第60話 ハーフ美少女のアリスちゃん

「いっただっきまーす!」


「わあ、美味しそうな卵焼き」


「そのパン、新商品?」


 俺と小鳥遊、ミカン、桃園さん、ユウちゃんでご飯を食べていると、どこからか視線を感じた。


「ん……?」


「どうしたんですか?」


 桃園さんが心配そうに見つめてくる。


「あ、いや、何でもない」


 おかしいな、何だか誰かに見られているような?


 度重なる山田のストーカー行為のせいで、俺はすっかり誰かの視線に敏感になってしまっていた。


「――あ」


 と、校舎の横にいたアリスちゃんと目が合う。


 アリスちゃんは俺と目が合うと、サッときびすを返して逃げてしまった。


「あっ、ちょっと待て!」


 何で逃げるんだ!?


 必死に追いかけようとしたのだが、意外にもアリスちゃんは足が速いらしく、機敏な動作で俺を巻いて逃げてしまった。


 どういうことだ? なぜアリスちゃんは俺たちを――いや、俺を見張っていた?


 そういえば、思い返せば以前にも昼食時や放課後に視線を感じることがあった。


 てっきり山田の仕業かと思っていたが、視線は俺一人の時も感じていたし……。


 よく考えたら、山田が桃園さんをストーカーするならともかく、俺の事をストーカーするというのは妙だし、ひょっとして、あれもアリスちゃんだったのか?


 考えられる原因があるとすれば、やはり前の生徒会長がらみか。


 よし。


 俺は思い切って部活動の時間にアリスちゃんを問いつめて見ることにした。


「えー、アリスちゃんって、あの俳優がいいの?」


「顔だけじゃなくて演技も上手いんですのよ!」


「そうなんだ。今度チェックしてみよっと」


 盛り上がっている女子たち。


「あの、アリ――」


 俺はアリスちゃんに思い切って声をかけようとしたが、そこでふと考えた。


 いや、ここで問いつめたとしてもシラを切られるに違いない。それどころか、自意識過剰の変態だと思われでも仕方がない。


 やはり現行犯で捕まえるのが一番だ。


「何ですの?」


 アリスちゃんがクルリと振り向く。


「あ、いや、ゴールデンウィークにやる劇の演目、アリスちゃんも一年だけど考えておいてね?」


 俺は冷や汗をかきながら誤魔化した。


 アリスちゃんはふふん、と胸を張る。


「もちろんですわ! 去年の劇は、私もお姉さまと見に行きましたの。とても楽しかったですわ」


「そうなの」


「そういえば、生徒会長は今、どうしてるの?」


 小鳥遊が尋ねる。


「お姉さまは今、首都圏の国立大学に通っていますわ。両親は本当は私立の女子大に通って欲しかったみたいなのですが、お姉さまはどうしても入りたい学部があったみたいで」


「へえ、凄いんですね」


「ええ、成績優秀、スポーツ万能、品行方正で完璧な自慢の姉ですわ!」


 品行方正で完璧ね……。


 俺がチラリと横を向くと、山田も俺と同じように微妙な顔をしていた。


 今回ばかりは山田とは気が合いそうだ。


 ――と、そこで俺は、とある作戦を思いついた。


 この作戦なら、俺たちを見張っているアリスちゃんを現行犯で捕まえられるかもしれない。



  ***


 翌日、昼飯を食べていると、案の定どこからか視線を感じた。


 来たっ。


「ごめん、俺、トイレ」


 俺はトイレのフリをして席を立つ。


 すると俺に気づかれまいと急いで校舎の影から立ち去る金髪の女生徒の姿が見えた。


 今だ!


「――山田!」


 俺が声をかけると、茂みの中からザッと山田が忍者のように飛び出した。


「あいあいさー!」 


 ふふ、こんなこともあろうかと、山田にアリスちゃんを影から見張っておくように頼んでおいたのだ。


「アリスちゅわ~ん! 待つでござる!」


「きゃあああ!!」


 アリスちゃんが不審者にでも会ったかのような悲鳴をあげる。


 いや、確かに山田は不審だけれども。


「つーかまえたでござるっ!」


「いやっ、離して! 痴漢!!」


 アリスちゃんの体を押さえ込み、ゲヘゲヘと笑う山田。


「えへへ、アリスちゃん、プニプニしてて可愛いでござるなぁ」


「きゃああ! 変態!! お姉さまぁ!!」


 泣きわめきながら抵抗するアリスちゃんと、気持ち悪い笑みを浮かべながらアリスちゃんを取り押さえる山田。


 うーん、どう見ても変質者。


 まあ、いいか。とりあえずアリスちゃんは捕まえたし、あとは事情を聞くだけだ。


「山田ああああ! 何してる!!」


 と、いきなり茂みから渡辺さんが飛び出してきて、山田に鋭いドロップキックを浴びせた。


「ひでぶっ!」


 キックを受けた山田が地面に転がる。


「大丈夫!? アリスちゃん!」


 渡辺さんがアリスちゃんを助け起こす。


「え、ええ……」


 ポカンとした顔のアリスちゃん。


 俺は渡辺さんに向き直った。


「渡辺さん、何でここに!?」


「何でって、いつものように山田をストーキングしてたら、こいつ、いきなりアリスちゃんのこと襲うじゃん?」


 お前も山田のことストーキングしてたんかい!


「ち、違うっ、誤解でござる!」


「そうそう、これは俺が頼んだんだよ」


 俺はアリスちゃんの身柄を取り押さえると、渡辺さんの誤解を解いた。


 渡辺さんがポッと頬を赤らめる。


「なーんだ、そうだったのぉ!? 私ったら、将来の旦那が犯罪者になったら大変だと思って、つい……」


 渡辺さんがしゅんとなる。


「え、お前らって、そこまで話が進んでたの?」


 ビックリして山田の顔を見ると、山田はブンブンと首を横に振った。


「ち、違うでござる! 拙者たちは付き合ってもいないでござる! 大体、拙者のタイプは清楚なお嬢様タイプで、ギャルは苦手でござるからして」


「はぁ!? この私の愛が受け取れないってか!?」


「ひ、ひいぃ……」


 どうやら話を書くに、渡辺さんが一方的に山田に思いを寄せているらしい。


 分からん。こんな奴の一体どこがいいのか……。


 そんな渡辺さんと山田の様子を見て、アリスちゃんはポカーンと口を開けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る