


 ここで山田と渡辺さんがくっつけば、山田が桃園さんと付き合うことは無くなる。


 ということは、ここは渡辺さんの恋を応援した方が良いのでは!


「よろしくね、渡辺さん! 来てくれて嬉しいよ!!」


 俺は渡辺さんとガッチリと握手を交わした。


「あはは、武田っち、よろしく。山田もよろしくね!」


 山田に向かってウインクする渡辺さん。


「あっ、ハイ」


 なぜか敬語の山田。ちょっぴり浮かない顔だ。


 全く、お前が女子にモテるなんてこと、そうそうないのに、何つう顔してんだ!


 ――そして、渡辺さんがこの同好会に来た理由はわかったが、解せないのはアリスちゃんの方だ。


 ふとアリスちゃんのほうを見ると、こちらをジロリと睨んでいるような気がする。


 が、俺が見つめ返すとアリスちゃんはすぐに目線をそらし、笑顔を作って小鳥遊たちと話し始めた。


 怪しい。


 一体、何が目的で演劇同好会に入部したんだ?

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