18.新入部員と波乱の香り

第58話 部活動説明会

 四月。俺たちは二年生になった。

 桃学での生活もとうとう二年目だ。


 あと二年。卒業までの間に桃園さんを幸せにしないと。そしてできれば、小鳥遊とくっつけてやりたい!


「武田くん、何組だった?」


 俺がクラス割りの前に立っていると、小鳥遊が声をかけてくる。


「ああ、一年B組だよ。小鳥遊も一緒だし、桃園さんたちもいるよ」


「本当? 良かったあ」


 胸を撫で下ろす小鳥遊。


 俺はその横でこっそりとほくそ笑んだ。


 他のメンバーが同じクラスになるのは桃学の原作を読んで分かっていたことだった。


 だが、自分に関しては原作にはいないキャラだから同じクラスになる確信は持てなかった。


 そこで、一応の写真を元に俺をみんなと同じクラスにするよう紫乃先生を脅しておいたのだ。


 せっかくの「小鳥遊の親友になって二人の仲を取り持とう作戦」も、クラスが離れ離れになってしまうと意味が無いからな。


 ふふ……すべては俺の計算通り!!


「あ、見てください、みんな同じクラスですよ!」


 桃園さんがクラス割りを指さす。


「本当だ! いっくんもいるし、桃園さんとユウちゃん、武田も一緒!」


 ミカンが飛び上がって喜ぶ。一応、俺と一緒なのは喜ばしいことらしい。


「いっしょ……良かった」


 ユウちゃんが俺の顔を見上げて微笑む。

 去年は一人だけ隣のクラスだったからな。


 俺としては桃園さんのライバルが増えるのは胃が痛い事だが、ユウちゃんの気持ちを考えるとホッとするのも分かる。


「あとは……山田も一緒か」


「そ、そうでござるね……」


 おれがつぶやくと、山田が妙にしょぼくれた顔で返事をする。

 どうしたんだ。何だか様子がおかしいな。桃園さんと同じクラスで嬉しくないのか?


 ……まあ、山田の様子がおかしいのはいつもの事か。


 ***


「さて皆さんは、もう部活動には入っているかと思いますが、新一年生たちはどの部活が良いのか迷う時期かと思います。そこで今年から、部活動説明会を開くことにしました」


 白いブラウスの胸元を大胆に開け、ピチピチのタイトスカートをはいた紫乃先生が、黒板に「部活動説明会」と書いた。


 どうやら今年も担任は紫乃先生らしい。まあ、分かっていたことだが。


「部活動説明会では、各部活が五分づつステージでそれぞれの部活の良さを発表して貰うことになっています」


 紫乃先生は、プルンプルン揺れるGカップバストと黒いガーターベルトを男子生徒に見せつけながら説明を続ける。


「開催は一週間後、四月十日の放課後です。みなさん、部活の先輩や仲間たちと相談して、良いステージにして下さいね!」


 説明が終わると、一つ前の席の小鳥遊が振り返り、俺に笑いかけてくる。


「部活動説明会かあ、楽しみだね」


「……ああ、そうだな」


 俺が返事をすると、小鳥遊は不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの? 部活動説明会、楽しみじゃないの? せっかく後輩が演劇同好会に興味を持ってくれる良いチャンスなのに」


「ん? ああ、そうだな、楽しみだよ」


「だよねー、どんな後輩が来るかなぁ」


 ワクワクしている様子の小鳥遊。


 だが俺は知っている。


 原作通りの展開だとすると――演劇同好会に、新入部員は入ってこないのだ。


 ***


 そして一週間後。


「――と、いうわけで、演劇同好会では楽しい活動がたくさん!」


 インド風の衣装を着た小鳥遊と桃園さんがが舞台上で一回転をし、笑顔を振りまく。


「演劇同好会では新入生のみなさんの入部を待っています」


 と、ドレスの端を持ち上げるのは、シンデレラの衣装を着たユウちゃんとミカン。


「一年生のみなさん、よろしくお願いします~!」


 最後にサンタの衣装を着た俺と山田が頭を下げると、大きな拍手が沸き起こった。


「……ふう、何とか持ち時間の五分以内に収まったな」


 舞台袖に戻った俺は、肩から息を吐いた。


「おつかれ、えらく緊張してたね」


 ミカンがポンポンと肩をたたく。


「……タツヤ、だいじょぶ?」


 首をコテンとかしげながら、小動物のように見上げてくるのはユウちゃんだ。


「ああ、なんとかね」


「大丈夫ですよ、ちゃんとできてましたよ」


 クスリと天女のような笑顔で笑ったのは桃園さんだ。


「一年生、入ってくれるかな」


 部室にもどり、小鳥遊が衣装を脱ぎながら不安げに漏らす。


「大丈夫でござるよ、これだけ美女がいれば、いくらでも男子生徒が寄ってくるでござる!」


 山田が呑気な調子で笑う。


「だといいんだけどな」


 俺はポツリと呟いた。


 俺は、今年は演劇同好会に新入部員が入ってこないことを知っている。なぜなら『桃学』の原作で予習をしているから。この運命は変わりようがない。


 桃園さんのライバルとなる後輩が入ってこないのは嬉しいけど、部活の存続のことを考えると、少し悲しいな。


 そんなことを考えながら衣装を脱ぎ、制服に着替えていると、ガラリと部室のドアが開いた。


「あのー、演劇同好会ってここでよろしいかしら?」


 ドアを開けて入ってくる金髪美少女。


「えっ」


 そして美少女の目の前には、ブリーフ一枚の山田――。


「きゃああああっ!!」


 そして不運にも、金髪美少女のアッパーが山田のあごを直撃したのであった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る